演説

国連の場における演説

9月首脳会合成果文書に関する国連総会非公式協議における大島国連常駐代表ステートメント(仮訳)

平成17年6月21日

(英語版はこちら)

 まず9月首脳会合成果文書の第一次案作成にあたられた、議長及びファシリテータの素晴らしいご尽力に感謝します。

 日本は国連を強化し、今日世界が直面する共通の根本的な諸課題に、効果的かつ効率的に対処しうるようすること、また国連を改革し、創立60周年を経て、今日の国際社会の現実をよりよく反映したものとすることに完全にコミットしており、このことを今一度述べたいと思います。9月首脳会合は、我々の挑戦、特に開発、平和と安全、人権という相互に関連した課題に立ち向かう上で、またとない機会であると期待します。国際社会が国連に期待する重要な意思決定を我々が行うことが可能となるよう、必要な政治的意思が十分動員されることを期待します。

 提案された第一次案は、事務総長報告、クラスター別審議において示された加盟国の見解、及び過去数ヶ月間にいくつかの国が行った他の有益なインプットを幅広く考慮に入れたものであると考えます。その結果、我が代表団はこの案につき、概ねよくバランスがとれ、異なる見解や立場を反映したものであり、9月の成果文書を更に議論するに当たってのよい基礎となるものとして歓迎します。

<開発>

議長

 開発に特別の関心とコミットメントを持つ国として、日本は開発問題を成功裏に取り扱うことを特に重視しています。日本は、ミレニアム開発目標を含め、国際的に合意された開発目標を達成するための努力に、完全に協力します。本案が、開発の第一義的責任は途上国自身にあることを強調している点を支持します。このことの重要性は、明白ではありますが、十分認識されないこともしばしばであり、強調しすぎることはありません。先進国はパートナーとして、途上国の自助努力に対し支援を行わなければなりません。言い換えれば、我々は途上国の開発における意思決定やプロセスにおけるオーナーシップ強化を支援しなければなりません。

 ミレニアム開発目標に寄与するため、ODAの対GNI比0.7%目標の達成に向け引き続き努力する観点から、我が国にふさわしい十分なODAの水準を確保していきます。このため、ODA事業量の戦略的拡充を図ります。日本はまた、G8財務相会合での開発に関する結論を踏まえて、HIPC諸国の債務を救済するための努力を強化します。

 この観点から、我が代表団は、開発資源としての民間部門の投資、とりわけ海外直接投資の重要性を強調させて頂きたいと思っています。我々は、途上国の投資環境改善のための国内及び国際的なイニシアティブを支援します。

 革新的資金調達源については、各国が、自国の制度や環境を踏まえて進められるべきであり、各国が可能な範囲で取組を強化する方向で検討することが適当です。

 貿易は開発のエンジンです。我が国の全輸入に占める途上国産品の割合は、OECD諸国中有数です。開発における農業の重要性を認識する国として、日本は農業補助金の大幅な削減など、途上国に貿易を通じた開発の機会を拡大するとともに、途上国の供給側(サプライ・サイド)の能力向上も支援しています。これらの措置を通じて、ドーハラウンド交渉の早期妥結に努力しています。

 ミレニアム開発目標の全般的戦略の中で、アフリカの特別なニーズを強調していることを完全に支持します。我が国は、90年代からアフリカ開発会議(TICAD)プロセスを通じて、近年のアフリカ開発問題の関心喚起へ大きな貢献を行いました。2008年にはTICAD4を開催します。この重要な戦略を認識しつつ、日本政府は向こう3年間の対アフリカODA倍増や、債務救済、NEPAD支援等を実施します。日本のアフリカ支援は、平和構築イニシアティヴや、農業・農林開発等貿易・投資の促進をも含みます。我々は、アフリカ開発銀行との協力による新規借款や信託基金を通じ、民間セクター開発やキャパシティ・ビルディングを強化します。

 我が代表団は、本案が最貧国、内陸国、小島嶼国の特別のニーズを明確に認識している点も歓迎します。我々は、成果文書がこれらの国々の正当な懸念や願望に十分な注意を払うことを期待します。

