寄稿・インタビュー
フィリピン現地紙への上川外務大臣寄稿(令和6年7月7日)
「日本とフィリピン:戦略的シナジーへの道筋を描く」
フィリピンの皆様、こんにちは。日本の外務大臣としてフィリピンを訪問できることを大変嬉しく思います。
日本とフィリピンとの間には、16世紀にまで遡る長い交流の歴史があります。特にここ数年にかけて、日・フィリピン関係は、安全保障、経済、文化・人的交流をはじめとする幅広い分野において目覚ましく進展しています。昨年11月には岸田総理がマニラを訪問し、日本の総理大臣としては初めて、フィリピン議会で演説する機会を得ました。そして、岸田総理は、先人達が築いてきた「心と心の絆」を新たな高みに引き上げ、次世代に引き継いでいく決意を表明しました。議場を埋め尽した聴衆の皆様からの温かい拍手は、両国の絆の深さを示すものと思います。今回の私のフィリピン訪問が、こうした基盤の上に、両国関係を更に発展させるものとなることを願っています。
今回、2022年に続いて2回目の日・フィリピン外務・防衛閣僚会合「2+2」が開催されます。日本とフィリピンは海で結ばれた隣国です。世界が歴史の転換点にある中、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持・強化するためには、共に海洋国家であり基本的な価値と原則を共有する戦略的パートナーである両国の協力が不可欠です。最近では、日・フィリピン部隊間円滑化協定締結に向けた取組、警戒管制レーダーや沿岸監視レーダー、大型巡視船の供与などの協力が着実に進展しています。今回の「2+2」において、こうした進展をレビューし、今後の取組を確認することは大変時宜を得たものです。マナロ外務大臣やテオドロ国防大臣との実りある議論を楽しみにしています。
経済面での協力も着実に進んでいます。日本はフィリピンにとって最大の援助供与国であり、マニラ首都圏地下鉄計画、首都圏鉄道(MRT)3号線改修計画といった交通インフラの整備から、防災、ミンダナオ和平プロセスに至るまで、様々な分野において経済社会開発を支えてきました。今後もこうした取組を通じてフィリピンの上位中所得国入りを支援します。フィリピンには1,400社以上の日系企業が進出しており、フィリピンにとって日本は、主要な貿易相手国です。また、日本にとっても、サプライチェーン強靱化等の観点から、フィリピンは重要な役割を担います。互いの強みを活かし、共に成長するパートナーとして連携を強化していく考えです。
両国間の文化・人的交流も極めて活発です。2023年には訪日フィリピン人数がコロナ禍前を上回る約62万人に達しました。また、日・フィリピンEPAに基づき就労しているフィリピン人看護師・介護士や特定技能人材等が我が国の経済を支えています。さらに、両国にルーツを持つアスリートがゴルフや野球で活躍し、フィリピンにおいては日本のアニメや漫画が好評を博しています。こうした分野は、両国関係の基盤であり、私自身も、文化・人的交流の強化に向けた議論を深めていきたいと思います。
私のライフワークでもある「女性・平和・安全保障(WPS)」分野でも、フィリピンとの協力を更に深めていきたいと思います。WPSは、危機下における女性などの脆弱な立場の人々の「保護」に取り組みつつ、女性自身が指導的立場で「予防」や「人道・復興支援」に「参画」することで、より持続可能な平和を目指すものです。フィリピンは、女性議員の活躍に象徴されるように女性のエンパワーメントに積極的であり、東南アジア各国に先駆けて国家行動計画を策定するなど、WPS分野でも先進的な取組を進めています。この機会にフィリピンの取組を学び、連携を一層強化したいと思います。
フィリピンをはじめとする地域に平和と安定、そして経済的な繁栄をもたらす観点からは、日・フィリピン両国が共に同盟関係にある米国との関係も重要です。本年4月には米国において史上初の日米比首脳会合が実施されました。そして、経済分野を中心に、今後の具体的な協力の方向性について議論が行われ、例えば地域の連結性強化に向けた「ルソン経済回廊」の立ち上げなどの成果が得られました。こうした協力は、既に具体化に向けた議論が進んでいます。今回の訪問でも、着実な協力の進展を改めて確認する考えです。
2026年には日・フィリピン国交正常化70周年を迎えます。日本の外務大臣として、この大きな節目も見据えつつ、幅広い分野において日・フィリピン関係を一層深化させる決意です。