寄稿・インタビュー
2023年9月20日付:国営ベトナム通信(ベトナム)への上川外務大臣寄稿
友情と信頼が日ベトナム関係の原動力
上川陽子外務大臣:日ベトナム関係を促進する原動力は、長年にわたり培われた人的交流に基づく友情と信頼である。
日ベトナム外交関係樹立50周年に際し、ベトナム通信社東京支社は、上川陽子外務大臣に対して、二国間関係において忘れてはならないマイルストーン、両国の外交関係発展を支えた原動力、両国がより発揮するべき強み、今後の両国の協力関係の展開に関してインタビューを行った。
--ベトナムと日本が外交関係を築いてきた50年間において、忘れてはならないマイルストーンは何だとお考えになりますか。
上川陽子外務大臣:
両国はこの50年間、多くの先人たちのたゆまぬ努力により、あらゆる分野で関係を発展させてきました。重要な節目はこれまで多くありましたが、1992年のODAの本格的再開、1993年のキエット首相の訪日を皮切りとした要人往来の開始、2017年の天皇皇后両陛下(現在の上皇上皇后両陛下)のベトナム御訪問、2019年以降の新型コロナウイルス対策に係る両国間の協力などがマイルストーンといえます。
中でも、両国関係を現在の史上最良の関係と言われるまでの高みに押し上げた重要なマイルストーンは、2014年の「広範な戦略的パートナーシップ」への格上げです。
日越関係は、2014年のパートナーシップの格上げ以降、より広範な分野で、戦略的な関係を築いてきています。ODAなどの経済協力中心の関係から、安全保障やエネルギー分野での協力など、国の根幹に関わる分野での協力が進展したほか、ベトナムにおける人材育成への協力など、両国間の信頼を一層増進させる協力も深化しました。
外交関係樹立50周年の本年、両国は「広範な戦略的パートナーシップ」を更なる高みに引き上げることを確認しています。両国において、これまで数多くの記念イベントが開催されているほか、秋篠宮皇嗣同妃両殿下がベトナムを御訪問されました。この御訪問は、両国の親密な友好親善関係を更に深めるものとなるでしょう。2023年が、両国の次の50年に向けた大きなマイルストーンになると確信しています。
--現在、ベトナムと日本の外交関係は「広範な戦略的パートナーシップ」のレベルに達しています。両国が外交関係においてこれほど大きな前進を遂げた動力は何だとお考えになりますか。
上川陽子外務大臣:
長年にわたり培われた人的交流に基づく友情と信頼が両国関係の発展の原動力です。
両国の人的交流は、8世紀のベトナム人僧侶の訪日から始まります。その後、17世紀の両国間の貿易航路が開かれた時代、多くの日本人商人がホイアンにて生活をしたほか、19世紀の東遊運動ではベトナムの方々が日本へ留学に訪れ、両国の人々の間に強い友情が育まれました。外交関係の樹立後、1978年には日越友好議員連盟が発足しました。現在も非常に活発に活動をしている歴史ある議連であり、両国議連間の交流、友情と信頼関係は両国関係の発展に大きく寄与しています。
両国のハイレベルの往来はこれまで活発に行われてきました。歴史的な訪問も数多く行われてきました。現在の上皇上皇后両陛下に天皇皇后両陛下として最後に外国御訪問いただいたのはベトナムでした。こうした長年にわたる交流により、両国間の信頼が醸成されています。互いの国のために協力したいという強い友情や熱い思いを持つ日越関係者が多くいることが、両国の関係発展の大きな原動力となっています。
--過去50年間のベトナムと日本の協力関係の成果をどのように評価しますか。また、促進すべき強みは何でしょうか。
上川陽子外務大臣:
50年間の協力関係を経て、日本とベトナムはwin-winの関係を築き、互いに信頼できるパートナーになりました。
1992年にODAが本格的に再開した後、両国関係は急速に発展していきました。ベトナムの成長はベトナム自身の成長はもとより、地域全体の発展、そして日本の発展にもつながる、との考えの下、日本はベトナムへの最大の援助国として、道路、港湾、空港等のインフラ整備を行い、ベトナムの発展に貢献してきました。日本は、ベトナムの人々が自らインフラを整えられるよう、技術移転も実施しながら、「質の高いインフラ」を手掛けてきました。
