演説

中川政府代表演説

国際原子力機関(IAEA)第51回総会
中川義雄政府代表演説
(内閣府副大臣)

平成19年9月17日実施

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1.序

議長、事務局長、ご列席の皆様、
 日本政府を代表して、議長閣下が国際原子力機関第51回通常総会の議長に選出されたことを心からお祝い申し上げます。また、バーレーン、ブルンジ、カーボベルデ、コンゴ共和国、ネパールが加盟する運びとなったことを歓迎します。

 本年7月、IAEAが設立50周年を迎えましたことに改めて祝意を表するとともに、IAEAの発展に貢献されてきたエルバラダイ事務局長及び職員の方々に敬意を表します。

議長、
 我が国では、本年7月に新潟県中越沖地震が発生しました。震源に極めて近い柏崎刈羽原子力発電所においては、激しい揺れに見舞われましたが、原子炉は設計どおり安全に停止し、周辺環境への影響は生じませんでした。しかしながら、同発電所内にある周辺の設備・機器が多くの影響を受けました。現在、同発電所の地震の影響について詳細調査を行うとともに、全ての原子力発電所の耐震安全性の確認を鋭意行っているところです。

 今回の地震で得られた知見を国際的に共有し、安全対策の更なる向上に役立てていくことは、世界有数の地震国である我が国の責務であると考えています。このため、先月、IAEAの専門調査団を受け入れました。詳細な調査を行い、速やかに調査団の報告書を取り纏めていただいたことに対し、IAEAに敬意と感謝の意を表します。

 総会期間中に開催される上級規制者会合においては、今回の地震によりこれまで得られている情報を提供し、知見の共有を図ります。また、各国専門家によるワークショップを開催したいと考えています。我が国としては、引き続き国際的な原子力安全の向上のために最大限の努力をしていく決意です。

2.原子力の平和的利用におけるIAEAの役割及び我が国の貢献

議長、
 近年、拡大するエネルギー需要や地球温暖化の観点から、原子力発電は、エネルギーの安定供給と地球温暖化対策の双方を追求する中核的手段として、国際的な導入拡大が見込まれています。本年5月に安倍総理が発表した地球温暖化対策のための新提案「美しい星50(Cool Earth 50)」においても、2013年以降の実効性のある国際的枠組みづくりに資するため、原子力の安全で平和的な利用拡大のための国際的な取組や、途上国の原子力導入のための基盤整備を始めとする支援を推進するとしています。

 原子力利用の導入・拡大にあたっては、核不拡散、原子力安全及び核セキュリティを確保することが不可欠であり、IAEAの役割はますます重要なものとなっています。現在、IAEAにおいては、原子力発電導入にあたって必要なインフラ整備の指標を示すマイルストーン文書が作成されています。これは時宜にかなったものであり、IAEAの努力を高く評価するものであります。

 原子力科学技術の知見や成果を効果的に利用するためには、二国間や多国間、さらに国際機関を通じての情報交換や経験の共有等の国際協力を推進すべきです。我が国がこれまでに培ってきた原子力の平和的利用の技術や経験は、核不拡散、原子力安全及び核セキュリティの維持・強化に役立つものと確信します。

 我が国では、2008年度から安全性、信頼性及び経済性に優れる次世代軽水炉の本格的開発に着手します。また、GIF、GNEP、INPROといった国際的な枠組みにも積極的に参画し、平和利用や核不拡散に資する第4世代原子炉や中小型炉の開発に係わる国際協力を積極的に進めます。また、昨日GNEPの閣僚級会合が開催され、多くのパートナー国の参加を得て、GNEP原則に関する声明に署名がなされるなど、新たな枠組みの下での協力が始まろうとしています。

 さらに、IAEAと連携しつつ、ベトナム、インドネシア、カザフスタンなど原子力発電新規導入国に対して、原子力発電の導入に不可欠な核不拡散、原子力安全、核セキュリティなどの基盤整備に係わる支援を行っていきます。

