演説

国連の場における演説

「第19回国連軍縮札幌会議」における
中根軍縮不拡散・科学部長冒頭挨拶

平成19年8月27日

 ご列席の皆様、

 本日、第19回国連軍縮札幌会議の開催にあたり、日本政府を代表して、ご挨拶する機会を得ましたことを、大変光栄に思います。会議開催に尽力された、国連軍縮部及び国連アジア太平洋平和軍縮センター、そして、開催地として準備にあたられた北海道及び札幌市の皆様に対し心から敬意を表します。また、化学兵器禁止条約発効10周年を記念して訪日されたフィルテル化学兵器禁止機関事務局長をはじめ、世界各国からの参加者の皆様を心から歓迎いたします。

 本日ご出席のデュアルテ国連軍縮部上級代表の下、国連軍縮部が新しいスタートを切られたことは、バン国連事務総長が軍縮・不拡散分野への取組を重視されていることの現れであり、歓迎いたします。我が国における国連軍縮会議は、軍縮・不拡散に対する国際的な議論を活性化する上で、重要な役割を果たし、国内外で高く評価されております。今回の会議が国際的な軍縮・不拡散の議論に大きな貢献を果たすことを祈念すると共に、北海道民の皆様、更には日本国民にとって、軍縮・不拡散と平和の問題を身近なものとして捉えるための良い機会となることを心より願います。

 現在の国際社会は、北朝鮮やイランの核問題、地下ネットワークを通じた大量破壊兵器やその運搬手段の拡散、さらには核テロの脅威など、厳しい挑戦に晒されています。これらの問題に有効に対応するためには、国際社会が一致団結して協力することがこれまでになく重要になっています。

 昨年10月の北朝鮮による核実験実施発表は、弾道ミサイル能力の増強を併せ考えれば、我が国のみならず、東アジア及び国際社会全体の平和と安全に対する脅威であり、NPTを礎とする軍縮・不拡散体制への重大な挑戦です。北朝鮮から誠意ある対応を得るために、国際社会が結束し、働きかけていくことが重要です。全会一致で採択された安保理決議第1718号も踏まえ、我が国は六者会合を通じて北朝鮮の核問題の平和的・外交的解決に引き続き努めます。

 また、イランについては、昨年12月以降、国連安保理決議1737及び1747が全会一致で採択され、国際社会の一致した意思を示しました。問題の平和的・外交的解決のためには、各国が安保理決議の義務を着実に履行するとともに、イランに対して、累次のIAEA理事会及び安保理決議に示された国際社会の声を受け止め、交渉に応じるよう、一致して働きかけることが重要です。我が国はイランの友好国として、様々なレベルでイランへの働きかけや対話を継続しています。

 近年、拡大するエネルギー需要への対応や、地球温暖化防止の観点から、国際的に原子力の平和利用推進の機運が高まっています。他方、原子力エネルギーの利用は、核不拡散、原子力安全、核セキュリティを確保した形で推進することが不可欠です。特に核セキュリティは、9.11米国同時多発テロ以降、国際社会全体が対処すべき新たな課題の一つとなり、近年、核テロ防止条約や改正核物質防護条約の採択を通じて、核セキュリティの強化が図られています。我が国も、本年8月3日に核テロ防止条約を締結しました。また、米露両国が主導する「核テロリズムに対抗するためのグローバル・イニシアティブ」には我が国を含む51カ国が参加するなど、国際的な関心も高まっています。核セキュリティの一層の強化のためにこうした取組を引き続き強化すべきです。また、原子力安全に関連して、7月に新潟で発生した大規模な地震について状況をご説明したいと思います。この地震によって柏崎刈羽原子力発電所も影響を受けましたが、原子炉の安全性は保たれており、外部に放出された放射性物質も極めて微量で、公衆や外部環境に何ら影響を与えるものではありませんでした。我が国はIAEA調査団を受入れ、共同で調査を行いましたが、先般公表された調査団の報告書においても「自動制御装置は成功裏に稼働し」、「放射性物質の漏洩による個人の被ばく量は規制値に比べて大変低い」と評価されています。我が国としては、今回の経験等を共有するため、9月に行われるIAEA総会の場で説明を行うとともに、我が国で国際ワークショップの開催を予定しており、これら情報の提供を通じて、我が国の原子力発電を巡る透明性が一層向上し、また、地震による影響の教訓が国際的に共有されることを期待しています。

 2005年のNPT運用検討会議及び国連首脳会合において実質的な合意が得られなかった原因の一つは、核軍縮及び核不拡散のいずれかを優先するかについての、核兵器国と非核兵器国との対立でした。しかし、国際的な軍縮・不拡散体制への挑戦が深刻化する中、「核兵器のない平和で安全な世界」という共通のビジョンの実現に向けて、一致して取り組むべきとの機運が高まりつつあります。我が国の天野ウィーン代表部大使が議長を努め、本年4月から5月にかけて開催されたNPT運用検討会議第1回準備委員会では、議題案をめぐる困難な状況においても、核兵器国と非核兵器国、或いは西側諸国と非同盟諸国といったグループ間の対立的構図に陥いることなく、核軍縮、核不拡散及び原子力の平和的利用のそれぞれを推進していくことで共通の認識に至り、2010年運用検討会議の成功に向け、良いスタートを切ることができました。これは、国際社会における「核兵器のない平和で安全な世界の実現」という共通認識への熱意の高まりだと言えるでしょう。

 さらに、10年近く停滞しているジュネーブ軍縮会議では、本年議長国からカットオフ条約の交渉や実質的議論を開始するための具体的な提案がなされました。
 核兵器以外の大量破壊兵器である化学・生物兵器についても、軍縮・不拡散のための取組みは着実に進展しています。化学兵器禁止条約は今年で発効10周年となりますが、特に近年は、フィルテル化学兵器禁止機関事務局長の卓越した指導力により、条約の普遍化や国内実施にめざましい進展がみられています。来年は、第2回運用検討会議が開催され、我が国は、創設10周年を迎えた化学兵器禁止機関と引き続き緊密に連携し、国際社会の努力に積極的に貢献していく考えです。また、昨年の第6回生物兵器禁止条約運用検討会議は、10年ぶりの最終宣言の発出に成功し、化学・生物兵器の軍縮・不拡散に関する国際社会の取組みが一層加速することが期待されます。

 我が国は今後も、唯一の被爆国として、広島、長崎の惨禍を再び繰り返してはならないとの強い決意のもと、国際社会の先頭に立って核軍縮・不拡散のための種々の外交努力を重ねていく所存です。我が国が、1994年以降毎年、国連総会に提出している核軍縮決議は、現実的、漸進的なアプローチにより核兵器のない平和で安全な世界を目指す我が国の強い決意の表れです。

 また、核軍縮を進める具体的な措置の一つとして、我が国は、包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期発効を重視しています。本年もNPT第1回準備委員会直前に、未批准の発効要件国10カ国に対してCTBTの早期批准を求めたほか、1月にはコロンビア、7月にはインドネシアのCTBT関係者を本邦に招聘し、CTBT早期批准の働きかけを行ったところです。我が国は、CTBT発効促進の機運を維持・向上させるために、本年9月の第5回CTBT発効促進会議への取組も含め、引き続き努力していく考えです。

 以上、軍縮・不拡散についての現状と課題、我が国の取り組みについて、申し述べました。「第19回国連軍縮札幌会議」において、皆様の活発な議論により、世界に向けた軍縮・不拡散の道筋が示され、有意義な会議となることを期待しております。
 御清聴ありがとうございました。

このページのトップへ戻る
国連の場における演説 | 平成19年演説 | 目次へ戻る