寄稿・インタビュー

令和2年11月25日

【1面記事】 「日本国外務大臣:我々は地域の緊張緩和に向け努力していく」

 本紙に対し、平壌との国交正常化にむけた日本の方針を述べる。(リヤド:ファタハ・アッラフマン・ユースフ記者筆)
 茂木敏充日本国外務大臣は、明日土曜、議長国サウジの下で開催されるG20を賞賛し、G20は「世界経済の成長と安定のために大きな役割を果たして」おり、コロナ禍における経済回復という課題に直面していると指摘した。
 本紙が行ったインタビューにおいて、同大臣は、中東地域から原油の約9割を輸入する日本にとって、同地域の平和と安定は日本の安全保障に直結すると述べた。また日本は、米国や中東各国と協力し、中東の緊張緩和に向けて努力していくと述べた。
 さらに、茂木大臣は、2002年に署名された宣言に基づき、拉致や核兵器の問題、不幸な過去の諸問題を解決して、北朝鮮との国交正常化を目指すと述べた。また、平壌は、大量破壊兵器や弾道ミサイルを未だ完全に放棄していないと指摘した。(全文は2面)

【2面記事】 「日本国外務大臣:G20諸国における各種改革は世界の安定強化に資する・・・平壌の不透明さは懸念を惹起する。」

 本紙インタビューで、日本は、北朝鮮による拉致被害者を米国と協力して取り戻す旨強調。(リヤド:ファタハ・アッラフマン・ユースフ記者筆)
 茂木敏充日本国外務大臣は、緊張の高まりや北朝鮮による核兵器及びミサイル開発競争、透明性を欠いた軍事力の近代化、力による現状変更の試み、海洋をめぐる問題によって、中東地域の治安は厳しさを増していると述べた。
 同大臣は、北朝鮮は、累次の国連安保理決議に則った、全ての大量破壊兵器及びあらゆる射程の弾道ミサイルの完全かつ検証可能で不可逆的な方法での廃棄(CVID)を依然として行っていないと述べた。
 その上で同大臣は本紙とのインタビューで、2002年9月の日朝平壌宣言に基づき、拉致、核、ミサイルといった諸懸案を包括的に解決し、不幸な過去を清算して、国交正常化を目指すと述べた。
 東シナ海問題については、同大臣は「中国の力を背景とした一方的な現状変更の試みや活動については、外交ルートを通じ繰り返し厳重に抗議してきている」と述べ、こうした問題が国際的な懸念を引き起こしていると指摘した。
また、サウジが議長を務めるG20については、「世界経済の成長と安定のために大きな役割を果たしてきた」とし、その改革は世界の安定強化に資するとした。以下、対話全文:
 
【問】サウジアラビアが議長を務めるG20サミットはどのような役割を担っているか。また、喫緊の問題や直面する最重要課題は何か。
 
【大臣】G20は、世界全体のGDPの8割以上を占める国際経済協調のための中核的なフォーラムであり、世界経済の成長と安定のために大きな役割を果たしてきた。その喫緊かつ最大の課題は、言うまでもなく新型コロナウイルスの世界的な感染拡大によって、リーマンショックを超える落ち込みに直面している世界経済の回復である。
 日本としては、G20が新型コロナウイルスへの対応、世界経済の回復、国際的な人の往来の再開、さらにはデジタル化の推進といったポスト・コロナの国際秩序作りを主導するというメッセージを打ち出すべきと考えている。
 その一環として、私も出席した9月のG20臨時外相テレビ会議では、水際対策を始めコロナ危機対応の各国の経験を共有するとともに、国際的な人の移動の再開に向けた国際協力の在り方やコロナ禍における諸課題について、有意義な議論を行った。
10月に私はサウジを訪問し、ファイサル外務大臣及びアブドルアジーズ・エネルギー大臣に対して、日本は、昨年の議長国として、G20リヤド・サミットの成功に向け、議長国サウジを全面的に協力していくことをお伝えした。
 
【問】「日・サウジ・ビジョン2030」の枠組みを通じてサウジアラビアが進める脱石油や産業多角化といった改革をどのように見ているか。
 
【大臣】サウジが「サウジ・ビジョン2030」の下で進めている脱石油と産業多角化を中心とした改革努力は、サウジのみならず、中東ひいては国際社会全体の繁栄と安定にも極めて重要である。
 本年に入ってから、国際油価の下落や新型コロナの全世界的な感染拡大によって、改革の重要性はますます増している。
 そのような中、日本はサウジと共に「日・サウジ・ビジョン2030」の協力枠組みを通じて、官民挙げてサウジの改革を後押ししていく。10月にサウジを訪問した際にも、ファイサル外務大臣、アブドルアジーズ・エネルギー大臣との間で、両国間で更なる協力を進めていくことで一致した。
12月には、「日・サウジ・ビジョン2030」第5回閣僚会合が開催される予定である。引き続き、幅広い分野における協力を発展させていきたい。
 
