寄稿・インタビュー
アフラーム紙(エジプト)による林外務大臣書面インタビュー(令和5年9月4日)
「日本の外務大臣がアフラームに語る:エジプトとの戦略的パートナーシップを深化」
林外務大臣は、日本は、エジプトの政治、安全保障、経済、科学技術など幅広い分野で、エジプトとの協力関係を一層深化させていくつもりと強調した。そして、「戦略的パートナー」として、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化に向けて、エジプトと協働していきたいと考えているということも明らかにした。
そして、同大臣は、今日から始まるカイロ訪問に際し、アフラームのインタビューに対して、開館が世界中から待ち望まれている「大エジプト博物館(GEM)」は、日・エジプト間の新しい協力の象徴であるが、それ以上に重要なことは、GEMに展示されるツタンカーメンの遺物や、次々に発掘される貴重な遺物の保存修復に日本とエジプトの専門家が文字通り肩を並べて取り組んでいることであると述べた。
加えて、2022年のエジプトへの日本の海外直接投資(FDI)は、7,170万ドルと前年から倍増した。フリーゾーンから最大の輸出を行い、エジプトで最大の雇用を創出している企業は日本企業であることも述べた。
「エジプトは世界の平和と安定を維持するための戦略的パートナー」
大エジプト博物館はカイロと東京の緊密な協力におけるランドマーク
ここ数年、エジプトと日本の関係は、地域および世界が直面する課題への対応、そして地域と世界の平和と安定の達成に関する緊密な協力と、政治的見解が近いことで知られてきた。それだけでなく、日本はエジプトの発展支援に貢献し、主要な国家プロジェクトにも参画している。日本はエジプトの主要な貿易相手国であり、両国の協力分野は、教育、保健、交通、観光など多岐にわたる。例えば、日本は、大エジプト博物館、エジプト日本学校(EJS)事業、カイロ地下鉄四号線、そしてエジプト・日本とアフリカ間の三者協力の代表的なモデルである、エジプト日本科学技術大学(E-JUST)の建設に貢献している。
このような観点から、本年はカイロと東京の関係において特別な年である。今年の4月に岸田文雄総理がエジプトを訪問し、両国関係は「戦略的パートナーシップ」へ格上げされた。これは、近年の両国関係の大きな発展である。両国間の政治的意志と共通の関心事があること、両国の利益のために利用できる有望な機会があることから生じる関係の特殊性の結果とも考えられる。
今回の林外務大臣のカイロ訪問は、両国、地域、国際場裏に関連する問題について意見交換と協議を行うという絶え間ない枠組みの中で行われ、第3回日アラブ政治対話の開催及び日本・エジプト・ヨルダン三者閣僚協議の開催が予定されている。
アフラーム紙による林大臣への書面インタビューの全文は以下のとおり。
【問】エジプトと日本の戦略的パートナーシップ、そしてエジプトにとって最も重要な開発パートナーとしての日本の立場を踏まえて、エジプトと日本の関係をどのように評価するか。
【答】本年4月の岸田総理のエジプト訪問時に、岸田総理とエルシーシ大統領との間で、伝統的な友好関係に基づく日エジプト関係を「戦略的パートナーシップ」へ格上げすることで合意したことを大変喜ばしく思う。これにより、エジプトは、アフリカ大陸において日本との関係がこのレベルまで深化した最初の国となった。
エジプトは、欧州とアジアやアフリカを繋ぐ地政学的要衝に位置しており、エジプトの平和と安定なしに国際社会の繁栄はない。このような考え方に基づき、日本は、エジプトが直面する様々な課題に寄り添いつつ、エジプトが推し進めている経済・社会改革の取組を支援するとともに、エジプトによる中東・アフリカ地域全体の安定・発展のための取組を後押ししていく。
具体的には、日本は、エジプトの政治、安全保障、経済、科学技術、教育、文化、スポーツといった幅広い分野で、エジプトとの協力関係を一層深化させていくとともに、国際社会が将来に向けて平和と繁栄を享受するために、「戦略的パートナー」として、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化に向けて、エジプトと協働していきたいと考えている。
日本とエジプト間の協力は、政府に加えて、大学、企業、専門家、国際機関等の多様なパートナーとの連携の下で進められている。1988年にエジプトを象徴する文化発信拠点として日本との協力で建設されたオペラハウスを知らない人はいないだろうが、近年、次々に日本との新しい協力の象徴が生まれていることは喜ばしい。
例えば、二国間協定に基づいて2010年に開校したエジプト日本科学技術大学(E-JUST)は、エジプトやアフリカの将来を担う理系学生を育成する一大「知的拠点」で、年々開講カリキュラムの裾野を拡充している。
また、2016年のエルシーシ大統領の訪日をきっかけにエジプト全土に広まっている「エジプト日本学校(EJS)」は、日本で教育に携わる専門家がエジプトの小学校に日本式教育を導入したものである。これによって、EJSで学ぶ今や1万人を超える生徒は、人を敬う精神や、学友や教員とともに学校行事を担うという協働の精神を培っており、エジプトにおける教育に新たな風を吹き込んでいる。
