演説

松田政府代表演説

国際原子力機関第50回総会
松田岩夫政府代表(科学技術政策担当大臣)演説(仮訳)

平成18年9月18日

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1.序

議長、事務局長、ご列席の皆様、
 日本政府を代表して、議長閣下が国際原子力機関第50回通常総会の議長に選出されたことを心からお祝い申し上げます。また、マラウィ、モンテネグロ、モザンビーク、パラオが近く加盟する運びとなったことを歓迎します。
 また、昨年、エルバラダイ事務局長及びIAEAがノーベル平和賞を受賞したことに心から祝意を表します。

議長、
 我が国は、唯一の被爆国として、世界に核廃絶を訴えていく使命があると考えます。来年のIAEA設立50周年を前に、すべての国に対し核兵器のない平和で安全な世界を実現するために決意を確固たるものとするよう改めて訴えます。
 我が国は、IAEAのこれまでの活動を高く評価しており、今後とも我が国として種々の分野で協力していく考えです。この一年間、天野在ウィーン日本国政府代表部大使がIAEA理事会議長を務めましたが、これはIAEAの運営に対する我が国の貢献の一例だと考えます。
 今回の総会を皮切りに、今後、IAEA設立50周年を記念する様々なイベントが開催されると承知しております。我が国の貢献の一環として、来年4月、我が国において、原子力エネルギーに関するシンポジウムをIAEAと開催する予定ですが、私は、このシンポジウムが、幅広い国々の参加により成功することを願っています。

2.原子力の平和的利用とIAEA

議長、
 近年、原子力エネルギーの果たす役割が改めて見直され、国際的に原子力の平和的利用推進の気運が高まっています。原子力エネルギーの利用は、核不拡散、安全、セキュリティに十分配慮して推進することが求められていることから、IAEAの果たす役割はますます重要となってきています。
 我が国は、30年近くにわたりIAEA保障措置協定を誠実に履行し、高い透明性を持って国際社会の信頼を得つつ、原子力の平和的利用を推進してきました。その結果、2004年9月より統合保障措置が実施されています。我が国は引き続き保障措置の厳格な実施に最大限協力を行いたいと考えます。
 また、昨年10月には我が国の原子力政策の基本的考え方を示した「原子力政策大綱」を策定しました。我が国は、原子力政策大綱に明記したとおり、原子力の利用を平和目的に限定するとともに、原子力発電を基幹電源としつつ、核燃料サイクルの確立を図ることを基本としています。また、我が国は、エネルギー安定供給や放射性廃棄物の低減の点で利点のある高速増殖炉サイクル技術の研究開発を進め、成果を内外に発信し国際的に貢献します。

3.核不拡散体制の強化

議長、
 国際社会としてNPT体制を強化する必要があります。追加議定書の普遍化、NSGガイドラインの改正、保障措置・検証諮問委員会の設置など進展が見られた分野もありますが、国際的な核不拡散体制は、北朝鮮やイランの核問題などに見られるよう引き続き深刻な状況にあります。核の拡散は、国際の平和と安全に対する脅威であり、各国の安全保障に直結する問題です。この観点から、我々は、核不拡散体制の強化のための努力を倍加する必要があります。

 現在の核不拡散体制を強化するため、エルバラダイ事務局長が提唱した原子力の多国間管理(MNA)の構想を始めとして、ロシアの国際センター、燃料供給保証に関する六ヶ国構想、更には研究開発を含めた国際協力としてのGNEPなど、様々な提案がなされています。
 我が国はこれらの提案を歓迎します。これらを前進させることは容易ではありませんが、重要な課題です。我々は、不拡散との整合性を確保しながら、如何に原子力の平和的利用を進めていくかについて検討する必要があります。その際、原子力の平和的利用の権利が必要以上に制限されないよう、また、国際規則を誠実に遵守している国に新たな負担を負わせることのないよう十分に配慮すべきと考えます。我が国は、この問題に関し今後IAEAを中心に行われる国際的な議論に建設的に参加し、貢献していく考えです。
 直近の課題は、核燃料供給保証の問題です。六ヶ国からの提案による核燃料供給保証構想について、本年6月のIAEA理事会で紹介がなされました。我が国は同構想を補完するものとして、「核燃料供給登録システム」の構築を提案いたします。このシステムは、参加国の多様な実態を反映しつつ、多くの国が一定条件の下に参加・貢献できるよう、ウラン濃縮に限らずウラン原料、転換・燃料加工、ウラン在庫・備蓄等フロントエンド全体をカバーするものです。これは、また、市場擾乱を予防したり、そのような市場擾乱に対応する一助となります。私は、この提案が我々としての最も有益な貢献となることを期待しています。

