寄稿・インタビュー
シャルクルアウサト紙(汎アラブ・メディア)による河野大臣書面インタビュー
(2018年3月22日付)
「日本外務大臣,シャルクルアウサト紙に語る:サウジ・ビジョン2030は協力の羅針盤」
(1面)
また,河野大臣は,「シリアやイラクにおけるダーイシュ(ISIL)との闘いは軍事的側面においては終わりを迎えようとしている。今後は,暴力的過激主義の爪痕を癒やし,寛容で多様性を尊重できる社会を構築することを通じて,暴力的過激主義の再興を抑えることが必要」と語った。さらに,ダーイシュの復活を防ぐ4つの対策として,「(1)知的・人的貢献,(2)「人」への投資,(3)息の長い取組,(4)政治的取組の強化」を上げ,これらは日本の中東外交の基本方針であるとした。
続けて河野大臣は,「シリア危機は,軍事的手段によって解決できる問題ではなく,政治的解決を追求しなければならない」と指摘した上で,「シリアの復興が本格的に進むためには,シリアで政治プロセスが進展し,国民の和解が進み,シリア全土で治安が回復していく必要がある。日本は,シリア人同士の対話を促進していく」と述べた。さらに,「シリアにおける停戦の実現や政治プロセスの進展には,米露間の協力が必要である」とした。(インタビュー本文は第7面。)
(7面)
「日本の外務大臣語る:シリア危機解決には米露協力が必要」
全当事者に対して停戦を呼びかけ。シャルクルアウサト紙のインタビューの中で,河野大臣は,シャルクルアウサト紙に寄せた発言の中で,全当事者に対し,「最大限の自制と,即時,無条件の停戦」を呼びかけた。さらに,全当事者に対し,「シリアの主権と領土一体性を尊重し,ジュネーブにおける政治プロセスを支援すると共に,シリア全体に平和と安定をもたらすべく,包括的な解決に向け,尽力すべき」だと強調した。
また,河野大臣はシリア危機について「軍事的手段によって解決できる問題ではなく,政治的解決を追求しなければない。・・・軍事的措置停止が不可欠」と述べた。さらに,「シリアの復興が本格的に進むためには,シリアで政治プロセスが進展し,国民の和解が進み,シリア全土で治安が回復していく必要がある」と指摘した。
その上で,河野大臣は,シリアにおける「停戦の実現や政治プロセスの進展のための米露協力」の重要性を強調した。以下,シャルクルアウサト紙が電子メールによって行った河野大臣書面インタビューの本文である。
【問】昨年,サウジアラビアでは政治的,経済的,社会的変化があったが,この変化をどう見ているか。サウジとサウジアラビアの展望いかん。
【河野外務大臣】昨年8月の外務大臣就任直後の昨年9月,私はサウジアラビアを訪問しました。訪問時には,サルマン国王,ムハンマド皇太子にも表敬する機会をいただき,大変有意義な訪問となりました。
私は,外務大臣の就任前の一議員の頃から何度も中東を訪問しております。中東には多くの友人がおり,中東と日本の関係強化に取り組んできました。中でもサウジアラビアにはこれまで何度も,首都リヤドだけでなく,ジッダも訪問しており,私にとって最も思い入れの深い国の1つです。
中東は世界を取り巻く政治・経済情勢の中心に位置する地域であり,その中にあってサウジアラビアは中東の安定と繁栄の要です。外務大臣となった現在でも,私は日サウジ関係の更なる発展のためにより一層尽力していく考えです。
日本にとってサウジアラビアは,貿易,投資,観光,教育,インフラ,科学技術,文化交流等多岐にわたる分野で協力を行っている非常に重要なパートナーです。
【問】2030年のサウジ・ビジョンにおける日本の役割いかん。
【河野外務大臣】サウジアラビアが,サルマン国王とムハンマド皇太子の指導の下,「サウジ・ビジョン2030」の策定により,経済・社会改革を行おうとしていることに世界中が注目しています。日本としてもその方向性を支持するとともに,実現に協力して参ります。