開館が世界中から待ち望まれている「大エジプト博物館(GEM)」も日エジプト間の新しい協力の象徴である。日本は、円借款のスキームにて総工費の半分以上に及ぶ約840億円を供与しているが、それ以上に重要なことは、GEMに展示されるツタンカーメンの遺物や次々に発掘される貴重な遺物の保存修復に日本の専門家とエジプトの専門家が文字通り肩を並べて取り組んでいることである。こうした協力を通じてエジプトの専門家育成にも携わっている。
さらに、日・エジプト両国の協力のもと、吉村作治教授が陣頭指揮を執り、クフ王のピラミッド近くで発掘された「第2の太陽の船」の復原・保存作業が行われており、将来はGEMにおける目玉展示のひとつとなる予定である。
GEMでは、遺物を展示するショーケースのほか、貴重な遺物を守るため、顔認証システムや監視カメラといった世界に誇る日本企業の最新技術が導入されている。
さらに、日本は、世界の海運交通の要所であるスエズ運河の持続的かつ安定的な運営と安全航行を支援するため、長年にわたり運河整備や技術協力を行っている。
また、カイロ中心部とGEMやピラミッドが存在するギザ地区を結ぶカイロ地下鉄四号線も、日本とエジプトが協力して開発している環境に配慮した質の高いインフラ・プロジェクトである。開通したら、エジプトの友人である日本に思いを馳せつつ、乗車してみて欲しい。
2022年のエジプトへの日本の海外直接投資(FDI)は、7,170万ドルと前年から倍増した。フリーゾーンから最大の輸出を行い、エジプトで最大の雇用を創出している企業は日本企業である。
日本企業が参画するエジプトで最大規模の風力発電事業に、国際協力銀行(JBIC)による融資や日本貿易保険(NEXI)を付与するなど、官民協力の下、オールジャパンでエジプトの開発案件形成にも積極的に取り組んでいる。
また、我が国は、中東地域全体の平和と安定に不可欠な存在となっているシナイ半島に展開する多国籍部隊・監視団(MFO)に対し、1988年からこれまでに総額3100万ドルの財政支援を拠出している他、2019年以降は2名の、今年夏からはそれを倍増して4名の司令部要員を派遣している。引き続き、エジプトと手を携えて地域の平和と安定に貢献していく。
【問】大臣のカイロ訪問では、アラブ・日本政治対話の第3回セッションが予定されている。アラブと日本の関係を強化するために、このセッションから何を得たいとお考えか。また、エジプト・日本・ヨルダン三者閣僚協議も予定されている。これら協議で最も重要なトピックや課題は何か。
【答】今回のエジプト訪問の主な目的は、アラブ連盟の議長国であるエジプトのシュクリ外相と私が共同議長となり、第3回日アラブ政治対話を開催することである。長年のアラブ諸国との友好・信頼関係を基礎に、日本とアラブ諸国との関係の一層の発展・強化に向けて、アラブ諸国の外相同僚と忌憚ない議論ができることを楽しみにしている。
中東・アフリカ地域に目を転じると、中東和平問題やシリア、イエメン等において紛争が継続する一方で、サウジアラビア・イラン間の外交関係正常化等、新たな協調の動きが見られることに注目している。
このような状況下で、日本とアラブの関係も変化しなければならないと考える。私は、日本とアラブが、経済、平和と安定、海洋の安全といった多様な分野で協力しあう、「パートナー」の関係になれる余地は十分にあると考える。来る日アラブ政治対話の機会に、今後の我々の関係についての日本の考えを示したい。
また、日本、エジプト、ヨルダン間の初となる三者閣僚級会合も開催予定。エジプト及びヨルダンは、中東和平問題を始め地域の平和と安定のために不可欠なプレイヤーであるとともに、日本と長期にわたり友好関係を育んでいる。3か国の外相レベルで、地域情勢について互いの認識を共有するとともに、周辺地域・国の安定と繁栄に向けて、3か国による具体的な協力事業等について議論できることを楽しみにしている。
【問】日本は、非常に困難な開発課題に直面しているアフリカの主要なパートナーのひとつである。エジプトと日本は、アフリカ大陸の国々にどのように支援の手を差し伸べることができるか。
【答】2050年には世界の人口の4分の1を占めると言われるアフリカは、若く、希望にあふれ、ダイナミックな成長が期待できる大陸である。その一方で、貧困、感染症の蔓延と脆弱な保健システム、テロ・暴力的過激主義の台頭など、様々な課題に直面している。
安倍晋三総理(当時)が当時AU議長であったエジプトのエルシーシ大統領と共に共同議長を務めた、2019年のTICAD7では、アフリカの人材育成を更に支援するため、アフリカにおける科学技術人材の育成を通じて将来の科学技術ネットワーク構築に貢献することを目的として、日本とエジプト両国政府の協力の下による、前述したE-JUSTへのアフリカからの奨学生150名の受け入れを発表した。また、総理特使として私が対面出席した昨年8月のTICAD8でも、E-JUSTに新たに博士課程を中心とするアフリカからの奨学生150人の受け入れ継続・拡充を発表した。このように、二国間協力に端を発する事業が、周辺国・地域にも裨益する規模に大きく育ってきたことを誇りに思う。
