演説

国連の場における演説

「紛争後の平和構築」に関する国連安保理公開討論
大島国連大使発言テキスト(仮訳)

平成17年5月26日

(英語版はこちら)

 安保理において、「紛争後の平和構築」に関する公開討論を開催する議長のイニシアティブを時宜にかなったものとして評価します。ハイレベル・パネル報告や事務総長の"In Larger Freedom"報告もあって、国際社会の関心はこの重要な問題に集まっています。

 日本は、紛争から立ち上がった諸国を対象とした「平和の定着と国づくり」を国際支援の重要な政策の支柱としており、紛争の恒久的解決のためには切れ目のない支援が必要であることを訴えてきました。ここでは、特に、紛争解決の初期の段階からの平和構築が重要であると考えています。この観点から、日本は、東チモール、アフガニスタン、イラクにおいて、また、アフリカのさまざまな紛争地域において、平和構築のための支援に取り組んできました。

 このような日本の経験から言えば、平和構築といっても全ての紛争後の状況に一様に適用されるやり方はないことを重く受けとめるべきです。国連が果たすべき役割についても、一元的に適用可能な方式はありません。例えば、国連はかって東チモールが独立するまで一時的ですが暫定行政を行い、あらゆる平和構築活動に直接に関与しました。その一方、アフガニスタンにおいては、国連は「ライトフット・アプローチ」を方針として、現地の指導層のイニシアティブを奨励し、また、国連以外の国際的なイニシアティブを尊重する政策をとっています。アフリカにおいても、例えばDDRへの国連の関わり方は、紛争の性格や現地の状況によって違いが見受けられます。国連の役割については、紛争の状況に応じ、また、国連以外のアクターの役割も踏まえて、柔軟に設定されるべきであります。

議長

 議長がこの討論のために配布した討論ペーパーにおいては平和構築に関する多くの論点が提起されています。このうちで、日本として最も重要と考える3つの論点について言及したいと思います。それらは、現地のオーナーシップ、包括的戦略と統合的アプローチ、及び財政問題です。

 討論ペーパーでも指摘されているように、現地のオーナーシップを可能な限り奨励し、育てていくことが必要です。現地の人々による自助努力が和平合意がうまくいくために欠かせないものであり、それ故に尊重されるべきことについて、異論はないと思います。平和構築においても、現地の人々の自助努力が中心にあり、国際支援はこれを支えていくのがあるべき姿です。しかし、現地の政府が崩壊するか、形だけはあっても機能していないようなケースが多いことも事実です。このような状況においては、国際社会が、現地政府が機能し始めるまで平和構築活動をリードしていくことはやむを得ないものと考えます。問題は、国際支援がしばしば現地で支援依存症を生み出す恐れがあることです。現地のエンパワーメントや能力構築のためのプロジェクトによってそのような問題の発生を防ぐようにすべきであります。また、平和構築プロジェクトは、現地の人的資源やオーナーシップを最大限に活用すべきです。

 現地での我々の相手は、何も政府だけに限りません。紛争状況において、伝統組織、コミュニティ、市民社会団体が重要な役割を担うことは希ではありません。2004年6月に安保理において、「紛争後の平和構築における市民社会の役割」と題する公開討論が行われ、市民社会の果たす重要性が高く評価されました。これらの組織・団体の果たしている役割を認識した上で、彼らとの協力を推進することも重要です。政府が十分に機能していないような場合には、平和構築の重要なパートナーとして彼等との協力が一層必要です。現地とのコミュニケーション、対話はあらゆるレベルで行われるべきであります。平和構築が成功するためには、紛争の犠牲者、女性、マイノリティなどの声も十分に取り込んでいかなければなりません。

議長

 議長は、平和構築において、包括的な戦略を発展させ、関連アクターの活動を統合する必要性を指摘されました。このためには、平和構築に携わる国際的アクターの間の連携・協力が不可欠です。一口に連携・協力と言っても、そこにはいくつかのレベルが区別されます。最近いわゆる「統合ミッション」という考えが国連内で活発に議論されていますが、どのようなアクターとの協力を問題にしているかによって、協力のレベルに差が生じることを留意する必要があります。

 第一に、複合的PKOや平和構築ミッションにおける各部門が行う活動は、当該ミッションのマンデートの遂行上、事務総長特別代表の下で統一的に行われる必要があります。例えば、安全面を担当する軍事部門、治安維持分野に関わる警察部門、制度再建、人道支援、人権保護に携わる文民部門は、それぞれが互いに協力し支えあって行くべきものです。