具体的には,日本とサウジアラビアは二国間関係を「戦略的パートナーシップ」に引き上げることを確認し,新しい日サウジ協力の羅針盤となる「日・サウジ・ビジョン2030」を策定いたしました。「日・サウジ・ビジョン2030」は,脱石油や雇用促進のためにサウジアラビアが追求する「サウジ・ビジョン2030」と日本の「成長戦略」という両国の改革構想間のシナジーを起こし,共に変革・発展していくことを目指すものです。
「ISIS」の崩壊と政治解決
【問】ISISはイラクとシリアにおいて敗北を喫した。シリア政府とイラク政府は,ISISのような過激派が再び現れないような十分な対策をとっていると考えるか。
【河野外務大臣】シリアやイラクにおけるISILとの闘いは軍事的側面においては終わりを迎えようとしています。今後は,暴力的過激主義の爪痕を癒やし,寛容で多様性を尊重できる社会を構築することを通じて,暴力的過激主義の再興を抑えることが必要です。
昨年9月にカイロで開催された日・アラブ政治対話において,「河野四箇条」,すなわち(1)知的・人的貢献,(2)「人」への投資,(3)息の長い取組,(4)政治的取組の強化,を日本の中東外交の基本方針として表明いたしました。この方針の下,中東地域の安定化に向けて,中東の社会における共生を後押しする取組を進めて参ります。
【問】長期的にテロと戦うための正しい道は何か。
【河野外務大臣】過激主義が再び蔓延することを防ぐにはいくつかの措置があります。暴力的過激主義の再興を防ぐための取組として,イラク政府による武器回収を職業訓練・就業支援等を通じて支える仕組み作りで日本は協力していく方針です。また,中東諸国からイスラム宗教関係者や暴力的過激主義対策に従事する政府関係者を日本にお招きし,日本がどのように戦後の経済発展を成し遂げたのかなどについて学んでいただくプログラムを実施予定です。日本のこれまでの知見・経験を少しでも中東地域の安定のために役立てることができればと考えています。
【問】シリアについてはどうか。
【河野外務大臣】シリアは,より深刻な状況にあります。ISILの勢力は減退していますが,シリア危機はいまだ収束しておりません。危機を政治的に解決し,過激派を生まない社会を構築するためにも,政治プロセスや国民和解を進めていく必要があります。
日本は,シリア危機の負の影響を憂慮し,シリアにおける全ての紛争当事者に対し,無辜の民間人のこれ以上の犠牲を防ぐという人道目的のために,シリア全土における最大限の自制と,即時,無条件の停戦及び全ての支援を必要とする人々に対し,安全で継続的かつ阻害されない人道アクセスの許可を呼びかけます。
ソチ会合とジュネーブ協議
【問】政治解決に向けては,ロシアがソチで開催した「シリア国民対話会合」とジュネーブ・プロセスという二つのトラックがあった。シリア危機の政治的解決のための正しい条件は何だと考えるか。
【河野外務大臣】シリア国民対話会議には,主要な反体制派が出席しなかったことなどが指摘されていますが,これまで交渉に参加できなかったシリアの諸勢力の参加が得られたことなど,評価すべき点もあると考えています。同会議では憲法委員会の設置が合意されており,そのことが今後の政治プロセスの進展に資するものとなることを期待します。
他方,シリアにおける政治プロセスは,国連が主導するジュネーブ・プロセスを通じて進められる必要があると考えており,シリア国民対話会議の成果がジュネーブ・プロセスに引き継がれ,今後どのような形で憲法委員会の設置につながるかを注視しています。日本は,デ・ミストゥーラ国連特使の努力を支持し,支援していきます。
その上で日本は,全ての紛争当事者が国際法に則り,シリア国民の安寧とシリア領土の一体性を尊重し,国連安保理決議第2254号に従い,ジュネーブにおける政治プロセスを支援すると共に,シリア全体に平和と安定をもたらすべく,包括的な解決に向け,尽力することを強く期待します。
【問】そこにおける日本の役割いかん。
