寄稿・インタビュー
PBS(米国)による岸田総理大臣インタビュー(令和6年4月4日)
【ジェフ・ベネット氏(アンカー)】
中国がもたらす挑戦はバイデン政権の主要課題の一つである。
そしてバイデン大統領は近日中に、米国の最も強力な同盟国の一つである日本のリーダーと会談し、東アジアにおける同国との防衛パートナーシップを深めることを目指す。これから日本の岸田文雄総理大臣にお話を伺うが、まずは今回のサミットの注目点についてお伝えする。
来週、防衛協力強化のための新たな計画が、2人の強力なリーダーによって発表される見込みだ。バイデン大統領は水曜日、日本の岸田文雄総理大臣をワシントンで迎え、その後両国及びフィリピンとの間での首脳会談が行われる。
これはこの10年間、近隣で台頭する中国に対処するため、第二次世界大戦後の平和主義という内向きのアプローチを徐々に放棄してきた日本の政策転換と防衛戦略の一環である。この地域における中国の軍事活動は、台湾沖での実弾射撃訓練、南シナ海での危険な接近航行、係争海域でのフィリピンの船への体当たりなど、ますます攻撃的になっていると見られている。
中国はまた、日本が固有の領土とみなしている尖閣諸島の領有権も主張している。このような状況を受けて、岸田総理は中国を抑止するための防衛力強化を目指すと約束している。
岸田総理(VTR)「我が国が厳しい安全保障環境に直面する中で、防衛力の抜本的強化は、もはや一刻の猶予もない喫緊の課題である。」
これらは全て、日米の共同作戦能力の向上を促しているが、経済面では、新たな火種が発生している。
バイデン政権は先月、日本企業である日本製鉄がピッツバーグを拠点とするUSスチールを141億ドルで買収するという案に反対し、USスチールが国内で株式所有・経営される米国の鉄鋼会社であり続けることが極めて重要であるとの声明を発表した。
日本製鉄は、買収は米国製鉄鋼の品質と競争力を向上させることで米国の優先事項を推進するとともに、米国のサプライ・チェーンを強化するものだと反論した。
なおホワイトハウスは日本との関係を悪化させたくないと明言している。
カービーNSC戦略広報調整官(VTR)「大統領は、この国の鉄鋼労働者たちに自分が後ろ盾についていると確実に知ってもらおうとしている。しかしそれは、現在、そして将来の日本との素晴らしい関係を何一つ損なうものではない。」
インタビュー
【ベネット氏】
昨晩、私は東京の総理公邸にいる岸田総理と話をした。
岸田総理、「ニュースアワー」にようこそ。
来週の重要議題のひとつは、日本製鉄に関するものだ。バイデン大統領は、USスチールの日本製鉄への売却計画に反対しており、それは国家安全保障上の問題であると示唆している。大統領の言葉を借りれば、「米国は、米国の鉄鋼労働者によって支えられている強力なUSスチールを維持する必要がある」とのことだ。
バイデン大統領は間違いを犯していると思うか。
【岸田総理】
USスチールの具体的な案件については、当事者間で個別の協議が行われているため、直接コメントすることは差し控えたい。
しかし、日米同盟はかつてないほど強固になっており、我が国は今や世界最大の対米投資国に成長し、米国で多くの雇用を生み出している。
この投資は今後も拡大していくことが期待されている。このウィンウィンの流れをより確かなものにするために、我々はアジア太平洋における持続可能で包摂的な経済成長を実現し、ルールに基づく経済秩序を維持できるよう協力する必要がある。
このような考えを経済面での基本とし、その実現に向けて私は強力に働き続けるつもりである。
【ベネット氏】
来週ワシントンにいる間に、岸田総理とバイデン大統領は防衛協力の強化で合意する。日本は中国への懸念から、2025年3月末までに統合司令部を設置したいと考えている。
この強化された日米防衛関係によって、将来どのようなことが可能になるのか。
【岸田総理】
ロシアによるウクライナ侵略やイスラエル・パレスチナ情勢を目の当たりにし、国際社会はまさに歴史的な転換点に直面している。
その中で、日米同盟の重要性はますます高まっていると考える。またインド太平洋における状況は我が国にとって戦後最も厳しく複雑になっている。だからこそ、2022年末に国家安全保障戦略を策定し、防衛費をGDPの2%に引き上げることを決定した。
今回の訪米では、日米間の安全保障協力を更に拡大できるよう議論を深めていきたい。
【ベネット氏】
この新しい統合司令部は実際の軍事作戦に関与するのか、それとも日米間の軍事演習の計画のみを行うのか。
【岸田総理】
我が国が策定した国家安全保障戦略に基づき、統合司令部の設置を計画している。
しかし、統制権自体は、それぞれの関係国、すなわち日本と米国に残る。そしてその新しい制度の下で、日米がしかるべく連携するようにしたい。
【ベネット氏】
仮に中国が台湾を攻撃した場合、この新しい司令部は台湾の防衛に関与するのか。バイデン大統領は、中国が台湾を攻撃した場合、米国は台湾の防衛に当たると何度も発言している。
