寄稿・インタビュー

(2018年11月25日配信)

「安倍晋三:プーチン大統領は私にとって胸襟を開いて議論ができる関係にある」

平成30年12月4日
  • 同様の内容が11月26日付「ロシア新聞」に掲載,27日付「ロシア24」で放送。

 最近プーチン大統領との間で既に23回目となる会談を行った安倍晋三日本国内閣総理大臣は,ミハイル・グスマン・タス通信社第一副社長のインタビューに答えた。安倍総理はインタビューの中で,ロシア大統領との信頼関係や胸襟を開いて話をできることについて述べるとともに,平和条約問題や二国間関係の進展について触れたほか,国家指導者の地位にあることについて自ら感じていることについて述べた。

【グスマン第1副社長】安倍総理にまたお会いできて大変光栄である。安倍総理は,プーチン大統領とは何回もお会いになっており,世界のリーダーの中で他に誰がプーチン大統領とこんなにたくさん会っているかと思うほどである。安倍総理の故郷である長門で,また,ウラジオストクの東方経済フォーラムで会談され,そして,シンガポールでも会談され,今度は近々アルゼンチンでもお会いになるのだと思う。プーチン大統領は,安倍総理との個人的な関係というものを高く評価していると思うが,安倍総理は,大統領とのコンタクト,いわゆるパーソナル・ケミストリーをどのように評価されているか。

【安倍総理大臣】プーチン大統領とは既に23回会談している。私にとって,いつお目にかかってもお互いに胸襟を開いて議論ができる関係である。プーチン大統領とは,例えば平和条約締結問題など非常に困難で重要な問題を含め,あらゆる問題について議論することができる。
 2016年,プーチン大統領には,東京から離れて私の故郷である長門に来ていただき,ありがたく思っている。そして,9月のウラジオストクにおける東方経済フォーラムでも大統領と再びお会いしたが,同フォーラムには3年連続で出席をさせていただいている。毎年9月にロシアのウラジオストクでこのように定期的な会談を行える場があるということは素晴らしいことだと思う。そして,先週,シンガポールで首脳会談を行った際には平和条約締結問題を始めとする日露関係の議題のほか,北朝鮮問題,様々な国際的課題について有意義な話をすることができた。
 シンガポールにおいては,通訳以外は2人きりで平和条約締結問題についてじっくりと話をした。私とプーチン大統領との間で積みかねてきたこの信頼関係の上に,領土問題を解決して平和条約を締結するという,戦後70年以上残されてきたこの課題を次の世代に先送りすることなく,必ずや終止符を打つという強い決意を完全に共有することができたと思う。その上で,1956年共同宣言を基礎として,平和条約交渉を加速するということで合意することができた。
 ブエノスアイレスのG20でも再びお目にかかり,また,来年,日本で開催するG20にプーチン大統領をお迎えすることになる。その前に,年明けにも,私がロシアを訪問してプーチン大統領と首脳会談を行いたいと考えている。そして,私とプーチン大統領のリーダーシップの下,戦後残されてきたこの懸案である平和条約交渉を仕上げていく決意である。

【グスマン第1副社長】これ(平和条約締結問題)は非常に重要で,露日関係の鍵となる重要なテーマである。しかも,プーチン大統領は全く前提条件なしに,平和条約を結ぼうという提案をしている。他方,平和条約がない現在の状況でも,露日関係は大変幅広い分野で発展している。経済,文化のいかなる分野で最も進展が見られ,また,実現されていないポテンシャルがどの分野にあるとお考えか。両国関係を一層発展させるためには,双方からいかなる努力が必要と考えるか。

【安倍総理大臣】戦後70年以上経っても,世界でも大変重要なロシアと日本という両国の間に平和条約が締結をされていないのは異常な状況である。
 日露両国は,両国の関係が大変大きな可能性を生みだす国同士であり,この潜在力を完全に発揮させたいと考えおり,そのことは日露両国に利益をもたらすのみならず,地域,ひいては世界全体にとっても利益となる。
 近年,私とプーチン大統領との間のみならず,議員同士,あるいはビジネスマンや地方交流や学生などの交流も広がっており,あらゆるレベルでの対話が活発に進んでいる。麻薬や海賊対処などの非伝統的脅威分野における協力も進んでいる。昨年は,日露間の人的往来が最高値を記録した。今後も幅広い分野で日露の大きな可能性を開花させていきたいと思っているが,両国関係を画期的に飛躍させるためには,やはり平和条約の締結が必要である。
 既に述べたが,改めて申し上げたい。両国の可能性を完全に開花させるためには,平和条約の締結が必要であり,その平和条約が締結されることにより,今までの協力の次元とは違う,まさに両国民が得られる果実の次元が変わっていくと思っている。
 これは,地域とその安定にとっても不可欠であり,かつ,様々な国際的課題の解決のためにも必要なことである。日露はこうした問題の解決のために協力していかなければならない。

