平成19年12月11日
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BWCの主要目的は生物・毒素兵器を禁止し、廃絶することである。しかしながら、生物テロの危険性や、生命科学の急激な発展といった昨今のBWCに対する挑戦を踏まえると、国内実施は、BWCの完全かつ実効的な履行の達成にとって、とりわけ重要な課題である。必要な国内措置を講じることへの締約国のコミットメントについては、昨年の運用検討会議でも締約国間の共通認識として再確認されている。国内実施が締約国会合のトピックとして取り上げられている本年においては、その重要性について認識するのみならず、締約国のコミットメントを踏まえて、国内実施の具体的要素について締約国間の更なる共通理解を深め、その理解を実際の行動に移していくことが今後のBWC強化にとって極めて重要である。
カーン議長から事前に送付されている統合ペーパーは、今次会合の議論を促進するものであり、カーン議長の努力に謝意を表したい。同ペーパーにおいて様々な要素が盛り込まれていることにも表れているとおり、一口に国内実施と言っても、その範囲は非常に広い。我が国としては昨年の運用検討会議でも表明しているように、条約の基本的な義務である国内法の整備に加え、輸出管理やバイオセキュリティ、教育及び啓蒙といった様々な分野での国内措置の実施が重要であると考えている。中でも本年の専門家会合の作業文書として提出しているように、継続的な見直しを含む国内法の整備・強化、そして法執行体制の強化が最も重要である。国内法の整備・強化と国内法執行体制の強化は2つで1つのセットであり、いずれが欠けても条約の完全かつ実効的な履行を達成することは困難である。本日は、今次締約国会合のトピックにあわせて、特にこの両者に焦点を絞ることとしたい。
(1)国内法の整備と強化
まず何より、自国の国内法で条約上の義務を全て担保することが必要である。更に、国内法を制定する上で重要なのは、然るべき罰則を規定すること及び国外の自国民にもこれを適用することである。
この点、我が国においては、BWCのための実施法を有しており、条約が求める内容に十分合致する形で、条約第1条の内容は禁止行為として同実施法において規定され、さらに適切な罰則規定が設けられている。また、他のテロ対策関連条約の批准に際して実施法を改正し、生物・毒素兵器の使用については、国外犯処罰規定が追加されるなど、実施法が強化されてきた。さらに、現在でも生物・毒素兵器の製造、所持、譲り渡し、譲り受け等についても新たに国外犯処罰規定を追加する法律改正について国会で審議が行われるなど、国内法の見直しを実践している。
締約国によっては、BWC実施法ではなく、他の既存の法律を組み合わせて担保しているケースもあるが、重要なのは条約の義務を完全に履行することであり、我が国の、感染症や輸出入管理に関連する他の法律もBWCの国内実施を補完・強化するものとして重要な役割を有している。
いずれにしても、各国は自国の法律が十分にBWCを担保しているものとなっているか改めて検討し、不十分であれば改正を行うなど、絶えず見直しを行っていくことが必要である。
(2)法執行体制の強化(国内当局の連携)
本年の国内実施のトピックには法執行機関の連携という視点が明示的に盛り込まれているが、法を整備してもそれを確実に執行できる体制が欠如していれば、条約の完全かつ実効的な履行を達成することは困難であり、その達成のためには、法整備に加えて、法執行機関の連携を構築することが不可欠である。
法執行体制の強化のためには、特に保健機関と警察機関との連携が非常に重要であり、さらに、全体の連携を調整するための統括機関の機能強化が不可欠である。
この点、我が国では大量破壊兵器の脅威を踏まえ、保健機関と警察機関を含めた政府全体として危機管理のための協力体制を整備している。また、武力攻撃事態等において、武力攻撃から国民の生命、身体及び財産を保護し、国民生活等に及ぼす影響を最小にするための、国・地方公共団体等の責務、警報、避難・救援・武力攻撃災害への対処等の措置を規定した国民保護法を制定し、右に基づく国民保護共同訓練を国と地方公共団体が連携して行うなど、法執行に携わる関係機関の連携にも取り組んできている。現在我が国では、全体の連携については内閣官房が統括し、かかる事態において、関係機関の連携が効果的に機能するための調整を行っている。
こうした当局間の連携に加えて、研究者、企業等の民間のアクターとも積極的に連携し、官民一体となって予防・対処体制を強化していくことが重要であり、我が国が今後取り組むべき課題でもある。
我が国は、今次会合を契機として、国内実施においては、国内法の整備のみならず、法執行の場面においても現体制を見直し、十分な体制を確保することが求められていることが締約国間の共通理解として確認され、BWCの一層の強化へと発展していくことを期待している。