【河野外務大臣】日本は,最近シリア・イラク及び周辺国に対し,新たに約2.2億ドルの支援を決定しました。これにより,シリア危機が始まった2011年から2018年で,日本は,シリア,イラク及び周辺国に対して総額約22億ドルに上る支援を実施してきたことになります。日本は,シリアにおける全ての紛争当事者がシリアの平和と安定の実現のために最善を尽くすことを願い,地域における適切な支援をしていきたいと考えています。
【問】しかしシリアでは軍事的エスカレーションが見られる。イランとイスラエルの衝突,東部における米による露部隊一部への攻撃,アフリーンにおけるトルコ軍事作戦など。
【河野外務大臣】日本は,シリアにおいて軍事的緊張が高まっている状況を憂慮しています。特に首都ダマスカス近郊の東グータ地区に対する空爆や砲撃が激化し,住民に多くの死傷者が発生している状況を深く憂慮しています。安保理決議第2401号採択後も事態が沈静化する兆しが見えません。
シリア北部では,シリア政府軍によるイドリブ周辺地域に対する攻撃が激化していること,トルコ軍がシリア反体制派と共にアフリーンに対して軍事作戦を開始し,最近更に軍事的緊張が高まっています。シリア南部においても,イスラエル軍戦闘機が撃墜されるなど,イスラエルとシリア・イランの間で緊張が高まっています。
【問】では,どのような対応によって和平プロセスが回復され,シリア人のための政治合意を形成することができるか。
【河野外務大臣】先程も申し上げましたが,シリア危機は,軍事的手段によって解決できる問題ではなく,政治的解決を追求しなければなりません。全ての関係国が建設的な役割を果たすことが重要であり,こうした関係国の努力により,シリアにおける暴力の停止と劣悪な人道状況の改善につながることを期待します。日本は,全ての紛争当事者に対し,人道支援を実施できるよう軍事的措置を停止し,国連主導の政治プロセスを進展させるために努力することを呼びかけています。日本は,シリアにおける全ての暴力の停止に向け,国際社会と連携していく考えです。
復興
【問】日本は,第二次世界大戦後の復興を経験した。日本がシリアに与えられる教訓は何か。シリアの復興のために最善の道は何か。
【河野外務大臣】日本は,シリア危機による人道状況の悪化を深く憂慮し,人道状況を改善するためにできる限りの支援を継続してきました。今後も支援を必要とする全てのシリア人に対する人道支援を継続していきます。
他方,シリアの復興が本格的に進むためには,シリアで政治プロセスが進展し,国民の和解が進み,シリア全土で治安が回復していく必要があります。日本は,シリア人同士の対話を促進していきます。
【問】日本はどうのような役割を果たすか。
【河野外務大臣】日本は,これまで何度も復興の経験を重ねてきました。第2次世界大戦での敗戦で,日本のインフラは灰燼に帰しましたが,急速な復興を遂げ,現在では世界第3位の経済大国となっています。また,イラクやアフガニスタンの復興支援にも貢献してきました。こうした中で得てきた知見や教訓を活かして,シリアが復興に向かう時には,そのお手伝いをしていきたいと考えています。
【問】ロシアの役割についてはどうか。日本は米国と特別な関係があるが,中東地域においてロシアの役割が増している中,日本はロシアに対して,どのように対処していくのか。
【河野外務大臣】ロシアは,シリア危機の解決に向けて,重要な役割を有していると考えています。暴力の低減に貢献した緊張緩和地帯の設置は,ロシア,トルコ及びイランが主導するアスタナ・プロセスで決定されたものでしたし,ロシアは,ソチにおいてシリア国民対話会議を開催しています。日本も,ロシアから建設的関与を引き出すよう働きかけを継続します。
同時に,米国の役割も不可欠です。シリアにおける停戦の実現や政治プロセスの進展には,米露間の協力が必要だと考えます。昨年11月に訪露した際,私からラヴロフ外相に対して,ジュネーブ・プロセスの進展のために米露の協力に期待する旨直接伝えました。