 我が国は、その重要性に鑑み、原子力科学技術に関する地域協力協定(RCA)に対して積極的貢献を行うとともに、アジア原子力協力フォーラム(FNCA)の開催を支援しています。このフォーラムは、アジア各国の水平的かつ自発的な協力関係を促し、アジア地域における原子力の平和的利用に大きな役割を果たしています。我が国としては、このような地域的枠組みを通じた協力についても積極的に行っていきたいと考えます。

 私は唯一の被爆国の国民として、核兵器は二度と用いられるべきではないという強い信念を持っています。原子力は、人類が慎重に、かつ理性を持って扱えば、人々の暮らしを豊かにする素晴らしい恵みとなり得ます。我が国は、1955年に「原子力基本法」を制定し原子力を導入した当初から、原子力の利用を平和目的に限定し、その後も1977年に締結したIAEA保障措置協定の誠実な履行、追加議定書の早期締結、統合保障措置の実施などによって、国際社会の信頼を得るために努力してきました。我が国では、青森県六ヶ所村の大規模商業用再処理施設の本格稼働に向けた取り組みが進められているなど、今後もさらなる原子力利用の拡大が見込まれます。我が国は、厳格に保障措置を適用することにより、原子力の平和的利用についての一貫した姿勢を堅持していきます。

3.核不拡散体制の強化

議長、
 現在の国際社会は、北朝鮮やイランの核問題、大量破壊兵器やその運搬手段の拡散、更には核テロの脅威など、厳しい挑戦に晒されています。核の拡散は国際の平和と安全に対する脅威であり、国際的な核不拡散体制の強化が急務です。

 我が国の天野ウィーン代表部大使が議長を務め、本年4月から5月にかけて当地ウィーンにおいて、NPT運用検討会議第1回準備委員会が開催されました。困難な局面はあったものの、核軍縮、核不拡散及び原子力の平和的利用のそれぞれを推進していくことで共通の認識に至り、2010年の運用検討会議の成功に向けて良いスタートを切ることができました。これは、NPT体制強化における重要なステップであったと考えます。

 核不拡散体制強化のためには、IAEA保障措置を強化することが不可欠であり、追加議定書の普遍化はそのための最も現実的かつ効果的な方途であると考えます。このため我が国は、特にアジア地域を中心として、積極的な活動を展開しています。最近の例では、昨年7月にシドニーで開催されたIAEA主催の保障措置関連セミナーや、先月IAEA及び豪の協力を得てベトナムで開催された追加議定書セミナーなどがあります。先月、ベトナムが追加議定書に署名したことは喜ばしいことであり、また、締約国数は過去三年間で39から83箇国に増えるなど普遍化に向けた進展がありました。追加議定書を未だ締結していない国に対し、改めて早期締結を呼びかけます。

議長、
 昨年10月の北朝鮮による核実験実施発表は、弾道ミサイル能力の増強を併せ考えれば、我が国のみならず、東アジア及び国際社会全体の平和と安全に対する脅威であり、NPT体制への重大な挑戦です。この観点から、安保理決議1718号の着実な履行が重要です。六者会合において、既に、寧辺の活動停止などの「初期段階の措置」は実施され、現在、「次の段階」の措置に関する議論が行われています。我が国としては、引き続き、拉致・核・ミサイル等の諸懸案を解決し、国交正常化を実現するとの観点から、六者会合を通じた核問題の平和的解決にも積極的に取り組んで参ります。また、北朝鮮におけるIAEAの監視・検証活動に対し、前向きに貢献を行っております。

議長、
 イランは遺憾ながら、国際社会の要求に反して、ウラン濃縮関連活動を継続・拡大しています。「未解決の問題」の解決に向けて、イランがIAEAとの協力に誠実に応じることを希望します。しかし、この問題の解明のみをもって、イランの核問題に対する国際社会のすべての疑念が払拭されるわけではありません。イランは、ウラン濃縮関連活動及び重水関連計画の停止や追加議定書の締結・履行を始めとするIAEA理事会及び国連安保理決議の要求に真摯に従い、国際社会の信頼を回復するために一層努力しなければなりません。我が国は、問題の平和的・外交的解決に向けて、引き続き国際社会と一致して行動していく考えです。

