寄稿・インタビュー
ガーディアン紙への林外務大臣寄稿(令和5年5月1日)
「日・トリニダード・トバゴ関係 -60年にわたる友好関係の強化に向けて-」
この度、日本とトリニダード・トバゴとの関係の新たな1ページを開くため、日本の外務大臣として初めてトリニダード・トバゴを訪問でき大変嬉しく思います。トリニダード・トバゴは、世界的に有名なカーニバルや、ソカやカリプソ音楽発祥の地、そしてスチール・パン楽器など、私を含めた日本の音楽好きにはよく知られています。
日本とトリニダード・トバゴは、地理的には離れていますが、共に海に囲まれた海洋国家であり、価値や原則を共有する重要なパートナーです。1964年の外交関係樹立以来、一貫して良好な関係にあります。カリブ共同体(カリコム)14か国は国際場裡の一大グループですが、その中心国の一つであるトリニダード・トバゴとは、国連、防災、気候変動等で緊密に連携しています。
2014年に日本の安倍総理大臣(当時)が初めてカリブ諸国を訪問したのが、トリニダード・トバゴでした。日本とトリニダード・トバゴの外交関係樹立50周年にあたる同年、ポート・オブ・スペインにて、歴史的な初の「日・カリコム首脳会合」が開催されました。ここで日本は、小島嶼国の脆弱性克服への協力、交流の深化、国際場裡での協力、という現在にも至るカリコムへの協力三本柱を発表し、これまで協力を実施してきました。
日本とカリブ諸国は、同じ島国であり、自然災害に見舞われやすいという共通の課題に直面しています。トリニダード・トバゴを含むカリブ諸国は、たとえ一人当たりの所得が高かったとしても、小島嶼国であるがゆえの開発課題や困難に直面していると認識しています。日本は、こうした小島嶼国特有の脆弱性克服のため、上記の三本柱に基づき、各国の事情に応じたきめ細やかな支援を行ってきました。近年では、島嶼国の脆弱性、気候変動や環境問題に対する取組として、新型コロナを踏まえた保健医療体制の強化や、トリニダード・トバゴの美しい景観や海の環境を損ない、主要産業である観光業や水産業に悪影響を与えるサルガッサム海藻を除去するための支援を行っており、引き続き日本ならではの協力を積極的に行っていきます。
貿易・投資は持続可能な発展の鍵です。エネルギー分野や電力部門など当国の基礎インフラに資する分野でも、日本の企業が参画し、貢献しています。中南米有数のエネルギー供給国として、今後、更なる重要性を増すトリニダード・トバゴとの経済関係の強化を期待しています。
日本とトリニダード・トバゴの関係は、この10年で大きく深まりました。来年は両国の外交関係樹立60周年にあたり、同年を「日カリブ交流年2024」として、トリニダード・トバゴ及びカリコム諸国との交流を強化していきます。具体的には、60周年記念に向けて、在トリニダード・トバゴ日本大使館とトリニダード・トバゴ外務省との間で昨年立ち上げた合同タスクフォースを通じて、両国関係をさらに拡大強化するための協議を促進させます。
友好関係を最も体現するのは人と人の交流です。日本において語学指導等を行う外国青年招致事業である「JETプログラム」は、日本と他の国々との間の相互理解を促進する上で重要な役割を果たしているプログラムです。トリニダード・トバゴからの参加者は日本中の若い学生に英語を教えており、現在も66人が日本におります。これらのトリニダード・トバゴ人は、両国の架け橋としての役割を担っており、感謝の意を表したいと思います。
また、トリニダード・トバゴには、日本のアニメや漫画、柔道や空手、剣道といった武道に親しむ方々も多く、日本語を学ぶ方々もいます。来週、12日(金)から15日(月)まで、在トリニダード・トバゴ大使館主催の文化事業「日本伝統舞踊(地唄舞)公演及びワークショップ」が国立舞台芸術アカデミー(NAPA)、西インド諸島大学言語学習センター(UWI/CLL)及び国立図書館(NALIS)で開催されますので、是非、トリニダード・トバゴの皆様には足を運んでいただき、日本文化に触れていただけると嬉しく思います。来年の交流年では、日本文化イベントのみならず、日本とトリニダード・トバゴとの共同文化イベントがトリニダード・トバゴで開催される予定です。
カリブ諸国は、長い歴史を共にした友人であり、心から信頼できるパートナーです。国際秩序の根幹が脅かされる今こそ、日本とトリニダード・トバゴは、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持・強化するために、様々な面で協力していくパートナーだと考えています。これまでの両国60年の歩みを踏まえ、来年、日本・トリニダード・トバゴ60周年という節目の年に向けて、両国の更なる発展と連帯を願っています。