寄稿・インタビュー

令和5年11月17日

1面「岸田『尹大統領と信頼深まる・・・新時代切り拓く』」
 日本の岸田文雄総理が「韓国訪問でさらに深まった尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領との友情と信頼関係の下、力を合わせて両国の新時代を切り拓いていきたいと思う」と述べた。
 岸田総理は、11日午後、日本東京の総理公邸で行われた洪錫炫(ホン・ソクヒョン)中央ホールディングス会長との特別対談において、「現下の戦略関係の中で、日韓、日韓米の協力が今より重要な時期はなかった」とし、このように述べた。今月7~8日に訪韓した岸田総理との対談は、今月19~21日に広島で開かれるG7サミットを控える中で行われた。2021年10月に就任した岸田総理が、韓国メディアと対談・インタビューを行うのは今回が初めてだ。
 対談において洪会長は、「金大中・小渕宣言25周年を迎える今年の秋頃にこれに匹敵する「尹錫悦・岸田宣言」を期待してもよいか」とし、1963年のドゴール仏大統領とアデナウアー独首相が過去の敵対関係を清算して結んだエリゼ条約について言及した。これに対し岸田総理は、「今後の具体的な外交日程や言及された成果について今の時点で予断することは難しいが、緊密な連帯を通じ、具体的な両国間の協力関係を進展させ、これを適切な形で発信していきたい」と答えた。
 岸田総理は、先般の訪韓時に「私自身、当時、厳しい環境の下で多数の方々が大変苦しい、そして悲しい思いをされたことに、心が痛む思いである」と発言したことについて、「私自身の思いを率直に語ったものである。当然、韓国側と事前に調整を行ったものではない」と明らかにした。「金大中・小渕宣言にある「痛切な反省と心からのお詫び」という表現を待っていた多くの韓国国民の期待には及ばなかった」という洪会長の言及には「日本政府の立場に加えて、私自身の思いを率直に語ったものである。こうした私の姿勢や思いについて多くの方々に御理解いただきたい」と述べた。
 韓国政府の徴用解決策については、「2018年の大法院判決により非常に厳しい状態にあった両国関係を健全な関係に戻すためのもの」と評価した。日本の徴用企業の第三者弁済参加問題等については、「民間企業の対応について政府としてコメントすることは差し控えたい」と述べた。

2面「洪錫炫『過去の歴史問題に反省・謝罪の表現を使わなかったが・・・』」
 日本の岸田文雄総理と洪錫炫中央ホールディングス会長の特別対談は、11日午後、東京の総理公邸で行われた。今月7日にソウルで行われた韓日首脳会談と12年ぶりに復元した両国首脳間のシャトル外交の意味が自然と話題に上った。
韓日首脳会談
(洪会長)予想より早く訪韓した。どのような気持ちで早期訪韓したのか知りたい。韓日関係の改善を主導した尹錫悦大統領の決断に対して支援射撃というか、それに応えたいという気持ちがあったのではないか。尹大統領と「ケミストリー」が合うように思える。
(岸田総理)3月に尹大統領が示された決断力と行動力に改めて敬意を表したい。日韓関係の強化における尹大統領の強い思いを私も共有している。(5月19~21日に開かれる)G7サミット前に忌憚のない意見交換を行いたいとの想いで、早期に訪韓することになった。
(洪会長)韓国では強制徴用問題について何らかの進展したメッセージを出すのではないかと注目された。総理は「私自身、当時の厳しい環境の下で多数の方々が大変苦しい、悲しい思いをされたことに心が痛む思いだ」と述べた。苦心の末に出された表現だと思われる。韓国政府と調整があったのか、もしくは自ら決めたのか。
(岸田総理)記者会見において、歴史認識について(日本)政府のこれまでの立場を明らかにした上で述べた。これは私自身の思いを率直に語ったものである。当然、韓国側と事前に調整を行ったものではない。
(洪会長)それにもかかわらず、「金大中・小渕宣言」にある「痛切な反省と心からのお詫び」という表現を待っていた韓国国民の期待には及ばなかった。この表現を使わない、あるいは使えない理由があるか。