 本案から落ちている一つの問題は、南南協力の重要な役割です。インドネシアで4月に開かれたアジア・アフリカ首脳会議で採択された、アジア・アフリカ戦略パートナーシップと行動計画に関心が寄せられました。行動計画は、南南協力に関するいくつかの重要な提案を含んでおり、来る数ヶ月の内に実施に努めることとなり、この分野で新たな展望が開かれます。我々は、アジア・アフリカ諸国全てが支持するこのような新たな進展を、成果文書が十分反映するよう要請します。

 気候変動を含め、環境の持続可能性に関する言及が強化されたことを歓迎します。保健医療、教育、水と衛生分野の主要ドナーとして、我が国は成果文書がこれら重要分野における支援の特別なニーズに焦点を当てていることを、適切なものと考えます。一つの具体的な例は、「クイック・ウィン・プロジェクト」です。日本はアフリカのマラリア対策として、1千万張の長期残効型蚊帳を2007年までに供与することをプレッジしました。我々はHIV/AIDS及び保健関連事項に関する言及を支持し、ジェンダー、科学技術等の重要イッシュー又は課題への言及を歓迎します。これに関連し、保健関連ミレニアム開発目標(MDGs)に関するアジア太平洋ハイレベル・フォーラムにて言及されたとおり、保健関連ミレニアム開発目標(MDGs)達成に貢献するため、我が国として新たな「保健と開発」イニシアティヴを推進します。また、雇用、移民を本案に含めた議長のイニシアティヴを評価します。日本は国造りにおける教育の重要な役割を強調したいと思いますが、本案には言及がありません。我々は、開発における教育の重要性が、成果文書に的確に反映されるよう強く望みます。

<平和と集団安全保障>

議長

 議長の示した本案は、全ての脅威と挑戦とを相互に関連したものととらえ、加盟国に対し、国連憲章に基づく集団安全保障システムに改めてコミットすることを呼びかけています。これは我々の支持しうる立場です。

 憲章7章下における武力行使の正統性につき、事務総長が5つの基準を一つの考え方として示したことを評価します。しかし、各国の見解には依然隔たりが大きく、更に議論することが適当です。

 NPT運用検討会議において実質的な合意が得られなかったことは、極めて遺憾です。NPT体制の信頼性を維持するためには、全ての締約国が義務を履行し、NPT体制強化のために努力すべきです。軍縮と不拡散の双方が共に進展することが全ての国の利益であり、このために軍縮・不拡散に対するコミットメントを最高レベルで改めて確認することが極めて重要です。

 テロに関しては、国際社会がテロとの闘いを一致団結して進めていく上で、日本は9月の首脳会議において、文民や非戦闘員を標的とし意図的に殺傷することはいかなる理由によっても正当化されない旨明確に表明することが重要と考えています。我々はまた、包括テロ防止条約交渉の2006年6月までの妥結に向けて、交渉に取り組む国連加盟国の決意を示さねばなりません。

 テロとの闘いにおいては、その根源にいかに対処するかという点に、十分な重点を置く必要があります。こうした取組は現実のテロの脅威への対処と並行して進められるべきです。例えば、日本は、異なる背景の人々の間における相互理解を促進させるため、文明間の対話を積極的に推進しております。また、平和的手段で政治的主張を実現する道を開く政治改革や、異なる考え方に対する寛容性を高めるための教育改革も重要であり、日本はこうした分野でも支援を行っています。

 日本は9月首脳会合において、平和構築委員会の設立を宣言することを支持します。同委員会は、紛争後の平和構築と必要な支援に関する全ての必要な事項に関し、効果的で一貫性があり、調整された対応を議論する場を提供するでしょう。同委員会は今年末までに活動を開始すべきであり、そのために我が代表団は詳細に関する議論に積極的に参加します。日本はまた、自発的拠出金で手当てされる平和構築常設基金の設立も併せて支持します。

