平成17年6月30日
本日は、トンプソン世界基金名誉理事会議長、フィーチャム世界基金事務局長、森喜朗世界基金支援日本委員会会長をはじめ、世界基金構想五周年を記念する特別シンポジウムに参加するため遠路東京にお集まりになった皆様を、心から歓迎申し上げます。
人類の歴史において、感染症は度々大きな災厄をもたらしました。そして今また、感染症への取り組みは、人類が直面している緊急で最大の課題の一つであります。グローバル化により国境を越えた交流が拡がる現代、感染症の脅威は年々拡大しております。
特に、エイズ、結核、マラリアの三大感染症は、毎年約600万人の生命を奪う恐るべき脅威であります。アジア地域のエイズによる死亡者は毎年合計50万人にのぼっており、2010年にはアジア全体のエイズ感染者数が5000万人になるとの推定もあります。感染症の問題は、一週間後に私が出席するグレンイーグルスG8サミットの参加者の重要な関心事項であります。
感染症に適時に対処し、貴重な生命と健康を守るため、政府・企業・市民社会が国境を越えて連帯し始めています。ここにお集まりの皆様は、感染症との闘いにおいて、各国のそれぞれの分野で指導的な立場で活躍されています。皆様の献身的な取り組みは、我々に進むべき道を示し、勇気を与えるものです。一昨年、東アジアでSARSが発生した際には、国際社会の協力により封じ込めに成功することができました。私達は、このような協力を一層強化していかなければなりません。
2000年の九州・沖縄サミットにおいて議長を務めた森総理は、感染症対策の重要性を提唱されました。これを受けて、G8のイニシアチブにより、世界エイズ・結核・マラリア対策基金が設立されました。
世界基金が設立以来3年余の期間に、130ヶ国において、30億ドルに上る300件ものプロジェクトを承認し、着実な成果を挙げていることはまことに喜ばしいことであります。エイズ、マラリア、結核に苦しむ世界中の人と連帯し、その撲滅に向けての闘いを支援するために、今般、日本政府は、世界基金への拠出を増額し、当面五億ドルの拠出を行うことを決めました。ここにこれを表明いたします。
健康は、幸福と自己実現のための前提条件であります。我が国は重要な外交理念の一つとして、かねてより「人間の安全保障」を提唱しております。この考えを踏まえつつ、我が国は、新たに「保健と開発」に関するODA政策を打ち出し、一昨日、今後5年間で総額50億ドルを目途とする協力を行うことを発表いたしました。
免疫やワクチンによる予防医学を確立したかのフランスの偉大な細菌学者のルイ・パストゥールは、「幸運は準備できている人だけに訪れる」と述べています。蓋し、名言であります。我が国は、自力では準備をすることのできない人たちにも幸運が訪れるよう、発展途上諸国における貧困削減と健康保持のための国際協力に取り組み続ける決意です。三大感染症により、我々の世界で五秒に一人の割合で人命が奪われていることは看過できない事態であり、世界の一人一人が健康で尊厳のある生活を営めるよう、国際社会が一丸となって感染症と闘わなければなりません。
本シンポジウムにより、今後、東アジア地域の感染症対策の輪が力強く拡がっていくことを祈念しつつ、挨拶の言葉といたします。