(岸田総理)今回の会談でも、1998年10月に発表された共同宣言を含め、歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体として引き継いでいるという立場は今後も揺るぐことはないということを明確に申し上げた。このような日本政府の立場に加えて、私自身の思いを、私自身の言葉で率直に語ったものである。こうした私の姿勢や思いについて、多くの方々に御理解いただきたいと思っている。
(洪会長)尹大統領と広島平和公園内にある「韓国人原爆犠牲者慰霊碑」を共に訪れると発表した。両国の首脳がここを参拝するのは初めてであり、平和の大切さを伝える深い意味がある。韓国の要請があったのか、それとも総理の決断によるものか。
(岸田総理)尹大統領が訪問される際、「韓国人原爆犠牲者慰霊碑を参拝されたいのではないか」と考えた。私自身広島出身であり、G7サミットをホストする立場であるので、まず尹大統領に提案した。そして意思が一致し、慰霊を行うこととした。有意義な参拝になってほしいと思う。
(洪会長)今回の首脳会談は、両国関係改善を本軌道に乗せる象徴的な会談であったと評価されている。ただ、韓国内では3月の強制徴用に関する解決策の発表後、日本側の呼応措置が伴わなければ両国の未来協力基調が本格化できないとする世論がある。韓国政府が推進している「第三者弁済案」と関連し、三菱重工業や日本製鉄などの日本企業が参加する可能性は開かれているとみてもよいか。
(岸田総理)日本は、韓国政府が発表した措置について、2018年の大法院判決により非常に厳しい状態にあった日韓関係を健全な関係に戻すためのものとして評価している。これを受けて尹大統領を日本にお迎えし、私自身も訪韓する中で、安保や経済等の様々な分野で、多様かつ具体的で前向きな取組が既にダイナミックに動いていると感じている。個別の民間企業の対応については、政府としてコメントすることは差し控えたい。
(洪会長)両国世論の動向や、国民間の相手に対する否定的な認識を考えると、民間レベルでも世論を管理する努力が必要だ。私も4年前から韓国の与野党、保守・進歩の知識人、専門家80名余りが参加する「韓日ビジョンフォーラム」を運営しながら難題を解決するためにそれなりに努力してきた。両国で尊敬され、影響力のある民間グループが力を合わせて、日韓関係をどう復元し、1000年の盤石の上に押し上げることができるのかを議論し、知恵を集めていければよいと思う。そのため「韓日賢人会議」を発足させたらと思うが、総理はどうお考えか。
(岸田総理)各界・各層の知的交流、人的交流がより一層活発化することで関係改善の好循環が更に加速していくことが必要だと期待している。両国政府の各レベルが民間の協力を後押しし、両国にとって共に利益となるように進め、具体的な成果を出していきたい。
韓日関係と福島汚染水 (洪会長)両国関係は過去の歴史を超えて未来に進むべきだと思う。「金大中・小渕宣言」25周年を迎える秋頃に、これに匹敵する「尹錫悦・岸田、岸田・尹錫悦宣言」を期待してよいか。1963年、ドゴール仏大統領とアデナウアー独首相が両国間の敵対関係を清算して結んだエリゼ条約が思い出される。

3面「岸田、『歴代内閣継承の立場は揺るがない』」
(岸田総理)日韓、日韓米の協力が今より重要なときはないと思っている。このような中で、多様な分野で協力を進めていきたい。今後の具体的な外交日程だとか、会長が述べられた成果(尹錫悦・岸田宣言)について今の状況で予測することは難しいが、今般の訪韓を通じ、尹大統領との信頼関係を更に深め、地域情勢等について意見を交わし、国際社会が直面する諸問題についても協力していくことで意見の一致を見た。緊密な連帯を通じ、両国間の具体的な協力関係を進展させ、これを適切な形で発信していこうと考えている。
(洪会長)大きな事故が起きた原発から出た水を放流することは、並大抵のことではない。安全の問題では科学的根拠に基づくことができるが、「安心」の問題は別のイシューだと見られるのではないか。今回の首脳会談で韓国の専門家の現地視察団派遣を受け入れたが、韓国では単なる視察に終わるのではないかという指摘も出ている。総理は、先般ソウルで行われた首脳会談で「韓国国民の健康と海洋環境に悪影響を及ぼす形の放流は認めない」と述べたが、そのような観点から、韓日共同調査、共同検証までも受け入れる考えはあるか。