【問】中東地域の緊張緩和や情勢安定化に向けた日本の積極的な外交努力の方針は菅義偉新政権においても変わりはないか。新たな方針を打ち出す予定はあるか。
 
【大臣】中東地域から原油の約9割を輸入する日本にとって、中東の平和と安定は日本自身の安全保障に直結する。9月に発足した菅内閣においても、米国との同盟関係及び中東各国との良好な関係に基づいて、中東の緊張緩和と情勢の安定化に向けて積極的に外交努力を行っていく。
 私は、10月のサウジ及びクウェート訪問の際にお会いした両国の要人にこうした日本の基本的立場をお伝えし、引き続き連携していくことで一致した。また、両国以外でも、ヨルダン、UAE、カタール、イスラエル、イランといった中東各国の外相と電話会談を行い、中東情勢に関して意思疎通を図ってきた。こうした関係を一層強化し、中東の平和と安定に向けて各国と引き続き連携していきたい。
 
【問】東シナ海、南シナ海、北朝鮮問題を含め東アジア情勢についてどう評価されるか。北朝鮮による拉致問題にはどのような解決策があるか。
 
【大臣】インド太平洋地域において、法の支配に基づく自由で開かれた秩序を実現することにより、地域全体、ひいては世界全体の平和と繁栄を確保していくことは、日本政府の重要な外交方針である。
 一方、地域においては、北朝鮮の核・ミサイル開発や、地域諸国による透明性を欠いた形での軍事力の近代化や力による現状変更の試み、海洋をめぐる問題における関係国・地域間の緊張の高まりなど、安全保障環境は厳しさを増している。
 東シナ海については、日本の領土である尖閣諸島の周辺海域において、中国公船による領海侵入や日本漁船への接近事案が繰り返し発生し、今年1月からの接続水域内での航行が過去最多の計282日を更新するなど、一方的な現状変更の試みが継続していることは、誠に遺憾である。中国のこうした活動については、外交ルートを通じ繰り返し厳重に抗議してきており、今後とも日本の領土・領海・領空を断固として守り抜くとの決意の下、冷静かつ毅然と対処していく。
 南シナ海についても、最近の中国による活動について懸念を持って注視している。南シナ海をめぐる問題は、地域の平和と安定に直結し、日本を含む国際社会の正当な関心事項であり、日本としては、力を背景とした一方的な現状変更の試みを深刻に懸念するとともに、南シナ海の緊張を高めるいかなる行為にも強く反対する。日本は、これまで一貫して海における法の支配の貫徹を支持してきており、南シナ海をめぐる問題の全ての当事国が、国際法に基づく紛争の平和的な解決に向け努力することの重要性を強調する。
 また、北朝鮮は、累次の国連安保理決議に従った、全ての大量破壊兵器及びあらゆる射程の弾道ミサイルの完全かつ検証可能で不可逆的な方法での廃棄(CVID)を依然として行っていない。北朝鮮のCVIDの実現に向けて、サウジを含む国際社会と協力し、関連する国連安保理決議の完全な履行を進めていくことが引き続き重要である。
 我が国の対北朝鮮政策は、2002年9月の日朝平壌宣言に基づき、拉致、核、ミサイルといった諸懸案を包括的に解決し、不幸な過去を清算して、国交正常化を目指すというものである。
 とりわけ、拉致問題は菅内閣の最重要課題である。日本では1970年代から80年代にかけて、多くの日本人が北朝鮮によって拉致された。こうした拉致の被害者は、政府が公式に認定しているだけでも17名もいる。その中には、当時わずか13歳の少女も含まれている。2002年には5名の拉致被害者の方々が帰国したが、それ以来、一人の帰国も実現していない。
 拉致被害者の御家族が高齢となる中、拉致問題の解決には一刻の猶予もない。引き続き、米国等とも緊密に連携しながら、全ての拉致被害者の一日も早い帰国を実現するべく、全力を尽くしていきたい。
 今後とも、日米同盟を基軸としつつ、ASEAN、豪州、インド、欧州など、基本的価値を共有する国々とも協力し、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた取組を戦略的に、かつ着実に推進するとともに、中国を含む近隣諸国との安定的な関係を築いてまいりたい。

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