【グスマン第1副社長】2016年,私も覚えているが,安倍総理はプーチン大統領に8項目から成る両国関係の発展のための「協力プラン」を提案された。あらゆる分野で両国の関係を発展させるための安倍総理の8項目とも呼ばれているが,この計画は非常に活発に実現されつつある。プーチン大統領も支持しているこの計画の実現にどの程度満足されているか。

【安倍総理大臣】ロシアの国力と日本の技術や経験とを合わせることができれば,大きな成果を出せることは疑いない。両国の国民にこうした成果を実感し,理解してもらいたいと考えている。正にこうした考えから,8項目の協力プランを提案した。
 そして提案から2年半を経て,8項目に基づいて150を超える協力プロジェクトが生まれており,このように協力が前進して実際の成果が出ていることを強調したい。例えば,8項目の一つである医療保健分野では,ロシア国民の皆さん健康寿命を延ばすことに役立つ協力が行われており,その一つでは,内視鏡を使った診断と治療について延べ100名を超える医師にトレーニングを実施した。また,今年5月には,ウラジオストクに日本式のリハビリテーション・センターを開設した。これは間違いなく,予防や治療はもちろんのこと,さらには失われそうな機能を回復するために大変役立つ,高い効力を発揮するものだと思う。
 また,快適で清潔で住みやすい都市を作る上での協力も行っており,ヴォロネジやウラジオストクで交通渋滞の解消に役立つ信号システムを導入している。また,各地でゴミ処理工場建設に協力していきたい。交通渋滞の解消は,経済成長にもプラスになり,渋滞による市民の皆さんのフラストレーションを解消してくことに役立つと思う。極東においては,冬場は新鮮な野菜を食べることは難しいだろうと思うが,日本の温室栽培技術により,厳寒地でも新鮮なトマトやきゅうり等の供給が可能となった。また,サハ共和国の小学校では,日本の衛星通信を利用して高速インターネットに接続し,世界中の情報にアクセスできるようになるなど,日本企業の協力により極東におけるデジタルデバイドの問題も解決しつつある。
 我々は,地域間交流の活性化も歓迎しているが,2016年にプーチン大統領も来られた私の地元である山口県長門市とソチ市が9月に日露間の46番目の姉妹都市になった。こうした地域間の交流をさらに広げていきたいと思っている。ミンニハノフ・タタルスタン大統領が石川県を訪問されたり,カルーガ州知事が栃木県を訪問されたり,また,栃木県知事がカルーガ州を訪問されたり,地方レベルでの交流が目に見えて進展している。

【グスマン第1副社長】安倍総理は,プーチン大統領との会談の直接の成果として,2018年を「ロシアにおける日本年」及び「日本におけるロシア年」としたことが挙げられると述べられた。この枠内で日露両国で150件(ママ)の様々な行事が予定されているが,今年はロシアにおけるFIFAワールドカップの開催ともうまく重なった。ちなみに,日本チームはロシアのファンから好意的に迎えられ,私自身も心から応援した。結果はやや残念であったが,日本チームは非常に健闘した。両国には他にも多くの肯定的な要素があり,例えば査証発給の簡素化である。両国間の人的交流をどのように評価するか。この分野での協力の役割はどのようなものか。

【安倍総理大臣】今年5月,ボリショイ劇場で「ロシアにおける日本年」と「日本におけるロシア年」がスタートを切り,私はプーチン大統領とともに開会式に出席した。翌6月には,ロシアでワールドカップが開催された。今年5月のサンクトペテルブルクにおける経済フォーラムにマクロン仏大統領とともに出席した際,私は,ロシアと決勝戦で会いましょうと述べ,その場合は,フランスはその途中の準決勝で負けてしまっているかもしれないとも述べたが,多くの人々はこれを完全な冗談と受け止めたと思う。実際には,ロシアはベスト8進出,日本はベスト16に入ることができた訳で,私の発言は,まんざら完全な冗談だったということでもなかったということになるかもしれない。
 ロシアの皆さんは,日本チームに対しても大変温かい声援を送ってくださった。ロシア大会は,世界中の人々に感動と勇気を与えた素晴らしい大会だったと思う。ホスト国として大会を成功させたロシアに改めて敬意を表したい。
 昨年は,ロシアを訪問した日本人は10万人を超え,本年はワールドカップのために多くの若者が訪れた。また,昨年1月に開始した査証緩和により,昨年に訪日したロシア人の数は過去最高の7.7万人を記録した。今後も更に多くのロシアの皆さんの訪日を期待している。

【グスマン第1副社長】ありがとうございます。総理大臣という重要な職務での御成功を祈念するとともに,この権力の苦さにより一層耐えられることを願っている。


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