<人権、法の支配>

 開発及び平和と安全の分野での真の進展は、人権の保障の確保なしには期待できません。国連が人権問題により効果的、より公正に対処しうることは、国際社会が国連に寄せる信頼を評価する尺度となります。

 この観点から、我々は人権理事会の設立を支持します。本案に提案された案は達成可能であり、我々はこれを歓迎します。理事会の規模については、現行の人権委員会と同数乃至それ以下とし、現実的な解決を図ることが望ましいと考えます。我々は、9月の首脳会合において人権理事会設置に関するいくつかの原則について一般的な合意に達し、その後第60回総会期間中に作業方法等の詳細に関し実質的な議論を行うことを期待します。

 我々は、人権高等弁務官事務所の強化への呼びかけを支持し、高等弁務官による行動計画を歓迎しており、同計画が人権分野における各国のキャパシティ・ビルディングに寄与することを希望します。

 民主主義基金の設立については、我々はこれを支持しており、事務総長に対し同基金の早急な設立を要請する共同書簡を発出しました。基金が、被供与国の要請に基づき、国連によるキャパシティ・ビルディング支援に効率的に用いられることを望みます。

 世界には、2,500万人以上もの国内避難民がいます。しかし難民と異なり、国連諸機関の中で明確なマンデートを有している機関がありません。我々は、国家主権と、国際社会の支援及び保護とを調和させるための規範と、実務的な基準を必要としており、「国内避難民に関する基準原則」はその試みとなるものです。我々は、加盟国が「基準原則」を国内避難民保護体制の適切なプラットフォームとして認識すべき時であると信じており、本案の記述を強く支持します。

 国際社会における法の支配を強化する上で、国際司法裁判所の果たす役割は重要であり、裁判所の役割を強化することに言及している本案を歓迎します。

 我々は、「保護する責任」に関する議論が高まりつつあることを歓迎します。我々は、本案にある議論の広がりを支持します。しかし保護する責任は、予防、対応、開発、支援及びキャパシティ・ビルディングに始まり、あくまでも最後の手段としての武力行使に至るまでの広範囲をカバーする、継続的な概念であり、成果文書においてはこうした点を反映させることを提言します。

 我々は「人間の安全保障」に関する独立したパラグラフを歓迎し、これを強く支持します。個々の人間は、暴力、基本的人権の否定、感染症、教育の欠如など、広範な剥奪や、生存や尊厳を持って生きることへの脅威に直面しています。「人間の安全保障」の概念は、これらの問題に包括的に対処するものです。このような「人間の安全保障」の概念に立ち、日本は国連人間の安全保障基金の設立に積極的に貢献し、これまでに104か国において133件のプロジェクトを既に実施しています。我々は、9月首脳会合において本案に示されたような「人間の安全保障」の概念を支持すべき時が至ったと信じています。

 我々は、「平和の文化」イニシアティヴを支持します。平和の文化と文明間の対話は、4月のアジア・アフリカ首脳会合で採択された宣言においても、主要な柱として確認されています。我々は、国連国際平和の文化の10年の中間時期に当たる本年、本件が進展することを希望します。このような観点から、小泉総理がアジア・アフリカ首脳会合において発表したとおり、日本は7月に世界の著名な指導者を集め、世界の様々な相違を乗り越え、世界の新しいパラダイムを構築するための方策について議論するため、世界文明フォーラムを開催します。

<国連強化>

議長

 国連強化は、その機構改革、特に主要機関の改革なしに達成されません。第一に、日本は総会強化に関する言及を歓迎します。我々は、提案された総会決議案に盛られた具体的措置に合意し、それらを実施するために他の国々と共に努力します。

 第二に安保理改革については、事務総長は「安保理改革なくしては、いかなる国連改革は完成しない」と述べています。

 安保理改革については、相当な議論が行われてきました。これを基礎とし、ブラジル、ドイツ、インド、日本のG4は、安保理メンバー拡大と作業方法改善に関する枠組決議案を配布しました。同決議案は加盟国の間に、この長らく結論の出ていない問題につき、新鮮で、前向きなモメンタムを作り出しました。決議案は、全ての地域グループや他のグループを巻き込んで、オープンかつ柔軟な協議と対話を経て作られました。

