演説

福田総理大臣演説

日豪経済合同委員会会議における
日豪通商協定締結50周年記念
福田内閣総理大臣特別スピーチ

平成19年10月22日
於:帝国ホテル
英語版はこちら

 今井会長、エディントン会長、ご列席の皆様、

 本日は、第45回日豪経済合同委員会会議でスピーチをする機会を頂き、嬉しく思います。

 本年は日豪通商協定50周年という節目の年でもありますが、こうして多くの日豪両国の経済界を代表する皆様を前にお話しできるということは、この50年間で、いかに我が国とオーストラリアとの交流が進んできているかを如実に示しているものと思います。

 日豪関係の絆は、この半世紀程に真に太く充実したものとなりました。今日オーストラリアは、日本にとってアジア太平洋地域で最も重要なパートナーの一つであります。

 歴史をひもとけば、日豪通商協定の締結は、日豪両国が不幸にも戦火を交えた第二次世界大戦の記憶がまだ冷めない1957年のことであり、当時は大きな政治的議論を引き起こしたと聞いております。

 しかし、両国の発展を願い、そのために汗を流した、先駆者達の勇気ある決断によって結ばれたこの協定は、その後の経済関係を中心とした日豪間の強固なパートナーシップの礎となりました。

 近年、日豪両国の関係は、貿易・投資分野にとどまらず、政治・安全保障の分野も含む、「包括的な戦略的関係」と呼べる段階に入っており、地域及び国際社会の平和と繁栄に対しても共に取り組むようになって来ています。

 日豪経済合同委員会は、1963年に東京における第1回開催以来、毎年日豪交互に開催され、両国間の橋渡し役として日豪経済関係の緊密化に大きな役割を果たしてこられました。

 本日、私は、日豪通商協定の50周年の歴史を祝うとともに、次の50年を見据え、両国がさらに強い絆で結ばれるために、3つの具体的な協力の分野についてお話したいと思います。

 第一に、本日の会議にご出席の皆様に最もかかわりの深い経済であります。

 これまで日豪経済関係は、オーストラリアからわが国への資源エネルギーの輸入、わが国からオーストラリアへの自動車や機械の輸出という、きわめて相互補完的な関係で発展してきました。

 例えば、石炭や鉄鉱石といった、我が国の産業に不可欠な資源は、輸入量の5割以上をオーストラリアに頼っております。日本人は、エネルギーというと中東の国々を想起することが多いのですが、天然ガス(LNG)、ウランについてはオーストラリアは我が国にとって主要供給国であります。オーストラリアは我が国にとって中東と並ぶ重要なエネルギー供給国なのです。

 食料では、輸入牛肉のオーストラリア依存度は9割近くにのぼりますし、オージービーフの名前もすっかり国民の間に定着しました。 

 最近、オーストラリアの記録的な干ばつによって小麦価格が上昇し、うどんの値段が上がったこともニュースになりました。オーストラリアの供給事情が日本の国民の食卓を直撃しています。

 日本経済にとって、国民にとっても、オーストラリアは大変大きな存在、不可欠な存在となっていると言っても過言ではないでしょう。

 一方で、オーストラリアは、わが国の工業製品にとって重要な市場でもあり、例えば、オーストラリアで販売される自動車の約半数は日本車であると承知しています。

 両国間の経済関係進展の主役はもちろん皆様、民間の方々ですが、政府としても良好な環境整備のための努力を行なってきています。日豪両政府は、WTOドーハ・ラウンドの早期妥結に向けて緊密に協力を行っています。

 また、2005年から行なってきた政府間共同研究の結果、包括的かつWTO整合的な経済連携協定は、日豪両国に大きな利益をもたらすとの結論に達し、両国間の戦略的関係を一層強化するとの観点から、昨年12月、本件交渉を開始することを決定しました。

 本年4月には第1回交渉が開始され、本年11月には第3回の交渉が見込まれています。交渉においては、お互いのセンシティビティに十分配慮しながら、資源・エネルギーの安定供給など、日豪の経済関係の深化につながるものとしていくべく、建設的に議論していきたいと思います。

 経済連携協定交渉の他にも、皆様の日々の経済活動に直接役に立つような政策も、政府として引き続き推進していきたいと思います。

 具体的には、本年2月には、年金制度の二重加入問題等を解消するための社会保障協定の署名が行われたほか、二重課税の回避及び租税回避の防止の問題等に対応するための租税条約改定に取り組み、本年8月、その基本合意が達成されたところです。

 これまでの50年間の日豪間の強固な関係を、次の50年を見据えて発展させていくには、両国の将来を支える若い世代の育成は、きわめて重要な課題であります。

 この観点から、我が国は、来年から新たに、オーストラリアからの経済界を中心とした若手社会人を、年間50名程、我が国に招き、次の日豪関係を担う原動力として育て、両国の相互理解を促進していきたいと思います。

