演説

七条政府代表演説

国際原子力機関第49回総会
七条明政府代表(内閣府副大臣)演説

平成17年9月26日

1.序

議長、
 日本政府を代表して、閣下が国際原子力機関第49回通常総会の議長に選出されたことを心からお祝い申し上げます。貴議長の豊富な国際的経験と卓越した指導力によって、本総会が実り多きものとなることを確信しております。また、ベリーズが新たに加盟国となったことを心から歓迎します。

議長、事務局長、御列席の皆様、
 核不拡散と原子力の平和的利用の両面を司るIAEAの役割は、年々その重要性を増してきております。この観点から、過去2期8年に亘ってIAEAの発展に貢献したエルバラダイ事務局長の指導的役割を高く評価するとともに、今次総会においてエルバラダイ事務局長が事務局長に再選されたことに心から祝意を表します。

2.核不拡散体制の強化

議長、
 本年2005年は、人類史上初めて核兵器が使用されてから60年目に当たります。しかし、核兵器の脅威は過ぎ去った昔の話ではありません。今日、北朝鮮等の核問題が深刻化し、核拡散の地下ネットワークの存在が明らかになり、核兵器や核物質がテロリスト等の非国家主体に拡散する危険性が増すなど、国際的な核不拡散体制は重大な挑戦に直面しております。不拡散体制の強化は、国際社会が緊急に取り組むべき最重要課題の一つです。
 そのような状況の中、本年5月のNPT運用検討会議は、残念ながら実質的事項に関する合意文書を作成することはできませんでしたが、少なくともNPTの重要性に疑問を呈する国が全くなかったことは心強いことでした。今、国際社会は、核軍縮と核不拡散へのコミットメントを新たにすることが強く求められています。

 我が国は、唯一の被爆国として、「核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず」との非核三原則を堅持しております。被爆60周年の本年、我が国は、国際的な軍縮・不拡散への取り組みを一層強化する決意を新たにしております。

議長、
 IAEAが国際的な核不拡散体制を支える要であることは言うまでもありません。現行の核不拡散体制の「抜け穴」を塞ぎ、不拡散体制を強化することは、国際社会全体の責務であり、IAEAはこのために果たし得る大きな役割を担っています。この観点から、現在行われている濃縮・再処理の移転の制限に係る議論や核燃料サイクルへのマルチラテラル・アプローチは、機微な技術等の拡散を如何に防止するかという問題意識に基づくものであり、我が国はこうした問題意識を充分に共有するものです。我が国としては、今後とも、これらのイニシアチブに関する議論には積極的に参画する考えです。ただし、後者について検討を行う際には、国際的な核不拡散体制の強化に資するか否か、NPT上の義務を誠実に履行し、高い透明性をもって国際社会の信頼性を得て原子力の平和的利用を行っている国のかかる活動を不必要に制約することにならないか等について、充分に精査することが必要と考えます。

 核不拡散体制の強化のためには、IAEA保障措置を強化することが必須です。我が国は、核不拡散体制強化のための最も現実的かつ効果的な方途は追加議定書の普遍化にあると確信し、そのための努力を継続しています。アジア不拡散協議を始め、アジア地域を中心として積極的なアウトリーチ活動を展開しており、本年10月に豪州で開催される追加議定書促進のためのセミナーにも我が国の専門家が参加する予定です。本年、追加議定書の発効国がIAEA加盟国の半数に達したことは大きな進展であり、今後の普遍化の加速化を期待させるものです。私は、改めて、追加議定書未締結国に対して、早期の締結を呼びかけます。また、この観点から、本年6月のIAEA理事会で設立が決められた保障措置及び検証に関する委員会の活動に期待しております。

 我が国においては、昨年9月より統合保障措置が実施されておりますが、我が国は引き続き保障措置の厳格な適用に最大限協力を行い、他国に範を示していきたいと考えております。統合保障措置は、IAEAの限られた資源を有効に活用するとの観点からも有益であり、IAEAと保障措置実施国との更なる努力によって、統合保障措置が今後より多くの国に適用されることを期待します。

3.北朝鮮及びイランの核問題

議長、
 原子力の平和的利用を行うには、IAEAの保障措置を誠実に遵守すること等を通じて、その原子力活動に関する透明性を確保し、国際社会の信頼を得ることが大前提です。

 このようなIAEAの保障措置を今まで受け入れることなく行われてきた北朝鮮の核計画は、NPT・IAEA体制を礎とする国際的な核不拡散体制への深刻な挑戦であり、この問題の平和的解決は国際社会全体にとっての喫緊の課題です。先般、第4回六者会合において、六者会合が達成すべき最終的な目標を示す共同声明に合意できたこと、また、その中で北朝鮮が全ての核兵器及び既存の核計画の放棄にコミットしたことは、北朝鮮の核問題の平和的解決へ向けた第一歩となる、重要な具体的成果であり、わが国としてもこれを歓迎しています。今後、関係六者が今回の合意を迅速かつ着実に実行に移していくことが大事であり、特に、廃棄の具体的な手順や検証措置の詳細等についての具体的な合意の実現に向け、引き続き建設的に対話を進める必要があると考えています。