(岸田総理)日本は、原子力分野の国際的な権威がある国際原子力機関(IAEA)のレビューを受けつつ、高い透明性をもって科学的根拠に基づく誠実な説明を行ってきている。日本の総理として、自国民及び韓国国民の健康や、海洋環境に悪影響を与えるような形での放出は認めないということを改めて申し上げたい。今回の視察は、日韓双方がIAEAの権威を共通の前提としている。IAEAレビューとALPS(多核種除去設備)処理水の分析に、韓国の専門家と韓国の機関がそれぞれ参加し、貢献しているものと承知している。今回はこれに加え、韓国専門家の現地視察団派遣などを通じて、透明で科学的根拠に基づく説明を行うことによって、ALPS処理水の海洋放出の安全性のみならず、「安心」についても韓国の方々の理解が深まるように努力していきたい。
経済安保協力
(洪会長)両国の企業は、米国のインフレ削減法(IRA)と半導体支援法の影響圏内に入っている。両国が共同で対応する意向はあるか。
(岸田総理)半導体やバッテリーのサプライチェーンの強化に向けては、意思を共にする国家・地域と共に連携して取り組むことが重要と考える。特に、日米韓3か国は、このような分野における重要なパートナーである。互いの強みを尊重し、互いに補完していくことが重要である。
(洪会長)グローバル半導体サプライチェーンの構築に関して日米間の協力が具体化されている。過去には半導体やディスプレイ部門で韓日間の協力が活発になされた。AI(人工知能)自動運転車の開発協力に向けた韓日両国の「半導体同盟」は実現し得ると見るか。
(岸田総理)半導体分野においては、日本企業の製造装置や部品・素材等を活用し、韓国企業が半導体を製造し、それを日本の企業が活用する互恵的なサプライチェーンが構築されている。自動運転の実現、IoT端末機の多様化、AI活用の拡大などに向けては、半導体の安定的な供給確保が必要であり、世界有数の半導体企業を有する両国が連携して、サプライチェーンの強化を行うことは重要なことだ。日本から韓国、韓国から日本への、双方向の投資が活性化するよう、韓国政府とも連携しながら検討していきたい。
G7サミットと北朝鮮問題
(洪会長)総理は、拉致問題を含め、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長と対話する意思を数回表明した。北朝鮮との会談についてどのように考えるか。
(岸田総理)日朝平壌宣言に基づき、拉致、核、ミサイルなどの懸案を包括的に解決し、不幸な過去を清算して国交正常化を実現することを目標としている。 私自身、条件なしに金委員長と直接向き合う覚悟がある。
(洪会長)韓国内ではG7に韓国が新しく入って「G8」を作ることに対し、米国は賛成するが、日本が反対するとの見方もある。クアッドも同様である。
(岸田総理)G7内でメンバー拡大の議論をこれまで行ったことはない。米国は賛成、日本は反対といった構図は事実ではない。また、クアッドの場合、現在4か国の間で実践的な協力の具体的な成果を出すべく取り組む(段階であり、)参加国の拡大に向けた議論は行われていない。今後どのような議論が進んでいくのかは鋭意注視する。
 対談を終えた岸田総理は、「貴重で有益な質問に心から感謝する。様々なレベルと分野で意思疎通を行うことが両国関係の改善に大きく役立つと考える。今後も貴重なアドバイスをしてほしい」と述べた。洪会長が「両首脳が今回良いケミストリーを作っただけに、今後もこの良い機会を続けてほしい」と述べると、岸田総理は「そのようにする」と答えた。 4面「岸田、『尹大統領』20回余り言及、『韓国の地方都市に行きたい』」
 日本の岸田文雄総理と洪錫炫中央ホールディングス会長の特別対談は、11日午後、東京都千代田区永田町にある総理公邸で45分間行われた。公邸は、総理の執務空間である総理官邸のすぐ隣にある住居空間だ。
 1929年に竣工した旧官邸の建物を改築し、2005年から使用している。対談が行われた公邸1階の大ホールは、英国のエリザベス2世女王などの外国首脳が訪問した際、総理主催の晩餐が開かれた場所だ。総理室関係者は、「外部の人物との面談や会談はほとんど執務棟である官邸で行われるが、韓日関係が引き続き未来志向的な良い方向に進むことを願い、韓国の代表メディアとの対談という点を考慮し、場所を特別に落ち着いた雰囲気の公邸に決めた」と説明した。
