演説

国連の場における演説

国連「持続可能な開発のための教育の10年」国際立ち上げ式典における
有馬政府代表スピーチ

平成17年3月1日

(英語版はこちら)

議長、

松浦ユネスコ事務局長
アナン国連事務総長夫人
サラ・ユニセフ事務局次長
スティーブン・ロックフェラー・ロックフェラー兄弟財団理事長
コナレ・アフリカ連合委員長
リンドバーグ前スウェーデン教育科学次官
ご列席の皆様

 本日は、「国連持続可能な開発のための教育の10年(以下、UNDESD)」を提案した日本政府の代表として、お集まりの皆様と共にUNDESDの国際立ち上げに参加する機会を得ましたことを光栄に思います。

 本年1月より開始されたUNDESDは、日本のNGOの提言を受けて小泉総理が2002年にヨハネスブルグで開催された持続可能な開発に関する世界首脳会議において提案し、ヨハネスブルグ実施計画文書に記述されたことを受けて、我が国より第57回国連総会に決議案を提出し、コンセンサス採択されたものです。小泉総理はヨハネスブルグサミットのスピーチにおいて、持続可能な開発を達成する上で人造り、教育が重要であることを訴えました。我が国は、天然資源に恵まれない中、人的資源を礎として今日の日本を築きましたが、一方で1960年代の高度経済成長期には急速な工業化による深刻な公害を経験し、多くの人が健康を損ないました。このことから、発展のための努力を加速しようとする国々に対しては我が国の苦い経験を教訓にして、同じ過ちを犯さないよう、環境保全と両立した開発に取り組んで頂きたいと考えています。

 また、一方で、この高度経済成長を通じて、大量生産、大量消費及び大量廃棄が促進されることとなりました。しかし、人々が、現在のライフスタイルを変えることなく今と変わらぬ方法で生活の便利さや快適さを追求し続けるとすれば、やがては自然環境の回復力が大きく害され取り返しのつかないことになります。そのような状況を回避すべく、持続可能な開発を達成するためには、我々特に先進国が教育を通じてこれまでの価値観やライフスタイルを変えていく必要があると考えています。

 そこで、本日のUNDESD国際立ち上げに際しては、現在のエネルギーの状況を紹介しつつ、我が国を含む先進国が行うべき取組を中心に述べたいと思います。

 世界のエネルギー消費は年々増加しており、日本を例に挙げれば、1973年~2002年の伸び率は、産業部門は省エネ対策により1.1倍ですが、利便性を求めるライフスタイルなどを背景に運輸部門が2.1倍、家庭や商店など民生部門が2.3倍となっています。世界のエネルギー需要は今後も増大する見込みで、2030年の需要は2000年の1.7倍に達すると予測されています。

 一方、天然エネルギー資源は有限であり、世界が現在のペースで使用し続けた場合、石油(2044年)、天然ガス(2070年)、ウラン(2088年)が今世紀中に枯渇するものと見られています。

 一次エネルギー供給に占める割合は、2002年の日本を例にすると、原子力などの導入により石油の割合が1973年の77%から50%に減少したものの依然トップであり、次いで石炭20%、天然ガス14%、原子力12%、水力3%、新エネルギー等2%となっています。

 大気中の二酸化炭素の排出量を見てみると、1971年の146億トンから2001年の240億トンに大幅に増加しており、世界の平均気温はこの100年間で0.7度上昇しました。

 二酸化炭素排出量を削減するためには化石燃料の燃焼を減少させねばならず、そのためには原子力や再生可能エネルギーを増加させなければなりません。既に多くの国が再生可能エネルギーの技術開発に取組んできています。但し、この再生可能エネルギーに含まれる水力は十分に利用されてきているので、増加が可能な新エネルギーの開発が必要です。例えば、日本の太陽光発電導入量は2002年末の時点で世界の48.5%を占めていますが、日本の一次エネルギー供給に占める新エネルギーの割合は先に述べたとおり2%に留まっています。我が国政府はこの割合を2010年には3%程度まで向上させることを目標とし、新エネルギーを導入する自治体、事業者、NGO等に対する支援を拡充している他、諸外国と同様、販売電力量に応じ一定割合の新エネルギーの導入を義務づけるRPS制度を導入しています。ただ新エネルギーの利用量はまだきわめて少なく、これに過大の期待を掛けることは心配です。

 世界的なエネルギー問題を解決するためには、このような再生可能エネルギー技術の開発などにおける国際協力が必要であることは言うまでもありませんが、我々特に先進国が同時に、多くのエネルギーを消費する大量生産・消費・廃棄に見られるような人々のライフスタイルを変更させる意識改革が必要と言えます。

 我が国においてもUNDESDに対する人々の認知度は未だ低く、UNDESDが開始された本年は特に周知に力を入れていくことが重要と思いますが、人々にわかりやすく伝えるためにそれぞれの国や地域に応じたキーワードを使うなども一案かと思われます。例えば、去る2月16日の京都議定書発効を記念する式典に参加した2004年ノーベル平和賞受賞者のマータイ・ケニア環境・天然資源副大臣は、小泉総理との会談において、来日中に「もったいない」という日本語に感銘を受け、3Rと共に世界にアピールしていきたいと述べていました。この「もったいない」という概念は基本的に物を大事に使いなさいということです。

 また、3Rは昨年6月のシーアイランドサミットにおいて、小泉総理が大量生産、大量消費及び大量廃棄の反省に基づいて提案し合意された新たなイニシアティブであり、これは4月末に東京で開催される閣僚会合において世界的に開始される予定ですが、3Rイニシアティブはグローバルな視点から廃棄物の発生抑制(リデュース)、再使用(リユース)、再生利用(リサイクル)を通じて循環型社会の構築を目指すものです。「もったいない」や3RイニシアティブはこのUNDESDに通ずるところがあるといえるでしょう。

 更に、今月末から半年間、愛知県において2005年日本国際博覧会「愛・地球博」を開催します。これは、21世紀の人類が直面する地球規模の課題の解決の方向性と人類の生き方を発信するため、自然の叡智をテーマとした新しい文化・文明の創造を目指すものです。この「愛・地球博」における事業の一つに「地球市民村」がありますが、ここではUNDESDの動きに呼応し、博覧会期間中だけでなく、会期後まで成果が継承される催しを目指しており、例えば、世界に広がるNPO/NGOの活動や、「持続可能性」に向けた取り込みが紹介されるほか、持続可能な社会づくりに必要な 「持続可能性への学び“Learning for Sustainability”」 のためプログラムを、世界中のNGO/NPOと一体となって開発提案することが予定されています。

 今日、持続可能な開発という地球規模の課題に取り組んでいく上では、全ての人々が自覚を持ち、考え、行動し、世界各地での連携へと発展させていくことが求められています。

 我が国は、「もったいない」という言葉や3Rイニシアティブの他、愛・地球博なども通じて、また、DESDの推進機関であるユネスコをはじめ、国際機関やNGOなど関係するステークホルダーと協力しつつ、普及、啓発などUNDESDを推進するために貢献していきたいと考えています。

 UNDESDが終了する2014年末には、この国際実施計画に理念として挙げられている、「あらゆる人々が、質の高い教育の恩恵を享受し、また、持続可能な将来と社会の肯定的な変革のために求められる価値観、行動、及びライフスタイルを学ぶ世界」の形成に向けて大きな進展がなされていることを祈念しております。

 ご静聴ありがとうございました。

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