寄稿・インタビュー
フレッタブラディッド紙(アイスランド)による河野外務大臣書面インタビュー
(2018年10月19日付)
「日・アイスランド関係の一層の深化を期待」
北極サークルに参加するためにアイスランドを訪問中の日本の河野外務大臣は,フレッタブラディッド紙の書面インタビューに応え,日アイスランド関係,北極,気候変動,北朝鮮情勢につき,考えを述べた。
河野大臣は今次アイスランド訪問につき,「日本の外務大臣として初めてアイスランドを訪問でき欣快。アイスランドは,法の支配や人権・民主主義,自由貿易の推進を始めとする基本的価値を共有する重要なパートナーである」とした。
河野大臣は,1996年に衆議院議員選挙で初当選し,2017年8月から安倍内閣で外務大臣を務めている。
北極に関する取組において違いを生み出す
河野大臣は,アイスランド滞在中,アイスランド側関係者との会談や北極サークルにおいて,北極に関する国際社会の取組への日本の貢献につき説明したいと述べた。河野大臣は,日本は2015年に北極に関する初の包括的政策を策定し,研究開発,開発,国際協力を三つの柱として掲げているとした。「日本の強みは科学研究分野であり,日本の研究者は1950年代から北極の気候,気象,海洋環境,コミュニティの研究に取り組んでいる。このような取組を通じ,我々は北極のメカニズムを解明し,北極を巡る課題に対処していきたいと考えている」と同大臣は述べた。
河野大臣はこのように日本は科学研究の分野で違いを生み出せるとしつつ,「科学研究を活かし,北極の経済的活用を検討する際には,北極の先住民コミュニティや北極の生態系への影響に配慮したい」とした。
更に,同大臣は,アイスランド同様海洋国家である日本は,北極において法の支配が確保されることが重要であると考えているとし,こうした問題意識に基づき,「アイスランドを始めとする基本的価値を共有する国々との連携を強化していきたい」と述べた。
気候変動対策をリードする
人類が直面する気候変動の問題については,河野大臣は,その影響が北極において特に顕著であることを認識しているとし,「気候変動問題は国際社会が一丸となって取り組むべきグローバルな課題。日本はパリ協定に掲げられている2度目標の下,同協定の着実な実施を通じた気候変動対策の推進を重視している」と述べた。
河野大臣は,気候変動問題に対応するため,日本は,これまでの常識にとらわれない,新たな包括的ビジョンを策定しているとした。大臣は,新たなビジョンはパリ協定に基づくものとなり,ビジョン策定のために叡智を結集しているとし,「同ビジョンは,2050年までに温室効果ガスを80%削減し,企業主導の技術革新を促し,環境保全と成長の両方を実現することを主な柱とする」と述べた。
トランプ政権下の米国は,パリ協定からの脱退を表明した。トランプ大統領は日本の安倍総理と頻繁に会談を行っている。各国が気候変動対策により真剣に取り組むために日本が果たせる役割につき問うたところ,河野大臣は次のように答えた。「日本は,気候変動問題について各国と様々なレベルで意見交換を行っており,パリ協定に基づく気候変動問題への取組の重要性を説明してきている。今後も,こうした考えを発信し続け,世界の脱炭素化を牽引していく考えである。」
アイスランドとの良好な関係
アイスランドとの関係につき,河野大臣は,アイスランドを訪問する日本人が増加傾向にあることを嬉しく思うと述べた。大臣は,アイスランドを訪れる日本人は,温泉等アイスランドの豊かな自然に魅力を感じているとしつつ,「アイスランドにおいても,アイスランド大学において日本語履修者が二番目に多いと聞いている」と指摘した。
大臣は,日本とアイスランドの間には相互理解の強固な素地があるとし,「例えば,この9月にワーキングホリデー制度が両国間で開始されたことは,両国間の観光を促進する上で重要な要素である」と述べた。
更に,同大臣は,二国間では先日外交当局間の政策協議が実施され,10月31日には租税協定が発効する予定であると指摘した。アイスランド政府のウェブサイトにおける10月2日付発表によれば,両政府は協定を発効させるための交換公文を交わしており,10月31日には両国間で税の徴収に係る情報の共有等を可能とする協定が発効する。
河野大臣は,二国間関係につき,「今年5月にトールダンソン外相と会談してから半年の間で政治,経済,観光等幅広い分野で関係が着実に強化されている」と述べた。
独裁国家である北朝鮮は,アイスランドから8,000km離れているが,日本からは僅か1,000km先に位置する。昨年,北朝鮮が発射したミサイルは日本上空を飛び,太平洋に着弾した。北朝鮮の独裁者である金正恩は,最近になり,トランプ米国大統領,文在寅韓国大統領と会談を行い,米国,韓国との関係を改善させている。
日本と北朝鮮の関係は,停滞している。両国間に存在する最大の問題は,北朝鮮に拉致された日本人の問題である。1977年から1983年にかけ,北朝鮮に面した日本の海岸において日本人が行方不明になった。2002年,北朝鮮の金正日は,後の日朝平壌宣言につながる会談において,日本人13人を拉致したことを認めた。しかしながら,日本政府は,拉致被害者は17人であると主張しており,更に883人の日本人が拉致された可能性があるとしている。
河野大臣は,日本の対北朝鮮政策とは,こうした昔からの問題を解決した上で,通常の二国間関係を築くことであると述べる。大臣は,この方針は,日朝平壌宣言の内容に合致しているとしつつ,拉致,核,ミサイルの問題が解決されるまでは,日本と北朝鮮が二国間関係を構築することはあり得ないと指摘し,「その上で言えば,6月の歴史的な米朝首脳会談において金正恩委員長がトランプ大統領に対し,完全な非核化について,自ら署名する形で約束したことの意義は極めて大きい。また,本年4月及び9月の南北首脳会談における合意が,米朝間の合意の履行に向けた具体的な行動につながることを期待している」と述べた。
先に記したように,金正恩は,米国,韓国の首脳と既に会談しており,中国の習近平国家主席とも会談している。そして,更に,ロシアのプーチン大統領も金正恩と会談するのではないかとの噂がささやかれている。
こうした状況はあるものの,河野大臣は,日本と北朝鮮の間の首脳会談については,現時点で決まっていることは何もないとする。「会談を行う以上は,北朝鮮の核・ミサイル,そして何よりも重要な拉致問題の解決に資する会談にしなければいけない。国際社会が,米朝プロセスを最大限後押ししていくことが重要であり,そのためには各国が国連安保理決議を完全に履行することが重要。今回のアイスランド滞在中,アイスランドの人々にこうした日本の立場を説明し,日アイスランド間の連携を深めたい」と同大臣は述べた。
インタビュー記事は,フレッタブラディッド紙のホームページから閲覧可能です。