 第二に、国連ミッションの外側で活動する国連諸機関も重要な役割を担っています。事務総長特別代表には、これら諸機関との調整を行う権限が与えられるべきです。調整にあたっては、それぞれの機関の責任、得意分野、現地での活動実績などを考慮した上で、最も効果的な役割分担が追求されるべきであります。

 第三に、国連ミッションや国連関係機関以外にも、世銀などの国際金融機関も平和構築において欠かせない役割を果たしています。例えば、東チモールの暫定行政やスーダンの南北問題に関する包括和平協定支援において、世銀はUNDPとともに重要な役割を果たしてきました。復興・開発に向けてのニーズの認定や経費の見積もりのために、UNDPと世銀が合同で調査を行いました。世銀、UNDPや国連関係機関の間で、このような協力関係が平和構築の実施過程でも継続されていくことを期待します。また、平和構築において国際NGOやICRCが果たしている重要な役割も忘れてはなりません。国際NGOやICRCははしばしば紛争の早い段階から現地で活動をしていることが多く、紛争に対処する上で深い知識と幅広い経験を有しています。事務総長特別代表は国際的NGOやICRCなどによる貢献を尊重しつつ、可能な協力の道を追究していくべきであります。

 上記の連携・協力は、現場及び本部の双方において、計画作りから、実施、見直しといった平和構築のあらゆる段階において実施されるべきであります。新たなミッションが設立される場合には、事務総長特別代表は、関係する機関との効果的な協力体制を作り上げるべきであります。ミッションが撤退する場合、事務総長特別代表は、復興・開発への円滑な移行を確保するとの観点に立って、ミッションが担ってきた平和構築活動を現地政府や関係アクターに引き渡していくべきです。

議長

 安定した資金源が平和構築にとって重要なことは理解しております。恒久的な紛争解決にとって欠かせない平和構築は、ある程度長期間にわたり継続されるべき活動であり、このための資金手当てが求められます。PKOが一旦設立されれば分担金によって資金面では安定した運営が保証されているのに対し、平和構築は多くの場合にドナーの善意に基づく自発的拠出に頼らざるを得ません。しかし、単純に平和構築を分担金化することは解決にはなりません。もし、全ての平和構築活動を分担金化すれば、それは資金の最適配分を阻害しかねないばかりか、平和構築における現地社会のオーナーシップにも害となる恐れがあります。また、国連の関与を不必要に拡大させたり、長引かせたりもしかねません。従って、我々は、どのタイプの平和構築を分担金、どれを拠出金で手当てすべきかを論じるべきであります。この議論は、従来築かれてきた両者の棲み分けを基礎としつつ、個々の紛争の性格や現地の状況を踏まえ、ケースバイケースで行われるべきであり、また、その際には民間セクターを平和構築のための資金手当てに活用する可能性も併せて考慮すべきであると考えます。

議長

 ここで、「人間の安全保障」と平和構築の関係に触れたいと思います。日本は、国家レベルの安全保障に加え、人間の視点からさまざまな脅威に対応すべく「人間の安全保障」の考え方を打ち出しました。「人間の安全保障」は、人間の生存・生活・尊厳に対する広範かつ深刻な脅威から人々を守り、人々の豊かな可能性を実現することを目的としています。この意味で、「人間の安全保障」は平和構築のための重要な視点を提供していると考えます。事実、人間の安全保障委員会報告書においても、紛争から平和への移行の問題を優先課題として掲げ、国際社会は現場の人々と地域社会のニーズに基づいて対応を行うべきである、としています。平和構築が成功し、紛争から平和・開発への移行が成功するかは、人々を守り、かつ人々が自立して生活していけるようにするという「人間の安全保障」の考え方を実現できるかにかかっていると言ってもよいでしょう。

議長

 最後に、事務総長が提案した平和構築委員会についてひと言触れたいと思います。日本は平和構築委員会の設立を強く支持し、そのあるべき姿や効果的な役割につき総会での議論において具体的な提言を行ってきました。関心諸国と協力し、平和構築委員会が早期に設立され、活動が開始できるよう尽力して行きたいと考えております。本日議論の対象となった平和構築に関する重要な諸問題を具体的に扱う最良のやり方はここにあると考えます。

(注)実際の演説は、議長の要請により、各国の発言者と同様に用意した発言テキストを短縮し行った。

このページのトップへ戻る
国連の場における演説 | 平成17年演説 | 目次へ戻る