日本は、エルシーシ大統領のイニシアティブで立ち上げられた持続可能な平和と開発に関するアスワン・フォーラムには、戦略的パートナー国として第1回から参加している。アフリカ地域を中心とする平和維持活動の関係者の能力強化や、平和構築分野での研究などを行っている紛争解決・平和維持・平和構築のためのカイロ国際センター(CCCPA)に対しても、日本は「アフリカの角」における暴力的過激主義「対抗的な語り(Counter-Narrative)」に関するワークショップやアフリカ連合(AU)ミッション上級幹部養成コースの開催を支援し、これまで2万人以上の幹部職員への教育を行ってきた。また現在、エルシーシ大統領が首脳委員会議長を務めるアフリカ連合開発庁-アフリカ開発のための新パートナーシップ(AUDA-NEPAD)はAUの開発実施機関であり、2014年にはJICAとの間で連携強化のための業務連携協定(MoC)を締結している。
UNCTAD(国連貿易開発会議)世界投資報告書によると、2022年のエジプトのFDIは、前年比2倍の114億ドルとなった。これは、アフリカで第1位である。日本としても、前述したオールジャパンによるエジプトへの投資促進だけでなく、アフリカへのゲートウェイとなるというエジプト政府の政策を支援し、エジプトに進出している日本企業のアフリカ諸国への輸出促進・拡大に向け、官民一体となって取り組んでいきたい。
日本とエジプトが協働してアフリカ開発支援に貢献できることは、まだ沢山あると確信している。よく連携していきたい。
【問】世界は気候変動という現象の影響に苦しんでおり、日本はこの分野で大きな貢献をしている。日本のこの分野への関心に照らして、気候変動問題に立ち向かうために両国間の協力をどのように強化することができるか。
【答】気候変動は、「気候危機」とも呼ぶべき人類共通の待ったなしの課題である。昨年COP27をホストし、「シャルム・エル・シェイク実施計画」などの成果をまとめたエジプトのリーダーシップに敬意を表する。
気候変動については、本年日本が議長を務めたG7広島サミットでも、招待国・機関を交えて率直な議論を行い、G7もアフリカやその他の地域の国々も、共に世界の脱炭素化に取り組む必要があることを確認した。
気候危機への対応にあたっては、再生可能エネルギーや省エネルギーの活用を最大限導入しつつ、経済成長を阻害しないよう、各国の事情に応じた多様な道筋の下で、ネット・ゼロという共通のゴールを目指していくことが必要である。
エジプトは、気候変動分野において国際場裏でリーダーシップを取るのみならず、風力・太陽光などの再生可能エネルギーの開発を積極的に進めていると承知している。我が国としても、貴国の脱炭素化及びエネルギー転換を支援すべく、様々な支援を実施している。
例えば、日本貿易保険(NEXI)等による5億ドルのサムライ債発行支援は、貴国のCO2排出量削減に向けた、ガソリン車からガソリンと天然ガスのデュアル燃料車への転換を促進する補助金政策のための財政資金としても活用された。また、エジプトで最大級の風力発電事業の形成・実施に日本企業が参加し、国際協力銀行(JBIC)の融資やNEXIの保険で支援した。ODAを活用した太陽光発電の開発も進められている。引き続き、クリーン・エネルギー分野での協力を一層強化していきたい。
【問】核拡散を防止するための国際的な取り組みについて、良い結果を得るためには何が欠けていると思うか。
【答】核拡散は、北朝鮮による核・ミサイル活動の活発化に見られるように、国際社会の平和と安全を脅かすものであり非常に重要な課題である。
唯一の戦争被爆国であり、「核兵器のない世界」を希求する日本としても、核軍縮・不拡散は重要なテーマである。また、厳しい安全保障環境の中で、核拡散課題は我が国の安全保障にとって重大かつ差し迫った脅威であり、これに対する取組を重視している。
国際的な核不拡散体制及び措置として、日本とエジプトも含む191か国・地域が批准する核兵器不拡散条約(NPT)体制、177か国が加盟する国際原子力機関(IAEA)による原子力が平和的利用から核兵器製造等の軍事的目的に転用されないことを確保するための保障措置、原子力関連機材・技術の輸出管理のための原子力供給グループ(NSG)がある。いずれの枠組みも国際的な不拡散体制の強化に不可欠。日本としては積極的にその取組に貢献してきている。そして、これらの枠組みは、基本的にはよく機能していると評価している。
同時に、核拡散の問題は国際情勢にも影響されるので、常に新しい挑戦を受ける。例えば、北朝鮮の核・ミサイル活動は継続している。引き続き日本として、NPT体制、IAEA保障措置、NSG等の枠組みも活用しながら、国際的な核拡散課題の解決に積極的に貢献していく。