 枠組決議案は、加盟国の決断を求める真剣な提案としては、現段階で唯一のものです。我々はこの決議案が、国連創設60周年に当たるこの年に、国際の平和と安全の維持に責任を持つ機関を今日の世界の現実に適応させるための、達成可能な計画を盛り込んでいると信じています。我々にとっての選択肢は、今日の多層的な挑戦に効率的に対処しうるよう安保理を改革するか、現状を維持するかです。現状維持はごく少数の国にしか支持されておらず、とうてい実行可能な選択肢とは思えません。

 G4は枠組決議案を、最も早く最も適当なタイミングで、加盟国の検討と意思決定のために、総会に正式に提出する考えです。事務総長も述べているとおり、安保理改革に関する意思決定は9月首脳会合前に行われることを望みます。そして残された日々において、この重要な問題に関して可能な限り幅広い合意が得られるよう、更に協議を続ける考えです。

 我が代表団は、この機会に、枠組決議案の共同提案国となることを決定した国に対し、また支持を表明したその他の国に対し、感謝を述べたいと思います。更に多くの国が決議案を支持してくれるよう要請します。我々は、特に常任理事国の一つであるフランスが共同提案国となることを表明したことに感謝します。

 高い能力と倫理観を持った事務局が不可欠です。我が代表団は、事務総長の事務局改革のための努力を支持します。我々はしたがって、事務総長にCEOタイプの権限とマネジメントにおける柔軟性を付与する提案を支持します。また、透明性の向上と、事務局の活動に関する加盟国に対する説明責任の強化を期待しており、これには監査機能の強化も含まれます。このためには、予算と人的資源に関する規則の包括的な見直しを早急に行う必要があります。

 他へ再配分しうるリソースと共に、5年以上経過したマンデートの全体像を、事務総長が総会に提示するとの提案を支持します。我々は、一度限りの早期勧奨退職に関する事務総長の包括的提案を、必要経費を含め、注意深く検討します。

 経社理については、本案の提案を正しい方向にあるものとして広く支持します。これに加え、経社理は中長期的なアジェンダ設定や、現下の主要な経済・社会問題に関する世論喚起にも役割を果たすべきです。

 人道支援は国連活動の主要な柱の一つです。我々は、本案がスタンドバイ・アレンジメントを含む対応能力の強化や、中央緊急回転資金の改善を呼びかけていること支持します。

 我々は、国連と地域・準地域機関の関係強化、特にAU強化支援への呼びかけを支持します。しかし、地域機関の行う平和維持活動への国連の支援については、そのあり方を注意深く検討することが必要です。財政的アカウンタビリティや国連及び地域機関の行う活動の関係等に特に留意し、安保理及び総会においてケース・バイ・ケースで判断する必要があります。我々はしたがって、このような文書において一般的な合意に至るには時期尚早であると考えます。

 総会決議52分の50による決定にしたがい、我々は憲章第53条、第77条、及び第107条から「旧敵国条項」を削除することを支持します。

最後に議長

 議長の提示した第一次案は、9月首脳会合に進む上で、更なる議論のための非常に有益で、バランスのとれた基礎を提示するものです。議論の分かれる問題もある中、議長の多くの問題に対するアプローチは賢明で、我々の支持に値するものと考えます。

 不首尾に終わった際に失うものは大きく、しかし我々が団結して賢明かつ大胆に行動すれば、得られるものもまた大きいのです。平和と安全、及び人類の-現在及び将来の世代の-幸福は、秋の会合の成功に大いにかかっています。我が政府は、来る12週間の間、議長及びファシリテータ、及び加盟国と共に、できる限りの成果をもたらすよう、努力を惜しみません。

ありがとうございました。

このページのトップへ戻る
国連の場における演説 | 平成17年演説 | 目次へ戻る