平成18年12月25日
於・経団連会館
御手洗会長以下、皆々様には、本年中、外務省の仕事のあれやこれや、ひとかたならぬお世話になりました。改めて、深く御礼を申し上げます。毎年恒例、年の瀬の集まりでありますから、何を申し上げてご挨拶したものか。少々考えまして、思いつきましたのが、わたくしが選ぶ「前向き三大ニュース」を、ひとつご披露してみようということであります。
一政治家・麻生太郎としてなら、ほかにまだございます。しかし外務大臣として、今年の「ポジティブな」三大ニュースを挙げてみよと言われましたら、恐らく次の3つということになろうかと存じます。「ポジティブな」、ということでありますので、弾道ミサイルを撃ったり、核実験をしたりする国のことは、本日は触れません。
第一は、五月の連休中、ベルギーのブリュッセルへ参りまして、NATOの総本山、北大西洋理事会メンバーのお歴々を前に、ひとつはっきり申し上げて参ったということであります。我が国は、NATOと一緒に色々やる用意がありますよと、そう申しました。日本の外務大臣が北大西洋理事会へ出たのも初めてなら、NATOと一緒にやろうと言うのなど、もちろん前代未聞でありました。
しかしNATOとの「事実上の」協力は、灼熱のインド洋、甲板に卵を落とすと目玉焼きができるという過酷な環境の中で、ほぼ毎日のように進んでおります。洋上でぴったり平行に並んで走り、油を補給するというのは難度の高いワザを必要とします。それをもう5年、我が海上自衛隊はNATO加盟各国海軍の船に向け実施して、日本のそのワザは「ゴッドハンド」と呼ばれるほど、高い評価を獲得しました。ですから自信をもってNATOで話をいたしましたところ、それが切っ掛けとなり、NATOと日本は、何が共同してできるか、現実に即して考えてみようという気運になっております。
第二は、8月のバグダッド訪問であります。
ご承知のとおり、バグダッドの治安回復は重大な挑戦です。アメリカも、イラク政策をどうすべきか、真剣に再検討しております。
我が国は、我が国自身の国益を考えて、イラク支援に乗り出しました。陸上自衛隊は戻しましたが、空自の支援は続きますし、ODAその他、やって参ります。それを、じかに伝え、先方に改めて理解していただく必要があると思いました。結構、ハラハラし通しのいわゆる電撃訪問でありましたが、無事任務を全うできたと、そう思っております。
嬉しかったのは、イラクで会った大臣たちがみな口を揃え、自衛隊の士気は素晴らしいと称えてくれたことであります。我が陸上自衛隊は長いことサマワにおりましたが、その間、婦女暴行、脱走兵、無銭飲食といった一切の非行ナシ。これは日本だけだそうです。皆さん、日本の信用を高めてくれたのは、隊員諸君です。間違っても、「近頃の若いものは・・・」などとは言わないようにしましょう。
最後に第三として、安倍内閣で外相に留任しましたのを機に、それまで進めて参ったいわゆる「価値の外交」を初めてはっきり言葉に致し、「自由と繁栄の弧をつくる」と宣言したということであります。わたしどもの外交は、長いこと米国、国連、アジアの三正面を手がけるのが基本でありました。このたびこれに加え、ユーラシアの外周に価値の外交を進めようとする新たな機軸を立てる試みであります。
いま申し上げました、一から三まで。日本企業のグローバル展開の、インフラ作りをお手伝いさせて頂いているのだと、わたくしども、そのように思っております。
日本くらい、グローバルな物流、金融の自由な行き来というものに助けられ、伸びて参った国はありません。また、世界が平和で安定し、言い換えますと、価格メカニズムが、当たり前のように働く世の中であることに、大きな恩恵を受ける国が、我が日本であります。世界の経済システムに、不安定な綻びがあれば、それを治す手伝いをしようということでありまして、しかも一人でやるのではない、日米同盟はもとよりでありますが、インドやらオーストラリアやら、EUやらNATOやら、普遍的価値を共有する国々と、手を携えあってやって参ろうと、そういうことであります。
来年は、インド、オーストラリアと、EPA、経済連携協定の交渉を始めます。これの意義は、経済だけ、貿易だけ、というものでは、ありません。日本がこの両国と、がっちりつながっている絵をご想像になってください。皆、民主主義国、市場経済国として世界の経済システムを支えていく同志であります。これに、アジア太平洋の大黒柱、日米同盟を加えて、もう一度ご想像ください。海でつながる世界システムに、ひとつ心棒を通す試みであります。
それからお隣中国にも、共通のルールづくりの営みに、こういったグループとして入っていただかねばならぬと、そう思っておりますが、いまわたくしども、こうしてやっておりますことは、日本の20年、30年、いや50年先の安定を支える、文字通りの土台をこしらえようとしているのだと、少し大げさではありますが、そんなふうに思って自らに鞭打ち邁進いたしておるのであります。
だんだん、年末のご挨拶向きに、来年の干支のイメージが、イノシシの感じが出てまいりましたところでもうひとつ。
企業支援、或いは官民連携というもの、外務省は最近力を入れているということを色々な場で申し上げております。確か、去年もこの場で、皆様が海外、特に途上国に進出する際には、大使館を活用して欲しいと申し上げたかと記憶しております。大使館を使うのとホテルを使うのでは「信用」が全然違います。
真珠のミキモトさんーー。ブルガリアでウチの大使館を使って、レセプションをやってくれました。酒蔵の方たちにおいでをいただき、「利き酒会」というのも、中国やシアトル、ロンドンの公館でやったことがございます。自転車の展示販売促進会をやりましたのは、デンマークの大使館。しかし実例は、まだそれくらいしかありません。まだまだ、この点については我々の宣伝が不足しているようです。この際、大使館を使って是非ともどんどんパーティーをやってください。
色々と申し上げましたが、これからも、温かいご理解、ご支援を、厳しいご叱責とともに賜りますよう、お願いを申し上げまして、わたくしからのご挨拶とさせていただきます。
どうか皆さまには、良い年をお迎えになりますよう。