
国連の場における演説
第45回社会開発委員会
議題3(a):万人のための完全雇用とディーセント・ワークの促進
高瀬国連代表部公使ステートメント(仮訳)
2007年2月8日
(英文はこちら)
(序文)
- 社会開発委員会のビューローメンバーの選出に祝意を表します。ビューロー及び事務局が今次委員会の準備に尽力されたことに感謝します。我が国は貴議長の指導力の下、本委員会の会期を通じて議長を支援し、協力していく所存です。
- 1995年の社会開発サミットから12年が経ち、我が国は人間中心のアプローチが政策立案の様々なレベルで定着したことを評価します。我が国は、人間中心のアプローチに基づき、個々の人間の安全保障を強化するとの「人間の安全保障」の概念を外交政策の中で重視しています。日本政府は、その政府開発援助政策の中で我が国の国際協力の最も重要な目標として、「人間の安全保障」を強調しています。これからも我が国は「人間の安全保障」を広めていくとの我が国の関心に基づいて、社会開発を促進するために協力をしていく考えです。
- ここで、今次委員会の主要テーマである議題3(a)「万人のための完全雇用とディーセント・ワークの促進」について、我が国自身の見方を紹介したいと思います。
(雇用)
- 経済のグローバル化及び技術革新は、雇用機会創出、生産性向上、及び経済成長を促すというプラスの影響を生み出しましたが、その恩恵を得ることなく、取り残されている人が多くいることも事実です。特に女性や若者のような社会的弱者はこれらの恩恵を得られずにいます。
- 急速なグローバル化と技術革新がもたらす利益を実現し、これを広く全ての人の間で配分することが不可欠です。事務総長報告「万人のための完全雇用とディーセント・ワークの促進」の中で、「人間の安全保障は雇用と緊密に結びついている」と述べられているように、雇用は単に所得獲得の手段ではなく、人間の脆弱性に直接的な影響を及ぼすものであり、個人が尊厳を維持するために重要な意義を有していると考えます。
- 高水準の持続的な経済成長を通じた「完全雇用」の達成を目指すとともに、単に失業の回避ではなく、全ての人にディーセント・ワーク、つまり「自由・公正・安全並びに人格的尊厳という条件で生産的な仕事」を確保することが重要であると考えます。以下、近年、世界的に、また日本においても深刻な問題となっており、また今回の社会開発委員会の「emerging issues」のテーマとして取り上げられる予定である若年雇用に焦点をあてたいと思います。
(若者)
- 日本では、少子化や景気回復の影響を受けて、若年者の雇用環境は改善の傾向にありますが、完全失業率については全体より高い水準で推移している。また、正社員ではない就労形態で生計を立てている若者や、いわゆる「ニート」と呼ばれる仕事にもついておらず、教育、訓練も受けていない若者が増えています。
- 若年者は就職氷河期においては良質な就業機会を得られず、職業能力を身につける上での重要な時期を不安定な就業で過ごすこととなり、結果として、十分なキャリア形成を図ることができません。さらに、近年では、こうした不安定な就業者が、より年齢の高い層にも見られるようになってきています。
- 若者は豊かな創造性、柔軟性を有し、知識や経験を蓄積することで、広く社会の発展に寄与する大きな可能性を秘めています。こうした若者の潜在能力を引き出すことで、経済社会が活性化され、ディーセント・ワークを生み出す基盤を構築していかなければなりません。
- 我が国は、若年者の雇用問題に対し政府全体として対策を講じるため、2003年に「若者の自立・挑戦のためのアクションプラン」をとりまとめ、同プランに基づき若年者の雇用問題に積極的に取り組んでいます。具体的には、若年者のためのワンストップサービスセンター(ジョブカフェ)を設置し、地方政府が地元の学校、教育機関、公共職業安定機関等と連携して、各種就職支援サービスの提供等をワンストップで行っています。また、ドイツのモデルにならい、企業実習と座学を一体として行うことにより職業人を育成する教育訓練である「日本版デュアル・システム」を推進しています。
- また、安倍総理大臣は昨年、国民一人一人がその能力や持ち味を十分発揮し、努力した人が報われ、勝ち組と負け組が固定化せず、働き方、学び方、暮らし方が多様で複線化している社会、すなわち全ての人が、人生の各段階で多様な機会が与えられ何度でも再チャレンジできる社会の実現を目指した総合的な「再チャレンジ支援策」の推進を政府の重要課題として掲げました。この支援策により、女性、高齢者及び若者の積極的な雇用を促進することを目指します。
(国際協力)
- 我が国は、雇用分野において、国内状況の克服に努力しつつ、国際協力、特に女性や社会の脆弱なメンバーへの支援を実施しています。具体的には、技術教育・職業訓練の提供、基礎教育及び高等教育の充実、我が国の高等教育機関への留学生の受け入れ等を通じた支援を実施しています。また、我が国は、2005年に、開発途上国の開発を進め、それにより自由貿易体制からさらなる利益を得られるようにする包括的支援パッケージ「開発イニシアティブ」を策定しました。このようなパッケージを通じた国際協力が、開発途上国の貿易促進を通じた持続可能な開発、ひいては雇用促進につながることを期待します。
- また、我が国のイニシアティブにより設置された「人間の安全保障基金」に対し、我が国はこれまで約297百万ドルを拠出しており、特に女性や社会的に脆弱なメンバーに留意しつつ、雇用創出、職業訓練協力等を行ってきています。右支援が、人間の尊厳の回復に繋がることを期待しています。
(結語)
- 全ての人がディーセント・ワークを享受できるようになるためには、国レベルでの取組及び国際レベルでの支援及び協力が必要であると考えます。我が国は「全ての人にディーセント・ワークを」との目標達成に向け、国際機関や各国とも協力して取り組んでいく所存です。