そのような支援を通し、ベトナムの皆さんから日本や日本の技術に対する信頼を得ることができたと考えます。現在も、高い技術力が必要となるベトナム初の地下区間を有する都市鉄道が、日本の支援の下、ホーチミン市で建設されています。日本にとってもこのようなプロジェクトに協力できることは誇らしいことであり、ベトナムの皆さんの生活が、日本の技術によってより良くなることを願っています。
日本企業にとってベトナムは重要な生産拠点であり、有望な投資先の一つです。特に、日本企業がサプライチェーンの多元化を進める中で、ベトナムへの注目はますます高まっています。ベトナムの成長は日本の発展につながります。日本は引き続きベトナムの持続的な経済成長、包摂的な社会作りに協力し、ともに発展を続けていきたいと考えます。
--今後、両国関係をさらに発展させるために、両国は何をすべきだと思いますか。また、今後どの分野での協力を強化していくことになるとお考えになりますか。
上川陽子外務大臣:
日越関係はあらゆる分野で関係強化が進んでいますが、中でも人的交流、経済関係、先進分野における連携を強化すべきです。
人的交流については、日本で生活をする約50万人ものベトナム人の方々がより一層日本社会で活躍できるように日越間で緊密に協力することが必要です。在留ベトナム人が多くなり、日本においてベトナム料理店や雑貨を扱うお店が増え、ベトナム人と接する機会も増加する等、日本人にとってベトナムは大変親しみやすい国になっています。
その一方で、在日ベトナム人による犯罪の増加や一部の技能実習生等が苦しい環境に置かれているなどの現状があります。このような状況が、友好関係に影を落とさないよう、そして、日本で働くベトナムの方々に日本に来てよかったと思ってもらえるよう、さらに日越間で取組を強化していきたいと思います。
また、経済関係については、日ベトナム間の民間企業の投資が促進されるよう、投資環境を整えていくことが重要です。政府が間に入らなくとも、企業が互いの国で健全に経済活動を行うことができることが成熟した経済関係だと考えます。日本企業のベトナムへの投資熱は高まるばかりです。両国そして両国企業がwin-winの関係になるよう、政府間で連携し、投資環境を整えていくことが両国の経済関係の発展のために不可欠です。
加えて、気候変動などの地球規模課題解決に向けた環境・クリーンエネルギー分野での協力や、宇宙分野での協力、最新テクノロジーを使った協力を強化していくことも重要と思います。これら分野にはまだ多くの協力の潜在性があります。両国の協力が先進分野で深まることで、両国関係はより一層緊密になっていくと確信しています。
--二国間関係だけでなく、国際場裡において今後の二国間協力がどのように展開していくとお考えになりますか。
上川陽子外務大臣:
国際社会は歴史的な転換期を迎え、地政学的な対立のみならず、グローバルな課題も深刻化しています。法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持・強化していく重要性が一層高まる中、国際場裡や多国間フォーラムにおける日越の協力の重要性は、ますます大きくなっています。
日本とベトナムは戦略的利益を共有しており、日本にとって、ベトナムは「自由で開かれたインド太平洋」を実現する上で要となる重要なパートナーです。ベトナムを含むASEAN諸国も、同様にしてAOIP(インド太平洋に関するASEANアウトルック)を策定し、同じ方向で地域の繁栄を追求しています。世界で最もダイナミックな地域である東南アジア地域の中で、ベトナムは、地政学的にも経済的にも重要な位置を占め、国際社会での存在感を高めています。
現下の複雑化する国際情勢において、地域における信頼できる友はかけがえのない大切な存在です。ベトナムと緊密に連携し、国際場裡や多国間フォーラムにおいて、法の支配、航行の自由、自由貿易の推進、地域の連結性強化など、地域や世界の平和や繁栄を実現するために声を上げていくことが非常に重要です。
今後、日本とベトナムとの国際場裡での協力を一層推進していきたいと考えます。
上川外務大臣、ありがとうございました。