議長、
 国際的な核不拡散体制の強化と原子力の平和的利用の両立を目的とした燃料供給保証に関する様々なイニシアティブが提案されてきました。我が国も、実効的で、IAEA加盟国にとって幅広く受け入れられる枠組作りに貢献するため、日本提案を行いました。本年6月、これらの様々な提案を踏まえて作成されたIAEA事務局長報告が提出されたことを評価します。今後、IAEAの場で議論が深められることを期待しており、我が国としても、このような国際的な議論に引き続き積極的に参加していきます。

4.核テロ対策

議長、
 核テロリズムの脅威に対抗するためには、国際社会が団結して核セキュリティ問題に取り組むことが不可欠です。この観点から、核テロリズム防止条約が発効したことを歓迎するとともに、本年8月、我が国が同条約を締結したことをこの場でお伝えすることを嬉しく思います。また、我が国は、改正核物質防護条約の早期の締結に向けた国内の検討を進めます。昨年11月、我が国は、IAEAの核セキュリティ基金への拠出を通じ、IAEAと共催してアジア地域の核セキュリティ向上のためのセミナーを開催しました。今後ともこの点に関するIAEAの活動に積極的に参画していきます。

 昨年7月、米露首脳により発表された「核テロリズムに対抗するためのグローバル・イニシアティブ(GI)」においては、核セキュリティ分野におけるIAEAの役割と活動の重要性が認識されています。我が国は、イニシャル・パートナーとして、当初から本イニシアティブを支持し、積極的に参加しています。引き続き、この分野におけるIAEAの重要な役割を踏まえつつ、本イニシアティブを含めた核テロ対策の取組に関し、国際社会と協力していきます。

5.原子力安全

議長、
 原子力の平和的利用を推進するためには、安全確保が大前提です。特に、原子力安全規制に関する先進的な取組を行っている各国規制機関がハイレベルで国際的な政策対話及び相互評価を行っていくことは、有益であると考えます。この点に関し、我が国は、本年6月、総合的規制評価サービス(IRRS)を受け入れました。この結果を原子力エネルギーの利用国と幅広く共有し、国際的な原子力安全の向上に貢献していきます。

 また、昨年、我が国では全ての発電設備の総点検を行い、本年4月にその評価と今後の対応についてまとめました。我が国では、データ改ざん等を防止するため、2003年から規制制度を強化しています。この総点検の結果を踏まえ、我が国の原子力安全を更により強固なものにすべく取り組んでいきます。

議長、
 原子力の平和的利用のためには、放射性物質の安全な輸送が不可欠です。我が国は、「航行の自由」の原則の下、国際基準に従って、最大限慎重な措置を講じた上で、輸送を行っています。引き続き、放射性物質の安全な輸送に努めるとともに、輸送国と沿岸国との信頼醸成のための対話も積極的に継続していきます。IAEAの場における輸送安全に関する有益な活動や、輸送国と沿岸国の建設的な協議について、国連等の他の国際機関の場においても理解が深まることを期待します。

6.IAEA予算

議長、
 世界の平和と安全の確保を担うIAEAの役割は益々増大しています。拠出国の厳しい財政状況の中で、IAEAの活動をいかに支援していくかは、重要な課題であると考えます。我が国は、事務局長が表明した、計画及び予算の10年計画の作成及びハイレベル・パネルによる作業に注目しています。我が国としては、事務局が、マネジメントに係る知見を十分に生かし、事業の優先順位設定と経費削減により、予算の一層効率的な運用を図るよう求めます。

7.結語

議長、
 このように重要な課題が山積する中で、IAEAの重要性は一層高まっています。我が国としてもIAEAがその重要な使命を達成するよう引き続き貢献していくことを約束し、演説を終わります。

 御清聴有難うございました。

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