 来年から2010年NPT運用検討会議に向けた準備プロセスが始まりますが、我が国は、同運用検討会議の成功に向け、この準備プロセスの円滑な立ち上がりに積極的に貢献していきます。

4.北朝鮮及びイランの核問題

議長、
 直近の懸念すべき問題として、北朝鮮及びイランの核問題がありますが、一方で、大量破壊兵器開発計画の廃棄を決断したリビアの例は、国際社会の平和と安定に貢献する先例として高く評価されます。先月、私は我が国の閣僚として初めてリビアを訪問しました。リビアの大量破壊兵器の放棄に対し国際社会が前向きな対応をすることは重要であり、国際社会は、国際社会と協力し、グローバルな不拡散の主流の一部になるとの戦略的決定がもたらす利益を示すべきです。我々は、他国が見習うことのできるモデルとなれるよう、リビアに対し出来る限りの協力を行うべきです。私は率先してリビアの指導者との間で今後の二国間関係の強化を確認したところです。

 北朝鮮の核問題の解決のための六者会合が、北朝鮮によるすべての核兵器及び既存の核計画の放棄等を謳った共同声明を採択してから、早一年が経とうとしています。国連安保理決議1695でも明記されているとおり、北朝鮮が早期かつ無条件で六者会合に復帰すること及び共同声明の履行に着手することを強く求めます。また、G8サミット議長総括でも指摘されているとおり、北朝鮮が拉致問題の早急な解決を含め、国際社会の他の安全保障及び人道上の懸念に対応するよう求めます。
 7月の北朝鮮による弾道ミサイルの発射は、その大量破壊兵器の運搬手段としての役割を考えれば、核問題と切り離して考えることはできません。これは、我が国の安全保障や国際社会の平和と安定、更には大量破壊兵器の不拡散という観点から重大な問題であるばかりか、六者会合の再開に向けた関係国の努力を損なう遺憾な行為です。我が国としては、国際社会と連携しつつ、安保理決議1695の着実な実施に向けて最善を尽くす考えです。

 イランの核問題については、イランが安保理決議1696に従わず、ウラン濃縮を継続していることは遺憾です。イランが原子力の平和的利用の権利を有していることに疑いはありませんが、重要なのは、その権利の行使はイランの過去の行為により失われた国際社会の信頼が回復されることが大前提となるということです。同決議は、イラン政府が主張しているようにイランのNPT上の権利を剥奪することを目指しているのではなく、国際社会の信頼を回復した上で権利が行使されるべきことを明確にしたものです。この点は、EU3と米・露・中の6ヶ国が提示した「包括的提案」にも明記されており、我が国はこの「包括的提案」を支持しています。イランがこの決議を受け入れ、ウラン濃縮関連活動を直ちに停止した上で、交渉のテーブルに戻ることを強く求めます。これが双方に利益となる最善の選択肢と信じます。我が国は、問題の平和的・外交的解決に向けて引き続き国際社会と一致して行動していく考えです。

5.核テロ対策

議長、
 核テロリズムの脅威に対抗するためには、国際社会が団結して核セキュリティ問題に取り組むことが不可欠です。この観点から、小泉総理が昨年9月の国連総会の際に署名した核テロリズム防止条約及び昨年7月の外交会議で採択された改正核物質防護条約は、核テロ対策の強化に向けた国際社会の断固たる姿勢の証として極めて有意義です。
 両条約の早期発効に向け、我が国としても早期の締結に向けた国内の検討を進めているところです。また、我が国は、両条約の円滑な実施の促進を含む主にアジア地域を対象とした核セキュリティに関するIAEAのセミナーを本年11月に東京においてホストする予定です。