日本も同じ対応をするのか。
【岸田総理】
台湾に関する仮定に基づいた質問には回答を差し控えたい。
しかし、台湾海峡の平和と安定は、日本の安全保障のみならず、国際社会全体の安定にとっても非常に重要である。したがって、我が国は、台湾をめぐる問題は平和裏に対話を通じて解決されるべきとの立場を一貫してとってきた。
もちろん今後も我々の考えを正式に中国に伝えていくとともに、米国などの同盟国やほかの同志国とも引き続き緊密に連携して、我々の立場を明確に伝達していく。
【ベネット氏】
南シナ海やアジアのほかの海域における中国の軍事活動について、どの程度懸念しているか。習近平国家主席の究極的な目標は何だと考えるか。
【岸田総理】
中国は、十分な透明性を確保することなく、核とミサイル能力を含む幅広い分野で、また急速に、地域における軍事力を拡大している。
また中国はロシアとの協力も強化している。これを受け、日本海や太平洋などにおける彼らの軍事活動は活発化するとともに、より一層激化している。そのため、我々は彼らに透明性を高め、国際行動規範を遵守するよう働きかけている。
【ベネット氏】
今回の訪米では、宇宙での協力も発表すると聞いている。日本は米国人以外を初めて月面に着陸させることを目指しており、また米国はその計画に同意しているのか。
【岸田総理】
宇宙については、日本がこの分野での協力を拡大することはすでに確認されている。
したがって、日本人宇宙飛行士が月面に着陸するかもしれないという夢を持っている。今回の訪米では、それが会談の成果の一つになることを願っている。
【ベネット氏】
先ほど出たウクライナに話を戻したい。
ウクライナへの軍事支援は、米国のアジアに対するコミットメントを果たすことを難しくするのか。
【岸田総理】
ロシアによるウクライナ侵略は、国際秩序の根幹を揺るがす暴挙である。私は今日のウクライナは明日の東アジアかもしれないという強い危機感を抱きながらこの問題に対処し、ロシアに対する厳しい制裁及びウクライナへの強力な支援を継続してきた。
そして2月19日には、東京で「日・ウクライナ経済復興推進会議」を開催した。その成果に基づき、我が国はウクライナへの協力を継続していく。また、一部のアジアの国々が誤解するかもしれないため、国際社会はロシアに対し絶えず強いメッセージを送り続けるよう協力しなければならない。
【ベネット氏】
多くの米国人が主張するように、ウクライナへの支援は、地域における中国への潜在的な抑止力として重要だと考えるか。
【岸田総理】
我々は法の支配に基づき、自由で開かれた国際秩序を維持する必要がある。
また我々はいかなる国に対しても他国に攻撃的になるのを常とすることを決して許してはならない。もしそれを許してしまえば、アジアを含む世界中の国々に誤ったメッセージを送ってしまうことになる。
【ベネット氏】
北朝鮮は今週また弾道ミサイルを発射した。この新たな軍事パートナーシップは、どの程度北朝鮮とその挑発を封じ込めるためのものなのか。
また中国、ロシア、そして北朝鮮の間の明白な軍事協力について、どの程度懸念しているか。
【岸田総理】
北朝鮮による核・ミサイル開発は、日本のみならず国際社会全体の平和と安定に対する脅威である。
最近、北朝鮮の核開発能力が著しく向上していると感じており、そのことに深い危機感を抱いている。だからこそ、同盟国及び同志国間での協力、特に日米韓協力を強化する必要がある。
御指摘のとおり、北朝鮮はロシアと具体的な協力関係を結んでいると報じられている。これは東アジア諸国共通の懸念であり、国際社会はより一層協力していかなければならない。
【ベネット氏】
最後に、日本はドナルド・トランプ前大統領と良好な関係を築くことに成功した米国の同盟国の一つである。それはどのようにして可能だったのか。またトランプ前大統領が再選された場合、彼との付き合い方について、米国の同盟国に対しどのようなアドバイスがあるか。
【岸田総理】
安倍総理大臣とトランプ大統領の時代には、日米関係を更に充実させる努力がなされた。
そしてそれは今日まで続いている。したがって、今回の大統領選挙の結果にかかわらず、複雑化する国際情勢の中で、日米同盟の重要性は更に増すだろう。そしてこれは、米国内でも超党派の共通認識だと考えている。
だからこそ今回、日米同盟の重要性を改めて協議し、日米関係を更に発展させる取組を継続していけるよう、訪米を決意した。日米同盟が安全保障分野においてだけでなく、経済面でも非常に重要なものだと理解されることを願っている。
日本がパートナーとしていかに重要な国であるか、米国が改めて再認識してくれることを願っているし、今回の訪米ではそれを確認したい。
【ベネット氏】
日本の岸田文雄総理大臣、今晩はお時間をいただき感謝申し上げる。
【岸田総理】
心からお礼を申し上げるとともに、御協力に改めて感謝申し上げる。