寄稿・インタビュー

無限の協力の可能性がある日越関係

令和5年10月24日

 今回、外務大臣に就任後初めての二国間訪問先として、ベトナムを含む東南アジア4カ国を訪問します。特にベトナムは、私にとって、2017年5月に自民党司法制度調査会視察団の団長として訪問して以来、6年ぶりの訪問です。日越外交関係樹立50周年という両国にとって歴史的な節目の年にベトナムを再訪することができ大変嬉しく思います。

 20世紀初頭、「東遊(ドンズー)運動」の下、最盛期には約200名の貴国の青年たちが我が国に留学しました。私の地元の静岡県は、「東遊(ドンズー)運動」を提唱した革命家ファン・ボイ・チャウと医師浅羽佐喜太郎の交流の舞台でもあります。このため、私は以前からベトナムには親しみを感じていました。また、法務大臣を務めていた際には、約30年にわたって日本が力を注いできたベトナムに対する法制度整備支援を通じ、両国の司法分野における協力促進に邁進してきました。そのような背景から、私にとって、ベトナムは思い入れのある地です。

 今日の両国の友好関係は、千年を超える長い交流の歴史の中で培われてきました。16世紀から17世紀にかけては、国際貿易港として栄えたベトナム中部に位置するホイアンに、我が国から多くの交易船が訪れ、日本人町が作られました。先月には、その当時の日本人商人とベトナム王女の愛の物語を描いたオペラ「アニオー姫」がハノイオペラハウスで上演され、秋篠宮皇嗣同妃両殿下の御臨席を賜りました。

 1973年9月に日本とベトナムが外交関係を樹立してから半世紀、両国の関係はかつてないほど緊密になっています。特に、近年、両国の人的往来は目を見張るものがあり、2012年に約5万人であった在日ベトナム人数は、10年後の昨年には10倍の約50万人となり、技能実習生、特定技能、留学生、介護士・看護士等、多様な人材が日本で活躍しています。また、現在、約2万人の在留邦人がベトナムに滞在し、ベトナムの方と手を携えながら、地域に溶け込んで日々の生活を送っています。ベトナムの方々が、温かく受け入れてくださっていることに感謝したいと思います。更に、2019年には約100万人の日本人観光客がベトナムを訪れ、ベトナムからも約45万人が日本を観光に訪れる等、両国の往来は大変盛んです。
 このような人的交流のおかげで、日本には、多くのベトナム料理店や雑貨店ができ、大人気です。また、ベトナムにおいては、若者の間で日本のマンガやアニメの人気が高く、お寿司や焼き鳥などの日本食も人気だと伺っており、お互いがお互いにとって身近な国となっていることを嬉しく思います。
 長い歴史の中で、両国国民の不断の努力によって紡がれてきた両国の友好関係を時代の変遷に対応させながらも次世代に繋いでいくこと。これは外交の役割の1つであると考えます。
 今回、ソン外相を始めとしたベトナムの指導者の皆様と、今後の両国関係や、日ASEAN関係について意見交換し、両国の「広範な戦略的パートナーシップ」を、今の時代の両国関係に見合う、更なる高みに引き上げるべく強化していきたいと思います。

 今回の私の訪問では、次の2点を目指します。  

 第1に、日越関係の更なる推進です。新型コロナウイルスという未曾有の事態を経験し、サプライチェーンの多元化を進める日本企業にとってベトナムは重要な生産拠点となっています。また日本は、対ベトナムODAを本格的に再開した1992年以来、一貫して最大の援助国として、道路、港湾、空港等のインフラ整備をはじめ、人材育成、医療分野等の様々な分野においてベトナムの経済・社会発展に寄り添ってきました。例えば、ニャッタン橋などベトナムの交通の大動脈を担うインフラも日本が手がけてきました。現在、都市鉄道が日本の支援の下、ホーチミン市で建設されています。
 一方、少子高齢化が進む日本において、ベトナム人材は、日本の経済社会を支え、大きな貢献をしてくれています。日本とベトナムはお互いを必要としあう、真の友人ともいうべき関係となっています。
 また、気候変動やグリーン成長といった国際社会共通の課題についても、ベトナムは日本の重要なパートナーです。今年7月、ベトナムのグリーン成長・エネルギー移行推進を後押しするため、両国の間で「AZEC/GX」推進ワーキングチームが発足しました。 ベトナムとともにこうした取組を強化していきたいと思います。

 第2に、ASEANを含む地域・国際場裏における連携の強化です。国際秩序の根幹が揺らぐ歴史の転換点ともいうべき時代を迎える中、世界を分断や対立ではなく協調に導くべく、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化が不可欠となっています。太平洋とインド洋のシーレーンに位置するベトナムは、その実現においても要となるパートナーです。様々な課題が山積する地域・国際情勢の対応においてもベトナムとの連携を強化したいと思います。

 本年は日ASEAN友好協力50周年でもあります。1973年以来、日本とASEANは、「心と心」の繋がる真の友人としての強固なパートナーシップの下、アジア太平洋地域の平和と繁栄のために緊密に協力してきました。12月に東京で開催する日ASEAN特別首脳会議では、新たな関係のビジョンを打ち出す考えです。

 日ベトナムも日ASEANも50周年を祝うこの歴史的な節目に、両国の関係は一層の飛躍のチャンスを迎えています。今回の訪問を通じ、日本とベトナムの協力の可能性が無限にあることを再確認したいと思います。引き続き、お互いに信頼できるパートナーとして、手を携えて、外務大臣として両国の友好関係の発展に向けて全力を尽くしていきたいと思います。

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