 本年7月15日にサンクト・ペテルブルグで米露首脳より発表された「核テロリズムに対抗するためのグローバル・イニシアチブ」は、核テロ対策の強化に資するものと理解しており、我が国はこれを歓迎します。

6.原子力の平和的利用推進のための国際協力

議長、
 放射線を含めた原子力の平和的利用は、国際社会の経済的・社会的発展にとって極めて有益であることは言うまでもありません。この分野におけるIAEAの役割には大きなものがあります。

 IAEAにおける技術協力については、我が国は、その重要性に鑑み、原子力科学技術に関する地域協力協定(RCA)に対して積極的貢献を行うとともに、厳しい財政状況の中、技術協力基金の拠出金を100%支払ってきている数少ない国の一つであります。すべての加盟国に対し、技術協力基金への拠出を遅滞なく完全に行うよう強く求めます。同時に、被援助国側も相応の責任を果たすことを改めて求めます。

 我が国が主導するアジア原子力協力フォーラム(FNCA)は、アジア各国の自発的な協力を促し、アジア地域における原子力の平和的利用に大きな役割を果たしています。同様の地域的なフォーラムは、アフリカなど他の地域の原子力の平和的利用の推進にも有効であると考えられます。我が国としては、IAEAの枠組みを通じた支援を積極的に行うとともに、このような地域フォーラムの強化に積極的に協力していきたいと考えます。 我が国は、科学技術の先進国として、技術革新の成果を積極的に原子力の平和的利用に活かすことが重要であると考えます。IAEAとしても、このような活動を積極的に広げていくべきであり、我が国としてもそのための貢献は惜しまないことをはっきり申し上げます。
 私は、最近バングラデシュ、中国、マレーシア、フィリピン、韓国、ベトナム、米国等、世界各国の原子力担当閣僚等と積極的に対話を行い、エネルギーの安定供給及び地球温暖化対策の観点から、原子力の平和的利用の重要性を共に認識しました。
 また、先月、小泉総理はカザフスタンを訪問し、ナザルバエフ大統領と会談しましたが、その際、両指導者は原子力の平和的利用の分野での2国間関係強化の意思を相互に確認しました。
 私自身も、リビア訪問中、同国指導者及び関係閣僚との間で原子力の平和的利用の重要性を確認したところです。

7.原子力安全

議長、
 原子力の平和的利用を推進するためには、安全確保が大前提です。特に、原子力安全規制に関する先進的な取組を行っている各国規制機関のハイレベルでの国際的な政策対話及び相互評価を行っていくことは有益であると考えます。この点に関し、我が国は、来年、各国の協力を得て、総合的規制評価サービス(IRRS)を受け入れたいと考えています。その有効性を踏まえて、加盟国においても、原子力安全の高度化を進めるべく、IRRSを受け入れていくことをここに呼びかけます。

8.放射性物質の輸送

議長、
 原子力の平和的利用のためには、放射性物質の安全な輸送が不可欠です。我が国は、「航行の自由」の原則の下、国際基準に従って、最大限慎重な措置を講じており、輸送国と沿岸国との信頼醸成のための対話も積極的に継続していきます。
 さらに、昨年、我が国は、輸送安全評価サービス(TranSAS)ミッションを受けました。IAEAによる客観的な評価により我が国の放射性物質の輸送安全施策の有効性が検証されたことは大変有意義であったと理解しています。このミッションが円滑に実施されたことに感謝するとともに、更なる安全性の向上に努めていきます。

9.IAEA予算

議長、
 IAEAがその期待される役割を果たすためには、十分な財政的裏付けが必要です。事務局において2008-2009年計画予算原案を作成中であると承知していますが、拠出国の財政状況に然るべき考慮が払われることも重要です。事業の優先順位設定と経費削減による予算の一層効率的な運用を図るよう、引き続き事務局の努力を求めます。

10.結語

議長、
 このように平和と安全に関する課題が山積する中で、IAEAの重要性はますます高まっています。我が国としてもIAEAに対し引き続き積極的に貢献していくことを約束し、演説を終わります。

 御清聴有難うございました。

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