寄稿・インタビュー

アルメンプレス(アルメニア)への河野外務大臣寄稿

(2018年9月3日付)

平成30年9月5日

 9月2日から4日にかけて,私は,日本国の外務大臣として初めて,アルメニアを訪問します。日本とアルメニアとの外交関係は,昨年,25周年を迎えました。これを受けてアルメニアの地を自らの足で踏み,日本とアルメニアの関係のさらなる進展に寄与することができるのは,私の光栄であり,喜びです。なにより,2015年に開設された在アルメニア日本大使館が,本年2月に新しいオフィスで活動を開始したことは大きな喜びであり,そのような日・アルメニア関係発展の年にエレバンを訪問できたことを嬉しく思います。

 日本とアルメニアの間には,両国を結びつけるいくつものエピソードがあります。アルメニアと日本は,古来からの歴史や文化,伝統を誇りとし,地震国であり,エネルギー資源がない中で人的資源を重視するという共通点を有しています。1921年に,日本の実業家であり慈善活動家であった渋沢栄一氏が,アルメニア難民を救済するために募金活動を行い,ダイアナ・アプカール駐日領事が彼らの渡米支援を行ったことは,今の両国の友好関係の礎になった出来事と言えます。また,1988年のスピタク地震に際しての日本の支援を記憶しておられたアルメニア人関係者が,2011年の東日本大震災に際し,スピタク市内の地震慰霊碑の隣に東日本大震災慰霊碑を建立され,慰霊ミサを毎年実施しておられることにより,両国の結びつきはより強固になりました。そして,日本人医師である石山明UCLA教授が,毎年アルメニアを訪問し,アルメニアの子供たちに人工内耳を取り付ける活動を行っています。アルメニアにはIT人材が豊富と言われていますが,2013年には,IT分野で顕著な功績をあげた者に大統領が授与する「ITグローバル賞」をアルメニア政府が日本の牧本次生・半導体産業人協会特別顧問に授与したという事例もあります。今回の訪問を契機に,このような二国間の繋がりを,両国に,また世界に広く伝えることができるのは,嬉しいかぎりです。

 コーカサス地域は,東西南北の世界を結びつける重要な「結節点」です。この地域の安定は,地域レベルの関心事に止まるものではなく,国際社会の平和と安全に直結します。コーカサス地域の西には欧州,東にはカスピ海を挟んだ対岸に中央アジアが広がっています。その先の先には日本を含む東アジアの一大経済圏があります。私は,アジアと欧州とをつなぐゲートウェイとして,重要な役割を担うコーカサス地域の自立的な発展のための協力を進めたいと考えます。

 コーカサス地域へのこれまでの日本の関与において常に心に置かれてきたこと,そして今後の日本の関与においても忘れてはならないことは,コーカサス地域の「自立的な発展」のための国造りを支援することです。このことは,19世紀半ばに開国した後,日本が「自立的な発展」を目指す中で学んできた,経験,教訓をコーカサス地域と共有していくことでもあります。日本としては,次の2つの柱を通じて,コーカサス地域の「自立的な発展」を支援していく考えです。

 1つ目の柱は,人造りです。国造りは,人造りから始まります。インフラも,制度も,人が使いこなすことで,初めてその機能を発揮します。日本が150年前に新しい国を造り始めたときに,最初に力を注いだことは,世界から最先端の知恵と技術を吸収し,これを日本に持ち帰ることができる人材の育成でした。地域としてのコーカサスに,日本の経験を共有していく上でも,情報を媒介する「人材」が必要です。この観点から,アルメニアに対して,保健医療,防災,運輸交通,資源エネルギー,経済政策,民間セクター開発,農業開発・農村開発といった分野での訪日研修を実施します。
 また,日本の国造りにおいて,常に心がけてきたことの一つは,「法の支配」です。国造りの中で,公正さと,予見可能性を確保するのは,法律であり,その担い手たる優秀な法律家です。「法の支配」の担い手たる法律家の育成は,国造りの礎です。日本は,訪日招へい,人材交流などの様々な機会を活用し,コーカサス地域における若い法律家の育成を支援していきます。
 また,コーカサス地域において,地域と日本の架け橋となる知日派・親日派を育成していくことも重視しています。その観点から,アルメニアにおける日本語教育支援や日本の伝統文化を紹介する文化事業の実施のほか,アニメやドキュメンタリーをはじめとした日本の放送コンテンツの提供,毎年の慣例となり多くのアルメニア国民が鑑賞を楽しみにしている日本映画祭の開催等の取組を継続していきます。

 そして,これらの人材が目指すべきは,インフラやビジネス環境が整い,各国からの投資が集まる「更に魅力あるコーカサス」です。これが2つ目の柱です。
 これまで,重要性と潜在性に溢れるコーカサス地域に対して,日本は,その安定化,民主化,経済社会開発,市場経済化に協力してきました。例えば,アルメニアとの関係では,エレバン・コージェネレーション火力複合発電所建設への支援や,防災のためのエレバン消防機材整備の提供,一村一品運動を通じたアルメニア国内の農産品の競争力強化や海外展開支援,草の根レベルでの学校や病院の整備の支援を行ってきました。
 こうした基礎的インフラ等への支援に加え,例えば,日本はコーカサス地域の各国との間で,投資協定を作るべく力を注いでいます。アルメニアとは既に投資協定が署名され,日本の締結は国会に承認されました。投資協定により,各国に投資する日本企業にとって公正かつ予見可能性がある制度枠組みが整備され,日本からの投資を呼び込む前提が整うことになります。また,このような枠組みを設けるだけでなく,その活用の知見についても,コーカサス地域の各国の専門家たちと共有したいと思います。日本は,コーカサス地域の各国に対して投資協定・投資仲裁分野における各国政府の職員教育活動を支援します。
 また,ビジネスの拡大は,人の往来の拡大に繋がります。コーカサス地域の各国の人々が,日本をより訪問しやすくするための手続の簡素化も進めます。
これに加えて,日本は,アルメニアに対して,コーカサス地域に共通の課題でもある防災分野における支援を引き続き積極的に行っていきます。

 日本は,これら二つの柱で,コーカサス地域の「自立的発展」を支援していきます。私たちのアルメニアやコーカサス地域の各国との協力は,閉じられたものではありません。他の国,国際社会がコーカサス地域の各国と行う協力と有機的に結びつき,ポジティブな化学反応を起こしていくものと期待しています。今回の訪問が,日本とアルメニア,さらには日本とコーカサス地域の各国との関係強化のための一つのマイルストーンであり,この先に続く輝かしい道程の第一歩となることを確信しております。


このページのトップへ戻る
寄稿・インタビューへ戻る