 また、イランの核問題については、去る24日、イランの保障措置協定違反を認定するとともに、イランに対してIAEAへの更なる協力とウラン濃縮関連・再処理活動の再停止等を求める内容を含むIAEA理事会決議が理事国の多数の支持を得て採択されました。これは、国際社会がイランに対して明確なメッセージを発出したものであり、イランの核問題を引き続き交渉によって解決していくための重要なステップとして、わが国としても評価しています。イランが今回の決議を重く受け止め、真摯に対応することを強く求めます。わが国としては、イランが、累次のIAEA理事会決議のすべての要求事項を誠実に履行するとともに、EU3との交渉プロセスに復帰することを改めて強く求めます。

4.核セキュリティ対策

議長、
 米国における9.11事件を契機として、核テロリズムの脅威は、国際社会が早急に取り組むべき重要な課題となりました。核兵器や核物質等がテロリストの手に渡ることを防止するためには、国際社会が一致団結して核セキュリティの問題に取り組むことが不可欠です。
 この観点から、我が国は、本年4月の国連総会において「核によるテロリズム行為の防止に関する条約」が採択されたこと、更に本年7月のウィーンでの会議において「核物質の防護に関する条約」の改正が採択されたことを歓迎します。両条約は、核テロ対策の強化に向けた国際社会の断固たる姿勢の証として、極めて有意義なものであると高く評価しています。我が国は、核テロ防止条約に署名したところであり、両条約の早期発効に向け、我が国としても早期の締結に向けた検討を進めています。各国に対し、両条約の早期締結と早期実施を呼びかけます。

 我が国は、核セキュリティ基金の積極的な活用を継続する考えです。諸般の調整が前提となりますが、明年、我が国は、東京において、IAEAが主催するアジア・太平洋地域における核セキュリティ対策向上のためのセミナーをホストしたいと考えております。
 また、放射線源の管理も重要です。各国が、放射線源の安全とセキュリティに関する行動規範及び輸出入ガイダンスへのコミットを強化するよう求めます。

5.原子力の平和的利用

議長、事務局長、御列席の皆様、
 原子力発電は、供給安定性に優れ、地球温暖化の防止にも寄与する貴重なエネルギー源として、その重要性を増しています。放射線の医療、農業、工業分野における利用は、国際社会の経済的・社会的発展にとって極めて有益であることは言うまでもありません。

 原子力の平和的利用の分野においてもIAEAの役割には大きなものがあります。特に、IAEAの開発途上国に対する技術協力は、様々な分野における放射線利用を促進する観点から極めて重要です。我が国は、技術協力基金への拠出を100%実施している数少ない国の一つであり、各加盟国に対して、技術協力基金への拠出が遅滞なく完全に行われることを強く希望します。同時に、被援助国側に対しても相応の責任を果たすことを改めて求めます。
 また、我が国は、原子力科学技術研究・開発・訓練地域協定に対しても積極的な貢献を行っているほか、本年12月には、東京においてアジア原子力協力フォーラムの大臣級会合が開催される予定になっています。

 我が国は、原子力発電を基幹電源と位置付け、原子力発電の特性を一層有効に活用するために、高い透明性を確保しつつ、核燃料サイクルの確立を積極的に推進しています。現在、今後10年程度を見据えた、我が国の原子力政策についての基本目標、共通理念及び基本的考え方を示した新たな「原子力政策大綱」を策定中ですが、その中で、核燃料サイクルについては、その確立を目指すとの従来の方針を再確認しています。
 前回の総会以降、我が国においては、六ヶ所村の再処理工場のウラン試験が開始されたこと、高速増殖炉「もんじゅ」の改造工事が開始されたこと等、大きな進展がありましたが、安全の確保を大前提に核燃料サイクルを着実に進めていきます。

 原子力の将来を展望した活動も重要です。核融合エネルギーの実現に向けたITER計画は、本年大きな一歩を踏み出しました。我が国は、同計画において重要な研究拠点として準ホスト国と言うべき地位となり、関係各極との協力の下、その役割を十全に果たしていきたいと考えます。

6.原子力安全

 原子力の平和的利用を推進するためには、安全確保が大前提です。我が国は、原子力の安全性の向上のために最大限努力する決意です。また、我が国は、原子力安全に関する国際協力を重視し、IAEAのこれまでの取り組みを高く評価するとともに、今後とも積極的に貢献していく考えです。

7.放射性物質の輸送

 原子力の平和的利用のためには、放射性物質の円滑な輸送が不可欠です。特に、放射性物質の国際輸送は、国際法上確立した「航行の自由」の権利に基づいた活動です。我が国は、その実施に当たっては、関連国際機関が定めた国際基準に従って、最大限慎重な措置を講じており、これまで30年以上に亘り、安全裡に輸送を実施してきました。また、輸送国と沿岸国との信頼醸成を図るための対話を今後とも継続する考えです。
 また、我が国は、本年、我が国の放射性物質の輸送に係る安全規制の実施状況を評価するため、IAEAの輸送安全評価サービスを受け入れる予定になっています。

8.IAEA行財政

 IAEAがその期待される役割を果たすためには、充分な財政的裏付けが必要です。そのため、我が国は、保障措置予算の増額を含む来年度の通常予算を支持しました。他方、事業の優先順位設定と経費削減によって予算の一層効率的な運用を図るよう、IAEA事務局の引き続いての努力を求めたいと思います。また、IAEA事務局に対しては、邦人職員の増強に関しても充分な理解と協力を求めます。

9.結語

議長、
 このように重要な課題が山積する中で、IAEAに対する期待は益々高まっております。私は、IAEAがその重要な使命を達成するよう我が国としても積極的に貢献していくことを確約し、演説を終わります。

 御清聴ありがとうございました。

         
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