平成19年12月26日
於:日本経団連会館
(英語版はこちら)
わたくしからは、気候変動問題をお話したいと思っております。
いまさら申すまでもなく、全国民挙げての取り組みが必要な、大切な問題です。
とりわけ産業界の皆様に、改めて強いご支援をいただかなくては先に進んでいけない問題でありますので、少しお時間を頂戴いたしまして、わたくしの考えを申し述べようと思いました。
来年我が国は、「TICAD IV」と「G8サミット」という、大きな会議を夏までに2つ開きます。
先日は経済界の方々と食事を共にしつつ、TICAD IVに向けて官民連携のあり方を議論するという、貴重な時間を持つことができました。
どちらの会議でも、温暖化をどう食い止めるかが当然議論になります。
主要排出国との関係や、アフリカ諸国を始めとする途上国との関係をどうしていくか。我が国の国益を実現するために、日本外交の真価が問われる機会だと思います。
外務省として、ここはふんばりどころでありますが、ぜひ皆様にも引き続きご支援を頂きたく、よろしくお願いいたします。
今月はご承知のとおりインドネシアのバリ島で、気候変動に関する大きな会議がありました。
環境NGOの一部などからは、いろいろとご批判を頂戴しております。
「次の枠組みは、京都議定書を超えたものを」とわたしたちが主張いたしますと、「日本は京都を否定するのか」とお叱りをいただく、といった具合であります。
わたしどもが言いたいのは、米国、中国、インドといった主要排出国を含む、「すべての国」を入れた枠組みを作りましょうということであります。
「もう京都はいいからやめよう」などと、日本は一度も言った覚えがありません。
京都議定書での約束は国際法上の義務であり、確実に果たせねばなりません。
「温室効果ガスの排出量を、1990年のレベルに比べ、来年以降2012年までに、6%減らす」というのが、日本が京都議定書でした約束であります。
逆に排出量が増えている現状で、結果としてこの約束を守れたとなると、日本の評判をまたひとつ上げることができるでありましょう。
そのためにはクリエイティブな政策の実施が焦眉の急でありますから、皆様にはぜひご理解を賜りたいところです。
しかし何はともあれ、2013年以降の枠組み交渉を、なんとか始められる運びになりました。そこは、バリの収穫だったと思っています。
日本はいま言いましたように、米中印といった国々を含む枠組みづくり、それから途上国にも目配りをした、実効の挙がる仕組みづくりというものを、来年はTICAD IV、サミットを通じた一大テーマとして推し進めていくつもりです。
地球温暖化の現状について、今さら多言は要しないと思います。
バリ島の会議にあわせて、IPCC、即ち「気候変動に関する政府間パネル」が、第4次の報告書を出しました。
もう「執行猶予」はいかなる意味でもない、ということが、はっきり出ております。
いよいよ我が国としても、具体的な独自提案を準備しないといけない時期にきております。
2050年までに50%減らすのだ、ということを、日本は声を大にして言っておりますが、そこに到達するまでの中期目標がなんとしても必要です。
国毎というのでなく、電力、鉄鋼といった分野毎に、関係各国がエネルギー効率改善に取り組む「セクター・アプローチ」については、つとに皆様も関心をお持ちです。
これについての提案もまとめたいと思っていますし、そのほかの経済的手法、例えば排出量取引についても、国際的な趨勢を見ながら、具体的なアイデアを出さないといけない時期に来ていると思います。
これは、温暖化の進行を緩和させようとする努力ですが、さっき申しましたIPCC報告書にもありますように、旱魃とか熱波、洪水という異常気象の被害が、今後ますます広がる懸念が強まっています。
途上国が温暖化による悪影響に直撃されますと、そのせいで開発も遅れ、たいへん悲劇的な悪循環が始まりかねません。
いま政府では、途上国向けの新しい資金メカニズムというものを考えております。
途上国には、温暖化による悪影響のリスクに、まずは「適応」する能力を持ってもらわないといけません。
それと「開発」が両立でき、なるべく良い循環に乗せていけるよう、努めてもらわなくてはなりません。
さらに、温暖化の進行を「緩和」すべく、よりクリーンなエネルギーの利用を促進することも必要です。
こうした途上国の努力を助けようというのが、新しい資金メカニズムです。
今般編成された予算も踏まえ、ODAに限らず、日本の持つ様々なツールを活用して、しっかりしたものを作り上げるつもりです。
これを活用しつつ、途上国支援、とくに「適応」へ向けての手助けということを、やっていかねばならないと思っています。
そのことが、将来の実効的な枠組み作りにもつながるはずであろうと思います。
最後にもう一点、申し上げます。
2013年以降の枠組みにおいて、我が国が、とりわけ我が国の企業が、どんな役割を果たせるかということです。
思いますに日本はその際、「技術」と、それから「心がけ」の両面で、世界に貢献できるのではないでしょうか。
まず、「技術」については、特に皆様方民間の力を、存分に活かしていくべきであろうと思います。
家電製品なども、消費電力が劇的に少なくなっているようです。
ハイブリッドの自動車は申すに及ばず、省エネ製品を世界でどしどし売っていただくことは、皆様の利益になり、温暖化緩和にも役立ちます。
政府としては、いささかでも役立つべく、温室効果ガスの削減に効果のある製品に対する関税の自主的削減、又は撤廃を、国際社会に働きかけてまいります。
これは、ドーハラウンドの早期妥結を目指した取組と並行してやりたいと思いますし、政府調達におけるいわゆるグリーン購入の促進も併せて呼びかけます。
いま新潟の岩野原で、「CCS」というのですか、二酸化炭素を集めて地中に貯蔵しておく実証実験が進んでいます。
日本は特に回収技術に優れており、米国やヨーロッパと共にどんどん走っていきたいと思います。
それから燃料電池を使った車ですとか、普及に早くメドがつくといいと願っております。十分安くなったら、わたしも買わせていただきます。
同時に「心がけ」についても、日本は世界にいろいろ言えることがあると思っています。
ここ数年来、我が国は、いろんなアイデアを出してきました。
例えば国連が今から5年前、2005年からの10年間を「持続可能な開発のための教育の10年」にしようと決めておりますが、これは日本の提案によるものでした。
また、例の「3R」という、Reduce、Reuse、Recycleの、3つのRを実行していく、よい心がけの社会をつくろうという発想を含めまして、わたしは、「これが日本モデルだ」、といえるものをまとまって世界に発信し、世の中の啓発に努めていくことも、我が国の大事な仕事ではないかと、そう思っております。
最後になりましたが、皆様にはぜひよいお年をお迎えになりますよう祈念いたしまして、わたくしからのご挨拶とさせていただきます。
ありがとうございました。