寄稿・インタビュー
岸田総理大臣インタビュー(2022年10月12日付、フィナンシャル・タイムズ紙(英国))
「岸田文雄氏、「あらゆるシナリオ」に備えて日本の防衛を整備へ」
中国、ロシア及び北朝鮮に対抗するため、総理は安全保障戦略を再構築する
本来、岸田文雄氏はハト派の外交官である。しかし、中国、ロシア及び北朝鮮の敵対的な政権に囲まれる中、日本の総理には、自国の防衛を再構築する以外の選択肢はほとんどない。日本の総理は70年以上にわたって、国民の安全を米国との安全保障同盟、近隣諸国の経済的プラグマティズム、そして平和憲法によって抑制された控えめで経験の浅い自衛隊に託してきた。しかし今、岸田氏は、日本が本当に自国を守り、潜在的な地域紛争に対応することができるのかという問題に早急に答えなければならない。岸田氏は、フィナンシャル・タイムズ紙のインタビューの中で、北朝鮮のミサイル技術の進展、中国の軍事的プレゼンスの増大及びロシアによるウクライナ侵攻など、「東アジアの安全保障環境がますます厳しくなっている」ことを踏まえ、日本の防衛力を広範囲にわたって見直すと語った。岸田氏は、「日本の防衛力が十分なのかどうかは、しっかりと点検しなければならない」と述べた。「国民の命や暮らしを守るため、東アジアで起こり得るあらゆるシナリオに対応できるよう、十分な備えをしていく。」 12月に日本が約10年ぶりに新たな国家安全保障戦略の概要を発表するとき、防衛力の見直しの結果が明らかになる。既に政府は、2024年3月までの1年間で防衛費を約11%増の6兆円(410億ドル)以上に増やす計画だ。また、敵基地に対する先制攻撃能力の開発を検討しており、北朝鮮や中国内の目標を攻撃できる射程1000km以上の国産巡航ミサイルの確保を望んでいる。先週、北朝鮮は日本上空を通過する弾道ミサイルを発射し、日本とロシアの関係はウクライナ侵攻後、ほぼ崩壊している。ウクライナでの戦争を受け、日本は中国が台湾に対して武力を行使する可能性を真剣に検討することを余儀なくされた。中国が台湾に侵攻した場合に日本がどう対応するかにつき、岸田氏はコメントを避けたものの、インド太平洋地域における紛争にどう対処するかに関して、ロシアのウクライナ侵攻に対する日本の対応がテンプレートとなる可能性はあると指摘した。「アジアと欧州の安全保障は不可分であると考えている」と岸田氏は述べた。「我が国はアジア唯一のG7国として、G7を始め多くの国々と協力しながら、ロシアに対して厳しい制裁を課し、ウクライナへの支援を継続している。このような対応が東アジア、特に中国に対して適切なメッセージになることを期待する。」
世界経済の「デカップリング」の可能性や米中の分断の深化がワシントンなどで政治的に議論される中、岸田氏は日本が中国との経済関係と軍事的緊張のバランスをとる難しさに直面していると強調した。 このデカップリングの過程の早期の兆候は、米国の半導体政策に表れている。米国技術の中国への流入を制限する措置や、日本や韓国のチップメーカーに米国内に工場を建設するよう促す取組などである。岸田氏は、中国にどう対処するかは世界各国にとって「戦略的に大きな課題」になっていると指摘した。特に日本のように、数十年にわたって中国に多額の投資を行い、中国が最大の貿易相手国である国にとっては、そうであろう。「日本は中国の隣国であるため、中国とどのような距離を保つかは大変重要で難しい課題である」と岸田氏は語った。防衛強化の一環として、日本は英国との関係も再構築している。日英両国は新型戦闘機の共同開発について話し合いを進めている。このプロジェクトは、非常に多額のコストとなる可能性を含め、多くの大きなハードルに直面している。しかし、このプロジェクトは現在両国で強い支持を得ており、もし進めば、日本がこのような大規模な軍事プログラムで米国以外のパートナーを選ぶのは初となる。岸田外相は、日米同盟の抑止力強化と「並行して」、戦闘機に関する協議を進めたいと述べた。英国はまた、11か国からなるCPTPPへの参加に関する交渉を完了することを望んでいる。この地域貿易圏は、米国が以前の協定から離脱した後に作られ、日本は一貫してこの協定を支持してきた。岸田氏は、英国の加盟に対する日本の支持は、リズ・トラス首相就任当初の数週間の政治的混乱、金融市場の混乱に影響されないと述べた。「英国は私たちにとって信頼に足る、大変重要なパートナーであると考えている」と岸田氏は述べた。「トラス首相と協力して、英国との二国間関係を前進させるべきだ。」