平成19年4月17日
(英文はこちら)
議長、
まずはじめに、気候変動と地球温暖化の安全保障上の影響に関する時機を得た会合を開催いただいた議長及び英国代表団のイニシアティブに謝意を申し上げるとともに、素晴らしいコンセプト・ペーパーを提示いただいたことに感謝します。
安全保障理事会がこのトピックに関しテーマ別討論を開催するのは今回が初めてであることは我々が承知しているとおりです。世界中の科学者及び経済学者は、今一度、かつてないほど明確かつ納得のいく形で、全人類が直面している、疑いのない、最も差し迫った、深刻かつ多面的な危機の一つに我々の注意を引きつけました。気候変動や地球の生態系に与える影響に関する研究が進み、IPCCやスターン報告チーム等により事実や予測が示される中で、科学的根拠の議論に終始し、現実的な政策及び行動に進まないことは、無謀であるばかりか極めて無責任なことです。
英国のコンセプト・ペーペーに述べられているものも含め、気候変動が国家安全保障に対する脅威となり得るのは明らかです。古代より、国家安全保障は、土地や天然資源の権利をめぐる紛争により脅かされてきました。近い将来、気候変動があらゆる形で国際紛争を引き起こす、あるいはそれを悪化させる条件や環境を生み出し、その結果、深刻な国家及び国際的な安全保障上の影響をもたらし得るということも理解できます。
また、最近発表されたIPCC報告や他の権威ある研究において指摘されているように、地球温暖化は、開発及び貧困削減政策に、様々な形で悪影響を与え得る条件や状況を生み出します。食糧生産に影響を及ぼし、自然災害が増加及び激化し、真水の供給が減少し、感染症がさらに蔓延するなどの可能性があります。人間の安全保障への影響が非常に深刻であるということも明らかです。
予想されているように、かかる影響を最も受けやすいのは貧困層ならびに最も脆弱な国及び社会です。予測される海面上昇は、小島嶼開発途上国や低地地域の生存に差し迫った脅威をもたらしています。我々は、新たに発生している地球上の現象ならびに持続可能な開発及び貧困削減政策の関連を認識しなければなりません。
議長、
気候変動は地球規模の課題であり、グローバルな対応、つまり、様々な分野における国際社会の一致した協力が求められます。この分野で、国連は、引き続き主体的役割を果たすのみならず、それぞれの権能に関連した、安保理を含む、国連システムにおいて関係する全ての機関を関与させることによって、より強力な役割を果たすべきです。なぜなら、この問題にかかるシステムの一貫性のためには、そうすることが不可欠だからです。
我々が直面している多くの課題や問題の中で、早急な対応が必要であり、実際、我々が行動する必要がある3点について、ごく簡単に触れたいと思います。
第1に、温室効果ガスの排出管理と効果的なポスト京都の枠組みを作ることが最も重要です。そして、先進国も途上国も同様に、地球温暖化につながる主要な排出に責任を有するできる限り多くの国がこの取り組みに参加することが最も重要です。現在、世界の温室効果ガスの排出量の約30%のみが、京都議定書の締約国によるものです。これは著しくかつ危険なまでに不十分なものです。国際エネルギー機関(IEA)の報告によれば、2004年における開発途上国による二酸化炭素の排出量は、地球全体の排出量の40%に達しており、現在の傾向が継続すれば、2015年頃までには、開発途上国からの総排出量はOECD加盟国の総排出量を上回るとされています。我が国の見解としては、新たなポスト京都の枠組みは、全ての国がその能力に応じ排出削減に取り組むことを可能とするとともに、真に地球規模での排出管理を最大化させ、総排出量をできるだけ早期に半減させる目標を追求しなければなりません。そうすることによって、開発政策と気候変動政策との間に存在する密接な関係を認識しなければなりません。
この関連で、中国の温家宝首相が、先週日本を訪問した際に、日中が環境保護協力の一層の強化に関する共同声明を発出したことについて触れたいと思います。その中で、両国は議論中の問題について共に取り組んでいくという見解で一致しました。
“「気候変動に関する国際連合枠組条約」及びその「京都議定書」の枠組みの下で、改めて、双方は「共通に有しているが差異のある責任」の原則に基づき、国際的な協力を通じて気候変動問題の解決に関する努力を行うという政治的決意を表明する。”
“双方は、上述の条約及び議定書の原則及び規定に基づき、2013年以降の実効的な枠組みの構築に関する過程に積極的に参加する。”
議長、
第2の課題は、原子力や再生可能エネルギーを含む、クリーン・エネルギーや新しい効果的な省エネ技術の開発や使用を支援することです。これは、明らかに、温室効果ガスの削減に不可欠な取り組みの一部です。二国間、地域間、国際間などあらゆるレベルにおける、かかる技術協力や交換は強化されるべきです。ここで、国連機関には、あらゆる可能な方法で奨励されるべき、進歩したクリーン・エネルギー及び省エネ技術の開発途上国への移転を促進することを含む、重要な役割があります。
関連しているが見逃せない第3の課題は、気候変動、特に、自然災害から発生する悪影響を予防し、軽減し、それに適応するという、すなわち、「適応」に関する問題です。スターン報告は、「強固で早期な対策によりもたらされる便益は、対策を講じなかった場合の被害額を大きく上回る。」旨述べています。地球温暖化があらゆる起こりえる有害な結果をもって進んでおり、なかなか改善しないという現実を否定できない以上、今すぐ、かかる行動が取られなければなりません。各国政府は、2005年1月に兵庫で開催された国連防災世界会議において合意された「兵庫行動枠組み2005-2015」の中の脆弱性や災害リスクを削減するために必要な措置を講じてきました。各国政府は、同時に、兵庫行動枠組みを実施することにより、気候変動をもたらしている排出を削減し、避けられない変化に適応するための緊急の措置をとる必要があります。
議長、
気候変動や地球温暖化をめぐるこれらや他の問題に対処するために、国連システムが、如何に包括的に、あるいは、如何に不十分に、能力を備えているかについて、加盟国が検討すべき時期が来ました。我が国は、気候変動を優先分野の一つとするというバン事務総長の意思を歓迎します。実際、我が国は、この分野における国連の役割を強化し、この議題を推し進めることを支援するために事務総長がとるあらゆるイニシアティブを歓迎します。その目的のために、事務総長が、おそらく安保理ではなく、より適当な総会によって、国連システムが全体として、この問題により効果的かつ一貫性を以って対処することができるように、その能力強化のための組織化を如何にうまく進めることができるかについて、できるだけ早期に、勧告を含めた報告を作成することを要請されることを提案します。報告は防災や災害軽減の調整に責任を有する国際防災戦略(ISDR)の事務局の役割や機能のような問題についても取り上げるべきです。
議長、
締めくくる前に、新たなポスト京都の温室効果ガス排出体制の交渉を含む、国連の内外における気候変動問題への国際的取組みにおいて、日本が積極的な関与を継続していくという強い決意について述べたいと思います。
気候変動は本年ドイツで開かれるG8サミットにおいて主要なテーマの一つとなります。また、2008年に日本がG8サミットを開催するときも、同様に、優先課題であり続けることが予想されます。
太平洋諸島フォーラム、アフリカ、カリコム等を含むアジア太平洋諸国との二国間及び多国間の開発協力やパートナーシップにおいて、日本は気候変動の影響を予防し、軽減し、それに適応するための事業に重点を置いてきました。将来は、かかる協力に一層の注意を払うことになると考えます。そのような協力やパートナーシップがどのような形でとられたか、今後どのような形でとられるかについて、いくつか紹介したいと思います。