寄稿・インタビュー
林外務大臣書面インタビュー(2023年1月7日付、フォーリャ・デ・サンパウロ紙(ブラジル))
「林外相:『中国は日本にとって最大の戦略的な挑戦である』」
林大臣がブラジルを往訪、ビジネス上の事務手続きの軽減に期待
中国は日本にとって、そして国際社会にとって最大の戦略的な脅威である。現代版冷戦(
Guerra Fria 2.0)における中国のライバルである米国の側に立ちこの挑戦に立ち向かうべく、日本はその外交と防衛力を強化する必要がある。ルーラ新大統領との会談を含めた2日間の訪問のため、8日ブラジリアに到着する林芳正外務大臣はそう確信する。
本紙の書面インタビューに応じた林大臣は、現在国内総生産の1%を占める防衛予算を今後5年で倍増させることを示した「国家安全保障戦略」は、地政学的観点から突き付けられた現実に対応するために、必要に迫られて打ち出した策だと述べた。
地政学上アジアと距離を置いた米トランプ前政権を経て、林大臣は「日米同盟は引き続き我が国の外交政策と国家安全保障の基盤であり続ける」と述べた。実際、バイデン政権下では、中国へ反対勢力として形成された日米印豪の4か国から成るQUADの枠組みによっても、関係が強化された。
2021年11月岸田内閣に入閣した林大臣は、1947年に揺るがぬものとして定められ、日本における軍事力の在り方を定義する憲法第9条の改憲は、国民の投票によって問われるべきと述べた。現在、この課題について国会で議論が重ねられているが、これは安倍政権からの引き継がれる自民党の旗印である。
健康上の理由により総理を辞任してからほぼ2年後の2022年に殺害された安倍元総理の政権下でも、林大臣は閣僚を務めた。怯まない態度を見せる中国、中露の同盟関係、核ミサイルの脅威をもはや隠すことすらなくなった北朝鮮に直面する中、安倍総理は日本の防衛力の増強を推進した。
国外で最大の日系人コミュニティを有するブラジルとの関係では、税関手続き簡略化に焦点を当てることで、貿易の拡大を目指すことが優先事項である。昨年12月時点で、日本はブラジルにとって10番目の貿易相手国であり、ブラジル側の貿易黒字は、1億5600万米ドルの黒字があった。
(問)2011年をピークに、日伯貿易収支は縮小することもあるなど、変動に見舞われてきた。両国間の貿易を拡大するにあたって、日本政府は日伯関係にどのような可能性を見出しているか。また、ブラジルの新政権にどのような期待を持っているか。
(答)日本とブラジルは、天然資源の開発・取引や製造業を中心とする日本企業の投資など、相互補完的な関係を構築してきた。新政権とも連携を深め、両国関係をさらに発展させたい。具体的には、ブラジルは、レアメタル等の重要鉱物、食料、エネルギー等の資源大国。新型コロナやロシアによるウクライナ侵略等によって、世界中でサプライチェーンへの関心が高まっている。
例えば、ブラジルの豊富な再生可能エネルギーの活用や、医療格差解消の鍵となるデータやデジタル技術の活用等を通して関係を強化したい。また、ブラジルは5Gを整備する途上にあるが、日本の技術は、安全で、経済効率性の高い5Gインフラ整備に強みがある。
一方で、ブラジルに投資する日本企業が直面する課題として、複雑な税制、通関手続のスピード等が指摘されている。新政権においてこれらの課題解決に向けた取組が進むことを期待している。
(問)中国の影響力の拡大及び北朝鮮の脅威を受けて、日本は最近軍事費の大幅な増額を発表した。このような新しい地政学的状況において、憲法改正を含め、今後日本はどのように安全保障政策を展開するのか。
(答)国際社会が時代を画する変化に直面する中、国際秩序の根幹が揺るがされ、国際社会は歴史の岐路に立っている。我が国が戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に置かれる中、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持・強化することの重要性がより一層高まっている。
こうした状況を受け、我が国は新たな「国家安全保障戦略」を策定した。「国家安全保障戦略」は、我が国の安全保障に関わる総合的な国力の主な要素の第一の柱として、外交力を掲げている。危機を未然に防ぎ、平和で安定した国際環境を能動的に創出するために力強い外交を展開していく。日米同盟の強化、「自由で開かれたインド太平洋」実現に向けた取組の更なる推進を含む国際社会の各国等との連携、周辺国・地域との外交などの戦略的アプローチを着実に実施することによって、我が国を取り巻く安全保障環境の改善に取り組んでいく。
なお、憲法改正については、国会において発議し、国民投票により決められるものであり、国民的な議論の深まりの中で判断されるべきものと考えている。
(問)昨今の中国をめぐる国際社会の動向を踏まえ、日本はあくまで米国の同盟国としての立ち位置を堅持するのか、もしくはより独立した立場を模索するのか。
(答)日米同盟は日本外交・安全保障の基軸である。現在の中国の対外的な姿勢や軍事動向等は、我が国と国際社会の深刻な懸念事項であり、我が国及び世界の平和と安全を確保し、法の支配に基づく国際秩序を強化する上で、これまでにない最大の戦略的な挑戦であり、我が国の国力と同盟国等との連携により対応すべきものである。
我が国としては、中国との間で、様々なレベルの意思疎通を通じて、主張すべきは主張し、責任ある行動を求めつつ、諸懸案も含め対話をしっかりと重ね、共通の課題については協力をしていくとの「建設的かつ安定的な関係」を構築していく。また、米中両国の関係の安定も、国際社会にとっても極めて重要と考える。
地域の安全保障環境が一層厳しさを増す中、力による一方的な現状変更をインド太平洋、とりわけ東アジアで許さぬよう、日米同盟の更なる強化が重要。このような共通認識の下、私とブリンケン米国務長官の間でも、累次の外相会談の機会に、日米同盟の抑止力・対処力の更なる強化に向けて、引き続き日米で緊密に連携していくことを確認してきている。
(問)日本の本年第3四半期の経済成長率は当初の予想を上回るなど、日本経済はコロナ禍からの回復が見られる。また、中国はゼロコロナ政策の見直しを進めるなど、日中経済関係にとってプラスの要素が見られる。他方で、半導体産業をはじめ、経済分野における米中間の争いは激化している。このような中、日本政府は2023年にどのような対中外交を展開していくか。
(答)現在、日中関係は様々な協力の可能性とともに多くの課題や懸案にも直面しているが、同時に、日中両国は地域と国際社会の平和と繁栄にとって共に重要な責任を有する大国でもある。先ほど申し上げたとおり、中国との間では「建設的かつ安定的な関係」を構築していく。
中国は日本にとって最大の貿易相手国であり、中国に進出する日系企業の拠点数は3万を超える。経済関係については、日本全体の国益を踏まえ、対話と実務協力を適切な形で進めていく必要がある。
また、経済大国となった中国が、大国に相応しい責任をしっかり果たしていくことが、重要。そのためにも、中国が透明・予見可能かつ公平なビジネス環境を確保し日本企業の正当なビジネス活動が保障されることが重要である旨指摘した。 また、日本産食品に対する輸入規制の早期撤廃についても中国側に強く求めた。今後、私が日本側の議長を務め、日中の関係閣僚が参加する日中ハイレベル経済対話の早期開催を目指す。