 このように、両国政府間では、日豪経済関係進展の環境整備のための様々な取り組みを行なっていますが、私は、今後の日豪経済関係はいくつかの面において、新たな局面を切り開いていく事になると考えています。

 まず、資源や工業製品の貿易投資関係の重要性に変わりはないものの、これにとどまらない、新たな分野での両国経済関係の進展が望まれるのではないでしょうか。

 例えば、昨今の両国間の活発な人的交流に鑑みれば、観光、教育、研究開発等の分野における日豪関係の進化が大いに期待されます。IT、バイオなどの先端分野においても両国のパートナーシップを一層進めていくことができると思います。

 今後、日豪両国の協力関係は、従来の二国間の関係のみにとどまらず、東アジア地域、アジア太平洋地域といったリージョナルな取り組みにおける連携が今後極めて重要になるものと考えています。

 本年オーストラリアが主催したAPECでも日豪両国の連携により多くの成果がありましたが、2010年のAPECホスト国であるわが国としては、この日豪の協力関係をうまく活用しながら、地域間の連携を更に強化していきたいと考えています。

 第二の協力分野は、安全保障であります。近年、日豪関係は、経済分野のみならず、安全保障の分野でも進展し、地域の安定に大きく貢献しています。

 激動する国際情勢の中、我が国は、世界平和に貢献する外交を展開してきているところですが、その中でオーストラリアと安全保障上の課題で協力を積み重ねてきました。

 自衛隊とオーストラリア軍が協力してイラク復興支援に取り組んだことは記憶に新しいところであります。また両国は、カンボジアや東チモールの国連PKOなどでの協力の実績もございます。

 今日の国際社会においては、相互依存の進展、グローバル化により、今までにない急速なヒト・モノ・カネ・情報の移動がもたらされ、大きな恩恵を受けている反面、我が国から地理的に離れた地域での安全保障上の課題であっても、我が国にその脅威や影響が及びうることが懸念されるようになっております。

 こうした課題には一国だけで対応していくことが困難であります。特に、北朝鮮を巡る問題を含め、依然として多くの安全保障上の課題を抱えるアジア太平洋地域においては、各国が協力して課題に対処していくことが、ますます重要となってきていると言えます。 

 こうした中、基本的価値を共有し、共に米国の同盟国である、我が国とオーストラリアが、安全保障面での協力を強化していくことは、地域と国際社会の平和と安定に大きく貢献することになるものと思います。

 第三の協力分野は、地球温暖化問題であります。グローバル化は、様々な地球規模の問題ももたらしています。

 その中でも、地球環境問題への取組は、持続可能な社会の実現のために待ったなしの課題です。

 来年開催される北海道洞爺湖サミットに向け、気候変動問題をはじめとした地球環境問題への取組は極めて重要な政策課題と位置づけられております。

 地球環境との調和を図りつつ、人類が発展を続けることは可能であり、環境保全と経済発展を両立させる必要があると考えます。

 特に、環境・エネルギー分野において世界最高水準の技術を有している我が国は、その両立に大いに貢献することができると思います。

 我が国は、世界全体の温室効果ガス排出量を現状に比して2050年までに半減するという長期目標を世界共通目標とすること、2013年以降の国際枠組み構築に向けた3原則などを提案する「美しい星50」を発表し、各国からの理解・賛同と協力を得るべく働きかけてきています。

 本年9月に行われた日豪首脳会談時に発表した共同声明では、オーストラリアはこうした我が国のイニシアティブを「新たな枠組みに関する前向きな貢献」として評価すると共に、両国は気候変動及びエネルギーに関する二国間協力を更に強化することを確認しました。

 例えば、両国が参加するアジア太平洋パートナーシップにおいては、先週インドで閣僚会合が開催され、かつ官民連携によるセクター別アプローチの有効性を確認するなど緊密な連携がなされております。

 我が国としては、この共同声明に基づき、地球温暖化防止へのグローバルな取組における重要なパートナーとして、オーストラリアとの協力を進めて参ります。


 ご列席の皆様、

 これまで申し上げたとおり、日豪両国の協力を更に進めていけば、アジア太平洋地域、そして国際社会の平和と繁栄に主導的な役割を果たしていくことができるものと思います。

 そのためには官民を挙げた取組が重要であります。今回の会議には、日豪両国の経済界のリーダーが多数出席されております。これは両国の関係強化への双方の期待の高さを示すものと思います。

 私は、日豪両国関係の一層の発展を確信し、政府としてもその役割を十分に果たしていきたいと考えております。

 最後になりましたが、今回の会議のご成功と、日豪経済合同委員会会議の一層のご発展を祈念して、私の挨拶とさせて頂きます。

 ありがとうございました。

このページのトップへ戻る
福田総理大臣演説平成19年演説目次へ戻る