寄稿・インタビュー
林外務大臣書面インタビュー(2023年3月3日付、プレス・トラスト・オブ・インディア通信)
「リーダーシップを発揮しているインドとの連携は一層重要」
PTIは林日本国外務大臣に独占インタビューを行ったところ、一問一答は以下のとおり。
(PTI)
今般の林大臣のインド訪問の意義いかん。これまでの日印関係と両国の経済分野における協力をどう評価するか。また、2022年は日印国交樹立70周年であったが、どのような成果があったか。
(林外務大臣)
インドは世界最大の民主主義国家であり、日本と基本的価値や戦略的利益を共有する「特別戦略的グローバル・パートナー」である。また、本年は、日本がG7議長国を、インドがG20議長国を務める重要な年であり、日印が連携して共に国際社会に貢献していきたい。
日印国交樹立70周年となる節目の年であった昨年は、岸田総理の訪印、モディ首相の2度にわたる訪日、第2回日印「2+2」の開催など、ハイレベルでの対話を活発に行った。特に、安保・防衛分野における協力の進展が顕著であり、本年1月には初の日印戦闘機共同訓練を日本で実施した。
経済面では、昨年3月の岸田総理訪印に際して掲げた今後5年間における対印官民投融資5兆円目標に向け、経済協力を進めるとともに、日本企業によるインドへの投資を促しているところである。今後は、これまでの伝統的な日印経済関係を基礎に、喫緊の課題であるクリーン・エネルギーや経済安全保障の分野を含め、関係を強化していきたい。
また、日印国交樹立70周年として、昨年一年間を通して、日印両国で様々なイベントが開催された。インドではその締めくくりイベントで「流鏑馬とテントペギングの共演」を実施し、大変好評であったと聞いている。こうした文化交流も一層進めていきたいと考える。
(PTI)
ロシアによるウクライナ侵略に端を発した地政学的な混乱によって、食料・エネルギー安全保障問題が懸念されるが、このような情勢を背景として、日印関係における日本の優先事項いかん。
(林外務大臣)
ロシアによるウクライナ侵略は、エネルギーや食料を始めとする様々な面で国際経済や世界の人々の暮らしに大きな悪影響を与えた。こうした状況も踏まえ、インドとは、食料・エネルギー安全保障を始めとする重要な課題について、国際社会といかに連携して対処していくべきかについてしっかりと議論していこうと考えている。
加えて、日印二国間でも、こうした課題に対し、中長期的視点も含め、両国でいかに具体的に協力していくか、これまでの伝統的な日印経済関係を基礎に検討していきたい。
例えば、エネルギー分野では、3月の岸田総理訪印時に立ち上げた「日印クリーン・エネルギー・パートナーシップ」を通じ、ネット・ゼロ・エミッション及びエネルギーの安全かつ安定的な供給の実現に向けて、協力していきたい。水素やアンモニアといった新しいエネルギー源の活用についてもインドと協力していきたい。
(PTI)
東シナ海、南シナ海、台湾海峡、インド太平洋及びインドとの国境における中国の軍事力を用いた威圧的な活動をどう見ているか。これらの地域における中国の好戦的な姿勢にどのように対処するか。
(林外務大臣)
我が国が戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に置かれる中、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持・強化することの重要性がより一層高まっている。こうした中、我が国は新たな「国家安全保障戦略」を策定した。
中国との間には、様々な可能性とともに、尖閣諸島情勢を含む東シナ海、南シナ海における力による一方的な現状変更の試みや、中国による台湾周辺での一連の軍事行動、特に、排他的経済水域を含む日本近海への弾道ミサイルの着弾を含め、数多くの課題や懸案が存在する。
昨年末に改定した国家安全保障戦略では、そのような現在の中国の対外的な姿勢や軍事動向等は、我が国の平和と安定及び国際社会の平和と安定を確保し、法の支配に基づく国際秩序を強化する上で、これまでにない最大の戦略的な挑戦であり、我が国の総合的な国力と同盟国・同志国との連携により対応すべきものであると位置づけている。
同時に日中両国は、地域と世界の平和と繁栄に対して大きな責任を有している。中国との間では、昨年11月の日中首脳会談で得られた前向きなモメンタムを維持しながら、主張すべきは主張し、責任ある行動を強く求めつつ、諸懸案を含め、首脳間を始めとする対話をしっかりと重ね、共通の課題については協力する、「建設的かつ安定的な関係」を日中双方の努力で構築していく。
(PTI)
中国が影響力を拡大しようと試みる中、クアッドの枠組みは日印関係を強化し、両国がアジアにおける多様性を確保するための協力を深化させる後押しとなるか。
(林外務大臣)
政治、経済、文化、宗教等の面で多様な国々が集まるインド太平洋の平和と繁栄を確保するには、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」というビジョンの下で、包摂的な、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を構築していくことが必要である。
日米豪印は、まさにそのFOIPというビジョンを共有する4か国が、インド太平洋地域において、このビジョン実現のための実践的な協力を進めていくための取組。これは、何かに対抗したり、軍事的協力を行うための取組ではなく、モディ首相の言葉を借りれば、「善を推進する力」である。保健、インフラ、気候変動、海洋状況把握、災害対策等を含め、幅広い実践的協力を進めている。
日米豪印において、首脳、外相を含む様々なレベルで、4か国が同じ方向を向いて率直な意見交換を積み重ねることを通じ、日印関係も一層深化していると確信している。
(PTI)
本年、インドはG20議長国を務める。世界情勢において重要な課題が複数ある中で、林大臣はG20議長国であるインドに何を期待するか。
(林外務大臣)
本年は、日本がG7議長国を、インドがG20議長国を務める重要な年。食料安全保障や開発など、国際社会が直面する様々な課題に効果的に対応していくためには、国際経済協力に関するプレミア・フォーラムであるG20の対応が重要。G7議長国である日本としても、G20議長国のインドとよく連携したい。
ロシアによるウクライナ侵略の影響もあり、全ての人々の廉価で安全な栄養のある食料へのアクセスと強靱な食料安全保障の確立が急務となっている。また、途上国の持続可能な発展のためには、透明で公正な開発金融の重要性が一層増している。これらの分野では、G7とG20の協力の余地が特に大きいと考えている。
他方、ウクライナ侵略を続けているロシアがメンバーとなっているG20では、侵略が行われる前のような形での協力を行うことはもはやできない。かかる制約の中で、いかなる連携があり得るのか、インドともよく相談しながら考えていきたい。
以上に加え、日本は、G7議長国として、国際社会のパートナーと広く協力していきたいと考えている。この観点からも、本年1月にグローバル・サウス・サミットを主催するなど、リーダーシップを発揮しているインドとの連携は一層重要である。インドと共に国際社会の諸課題への対応を主導していきたい。