演説

須田国際テロ対策大使演説

マラッカ・シンガポール海峡に関するクアラルンプール国際会議における須田国際テロ対策大使スピーチ
「マラッカ・シンガポール海峡における日本の貢献と協力の基本方針」

平成18年9月18日

英文はこちら

  1. 本会合の第2回の開催を歓迎する。ホスト国マレーシアのナジブ副首相兼国防相、チャン・コンチョイ運輸相、調整の労を執られたIMOのミトロプロス事務局長に感謝する。
  2. 今日、マラッカ・シンガポール海峡の重要性はますます増大している。特に、アジア地域の経済成長に伴い、利用国の数、通航量の増大とともに、同海峡の通航の重要性が高まっており、様々な形での国際協力が一層必要となっている。そのような観点から、IMOの調整の下、昨年ジャカルタでの第一回会合に続き、本年ここに本会議の第二回会合が開催されることを我が国として歓迎し、重視している。我が国として、全ての関係国が参加し、マ・シ海峡を巡る諸問題を包括的に議論するこのプロセスの下での国際協力を進めていくため、積極的役割を果たしていく決意である。
  3. (1)このプロセスの下での協力の原則として、我が国としてマ・シ海峡における沿岸国の主権を完全に尊重し、海峡における事業は主権国が主体となって行うべきことを再確認したい。その上で、受益者負担の精神と事業の実効性の向上のため、利用国による協力が行われる必要がある。マ・シ海峡における問題解決には、沿岸国による主体的取り組み、沿岸国間での相互協力、沿岸国の努力に対する利用国の支援が不可欠である。

    (2)我が国は、マ・シ海峡の諸問題に対し、「Tripartite Technical Experts Group」の果たしてきた役割、海上安全確保のための「Eyes in the Sky」等の共同パトロール等、沿岸国の相互協力に基づいた主体的取組みを評価し、一層の進展を期待する。また、IMOのイニシアティブによる海洋電子ハイウェー(MEH)は、マ・シ海峡の環境保全に加え、航行安全及び海上安全保障にも資するプロジェクトであり、我が国はそのデモンストレーション・プロジェクトの開始を歓迎する。

  4. マ・シ海峡を巡る問題は多角化しており、航行安全、海上安全保障、環境保全への包括的取り組みが必要である。我が国は従来、海峡の主要利用国として、受益者負担の精神により、海峡の航行安全、海上安全保障、環境保全に官民で積極的に取り組んできた。政府としては、海上保安庁による専門家派遣、セミナー開催、共同訓練、インドネシアの沿岸無線整備、GMDSS整備、共同水路測量、電子海図の整備等、沿岸国の人材育成とインフラ整備などの技術支援と経済支援両面での国際協力を実施している。本年6月には、インドネシアに対する巡視船の供与についても決定した。また我が国は、インドネシアの「船舶航行安全システム整備計画」に対する調査を2001~2002年に実施、マラッカ海峡の狭隘部の船舶航行安全等を更に強化していくため、船舶航行安全システム(VTS)センターの設置等、同計画の重要な部分への無償資金協力を来年にも実施するために、引き続き各種調査を行っていく。民間部門も、海峡の航行安全のための航路標識の設置、環境保全のためのオイル・フェンスの供与、マレーシアの法執行機関に対する練習船供与等、1968年からの累積で、150億円以上に上る多大な貢献を行ってきた。
  5. 我が国は、マ・シ海峡の主要利用国として、海峡の安全に大きな関心を有している。マ・シ海峡の海上の安全を確保するためには、沿岸国と利用国間の協力の強化と、沿岸国の取締り能力の向上を図ることが重要であり、そのためには、関係国間の情報共有の強化、利用国による沿岸国に対する支援が必要である。
  6. 情報共有の強化と取締りにおける協力に関し、9月4日のアジア海賊対策地域協力協定(ReCAAP)の発効を歓迎する。ReCAAPが、今後マ・シ海峡を含む地域の海域における海上安全の確保において、重要な役割を果たしていくことを期待する。我が国も財政面等での支援を実施していく。また同協定がより実効的なものとなるためには、インドネシア、マレーシアの協定への参加が不可欠である。更に効果を発揮するためには、中国等の参加も不可欠であり、これらの国の参加を改めて慫慂したい。
  7. (1)また、狭隘で通航量の多いマ・シ海峡はテロ攻撃に対して脆弱であり、海上におけるテロの可能性も重大な懸念となり得る。「テロとの闘い」は、テロの主体、手口等が多様化する傾向の中、複雑で、引き続き息の長い取組が求められており、以前にも増し、テロ対策の強化と国際協調が必要である。2005年12月の日ASEAN首脳会議での合意を受け、我が国とASEANとのテロ対策協力を一層強化するため、6月末、日ASEANテロ対策対話が東京で開催された。同対話において、海上安全が優先協力分野の一つとされ、今後我が国とASEANの間の協力を検討していくこととなった。

    (2)こうしたテロ・海賊対策を含む治安対策強化のため、我が国は本年度より70億円規模のテロ対策等治安無償を新設した。海上安全については、海上取締船舶、港湾・空港保安、法執行機関の能力強化等に対する支援が想定されており、2006年6月、インドネシアに対する巡視船艇整備計画のE/Nを締結した。今後も海峡における海上安全のための事業に対する支援の供与につき、検討を進めていく。

    (3)また、2005年12月の日ASEAN首脳会議において、我が国がASEAN統合支援として7,000万米ドルを拠出する旨表明し、2006年3月、日ASEAN統合基金(JAIF)が設立された。航行安全、海上安全保障、環境保全等マ・シ海峡の諸問題についても、同基金の活用が検討されることを歓迎する。

  8. 本会合のような多国間や二国間の対話を通じ、テロ対策等治安無償、日ASEAN統合基金等も活用し、マ・シ海峡の航行の安全、海洋安全保障、環境保全の諸問題に対し、我が国として具体的な協力の検討を更に進めたい。世界各国にとっても極めて重要な海上交通路であるマ・シ海峡が、沿岸国の主権と受益者負担のバランスに考慮しつつ、経済成長著しい新興利用国を含めた適切な費用分担の下に、安全かつ開かれた海峡であることを確保しなければならない。沿岸国と利用国間の協力のあり方、沿岸国への国際的な支援のあり方について、本プロセスの下、参加国の間で実りある議論が行われることを期待する。
このページのトップへ戻る
政府代表・幹部・大使・総領事平成18年演説目次へ戻る