寄稿・インタビュー

(2019年9月5日付)

「対話を続け,平和条約を締結したい」

安倍晋三日本国総理大臣-「クリル諸島」における共同活動と極東の投資について

令和元年9月5日

 安倍総理大臣は,プーチン大統領と「粘り強く」対話を重ね,平和条約を締結したい。そのことについて,日本の総理大臣は9月5日に東方経済フォーラムの場で行われる日露首脳会談の前日,イズベスチヤ紙とのインタビューで述べた。また,安倍総理は,日本側が北方領土と称している「南クリル諸島」を,近い将来,初めて日本の旅行者が訪問すると伝えた。また,総理は,伝統的なエネルギー,天然資源の他に,両国の経済協力が活発に行われており,ロシア極東への日本の投資規模がどれほどかについて説明した。

【問】安倍総理は,プーチン大統領と26回にわたり会談を行っており,直近だと先のG20大阪サミットで会談を行っている。主要議題は,日露平和条約締結交渉であるが,首脳会談を集中的に行うなど頻繁に二国間対話を行っているにもかかわらず,進展は見られない。それどころか,両国は硬直的な姿勢になっているようにさえ見えるが,安倍総理はどうお考えか。最近の二国間対話で前向きな変化があったのか,安倍総理のご意見を伺いたい。

【安倍総理大臣】日露関係は大きな可能性を秘めています。私は,両国間の協力をいろいろな分野で進めて可能性を現実化し,両国の国民に「日露両国は,互いにサポートし合い,互いに必要とし合うパートナー」と実感してもらいたいと思っています。現実化により,両国は,共に大きく裨益し合うと確信します。
 日本側は官民を挙げて,この3年間で200件を超える協力プロジェクトを具体化し,ロシア人の健康寿命を延ばすこと,ロシアの都市をより機能的で快適にすること,極東でインフラを整備し産業づくりを進めること,両国民の交流を拡大することなどを進めてきています。
 プーチン大統領との会談では,毎回,日露両国の協力の進展を確認し合っており,こうした互恵的なプロジェクトを積み重ねることで両国の信頼関係を高める努力を続けていきます。

【問】「南クリル諸島」の共同経済活動を実施するための議論を踏まえ,複数の日本企業代表団が訪問したものの,大きな進展は見られていない。その要因は純粋に法的問題なのか,それとも何か他の障害があるのか。

【安倍総理大臣】北方領土での共同経済活動では,早期実施案件として5プロジェクトに合意しているが,現在,その中でも観光とゴミ処理が動き出しています。先月,ロシア人専門家が根室市を訪れ,ゴミ処理施設を視察しました。非常に熱心に視察に取り組んだと承知しており,「実り多い有益な訪問となった」とのコメントもありました。今秋には日本人専門家が四島を訪問します。また,日本人のツアー客がパイロットツアーで四島を訪問します。
 これらにより,両国関係者が日本との間で共同経済活動を進めることの意義を実感し,進展のペースが上がると期待していますし,こうした協力を進展させる中で信頼関係はさらに強まっていくと考えます。粘り強く対話を重ね,プーチン大統領との間で平和条約を締結したいです。

【問】極東の発展は長い間ロシア政府の国家計画の最重要事項の一つであり,その実施のためにロシアはアジア経済を積極的に誘致している。2016年5月,総理はご自身で主に極東の発展に関わる8項目の「協力プラン」を開始した。しかしながら,ロシア及び極東への日本からの投資規模は未だに非常に控えめである。その理由いかん。

【安倍総理大臣】日本企業の極東への投資規模は決して控え目ではありません。日本企業はロシアにおいて積極的に活動しており,特にロシア極東では,サハリン1,2プロジェクトなど,日本企業がロシア企業等と連携して大規模な投資を行っています。それらも含めた日本から極東への投資の累計額は150億ドルを上回っており,将来には更なる投資も見込まれています。日本は世界最大のLNG輸入国であり,今後世界のガス需要が増加していくことを踏まえれば,日本とロシアのパートナーシップが更に深まる可能性も高いと考えられます。
 これに加え,8項目の「協力プラン」の進展と共に,ハバロフスクにおける日露予防医療診断センターの設立やウラジオストクにおける自動車エンジン工場の稼働,木質ペレットの生産・輸入等,数多くの新規投資案件が生まれ,実に「協力プラン」全体の約4割のプロジェクトが極東に関連しています。

【問】日本企業にとって,純粋に経済的視点から極東はどれほど魅力的か,また,特に対露制裁という条件の中で,日本企業は,上(政府)からの政治的シグナルなしにロシア極東でビジネスに従事するのか。

【安倍総理大臣】日本企業が投資を行っているプロジェクトを見れば,エネルギー・資源関連はもとより,自動車,食品,医療など多岐に亘ります。これらは,ロシアの方々の日々の暮らしの向上に直結するものでもあります。
 極東は広大な土地を持ち,資源も豊富に賦存しており,ロシア市場から狙うことができるマーケットも,日露両国だけでなく,アジア太平洋地域という広大なものです。日露が協力し,インフラを整備し,産業を育成し,ウラジオストクをはじめとする都市の環境と機能を変革すれば,極東のもつ潜在力を大きな成長につなげることができるものと確信しています。


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