 突然降り出した夕立で岸田総理が出席した赤坂御苑の園遊会行事が遅れたことにより対談開始が予定より遅れたが、岸田総理は次の日程を先送りしてまで対談に意欲を示した。先に到着した洪会長が岸田総理を迎え、「お忙しい中、時間を割いて下さり感謝申し上げる」と挨拶をすると、岸田総理は「会長との出会いを期待していた」と答えた。対談は、逐次通訳による時間の遅延を減らすため、異例にも同時通訳で行われた。両国の未来をより広く、深く議論しようという日本の総理室の提案だった。
 対談の途中、岸田総理は、尹錫悦大統領について20回前後も言及し、親密さを示した。韓国料理の部分でも、韓国旅行のテーマでも「尹大統領」が間違いなく登場した。「尹大統領と心が通じるようだ」という洪会長に、岸田総理は「今回の訪韓で尹大統領と非常に気持ちよく話ができていることを嬉しく思う」と明らかにした。尹大統領との個人的信頼関係と友情もしばしば取り上げた。
 岸田総理は、普段の韓国に対する考えも率直に明らかにした。「最近、日本で韓国ドラマや文化コンテンツが人気を集めているが、視聴したドラマがあるか」という質問には、「私の妻(裕子夫人)は、好きな韓国ドラマが何本もあり、韓国ドラマを楽しんでいると承知している」とし、「日本で韓国文化が高い人気を誇っていることは強く感じており、これは非常に歓迎すべきことだ」と答えた。
 好きな韓国料理を聞くと、「韓国の食文化は非常に多彩で、美味しい料理が多いと承知している」とし、「日本でも(韓国料理が)非常に人気がある」と述べた。続けて、「今回の訪韓時、尹大統領の公邸で食べた料理の中でプルコギとチヂミが非常においしくて印象に残った」とも述べた。また、「家族と一緒に韓国旅行をするなら行きたいところはどこか」という質問には、「韓国に何回も行ったが、地方都市は行くことができなかった」とし、「ソウル以外の場所もぜひ訪れてみたいので、次に尹大統領に会ったら、どこに行けばよいのか聞き、推薦してもらいたい」と述べた。
 対談の現場には総理室の嶋田隆首席秘書官と四方敬之内閣広報官、小野日子外務省報道官など、核心幹部10人余りが同席した。日本メディアも公邸の前に集まって質問し、対談に大きな関心を示した。

4面「広島の韓国人慰霊碑共同参拝。岸田、『尹大統領に先に提案した』」
 福島原発汚染水韓国視察団に関し、洪会長は、「安全の問題は科学的根拠に基づいているが、「安心」の問題は別のイシューと見ることができる。韓国では視察団が単なる視察にとどまるのではないかという指摘も出ている」と述べた。これに対し、岸田総理は、「日本は原子力の国際的権威があるIAEA(国際原子力機関)からレビュー(調査)を受けている。本件視察は、日本と韓国の双方がIAEAの権威を共通の前提としている」とし、「安全性だけでなく「安心」についても韓国の方々の理解を深めるよう努力する」と述べた。
 尹大統領との広島韓国人原爆犠牲者慰霊碑共同参拝は、「広島出身でG7サミットをホストする立場であるため、まず尹大統領に提案し、意見が一致した」と述べた。
 G7サミットの加盟国拡大問題に関し、洪会長が「韓国内にはG7に韓国が新たに入ってG8を作ることには米国は賛成しているが、日本が反対するという見方がある」と述べると、岸田総理は「これまでG7内でメンバー拡大について話し合ったことがない。米国が賛成であり、日本は反対という構図は事実ではない」と述べた。北朝鮮の核と地域安保の懸案について岸田総理は、「北朝鮮の挑発行為が続くなど、地域の安全保障環境がますます厳しくなっている中、日本と韓国、日米韓安全保障協力によって抑止力と対処力を強化することが非常に重要だ」とし、「同時に北朝鮮との対話の窓は開かれている点については変わりない」と強調した。
 「日本の反撃能力保有について周辺諸国の懸念があることは事実」という洪会長の見解に、岸田総理は「日本の国家安全保障戦略は、第一に外交の重要性を先に掲げている」とし、「地域の平和と安定のために強力な外交を推進していく上で、自国民の生命と生活を守ることができる防衛力が必要だと考えたもの」と説明した。

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