寄稿・インタビュー

(2018年1月13日付)

「特別な時期に,日本の総理がリトアニアを訪問する」

~今日,我が国を取り巻く安全保障環境は,戦後,最も厳しいと言っても過言ではない~

平成30年1月15日

 今週末,リトアニアは日本の安倍総理という特別な賓客を迎える。今回の当国訪問を前に,安倍総理は,リエトゥボス・リータス紙の独占インタビューに応じた。
 今週末,日本の安倍総理はバルト三国を訪問する予定であり,土曜日及び日曜日に,リトアニアを訪問することとなる。安倍総理は,ビリニュスにおいて,リトアニア首脳陣との会談を行い,第二次世界大戦中に多くのユダヤ人を救った杉原千畝氏の功績に敬意を払うため,カウナスを訪問予定である。
 リトアニアが独立100周年を祝い,北朝鮮の核によりアジアに緊張が走る中,今般,安倍総理の初訪問を受けることになった。

【問】今回の訪問において,リトアニア国民,政府に対する最も重要なメッセージは何か。

【安倍総理大臣】リトアニアの独立宣言から100周年の記念すべき年に,日本の内閣総理大臣として初めてリトアニアを訪問できることを嬉しく思います。
 リトアニアは,いわゆる「命のビザ」で多くの人々の命を救った杉原千畝氏の存在により,一昨年には1.5万人がカナウスの杉原記念館を訪れるなど日本人にとって大変,身近な国です。
 法の支配に基づく国際秩序が様々な形で深刻な挑戦を受けている現在,80年近く前にもとられた杉原氏の勇気ある人道的行動は,自由,民主主義,人権,法の支配という国際社会の基本的価値を守ることこそが,世界の平和と繁栄の礎であるということを改めて教えてくれます。
 リトアニアは長く困難な歴史を乗り越え,民主主義や市場経済という極めて重要な価値の推進者となりました。杉原氏を通じて育まれた絆もあり,日本とリトアニアは,基本的価値を共有する重要なパートナーです。今後も,法の支配に基づく国際秩序の維持・強化に向け,両国で手を携え協力していきたいと思っております。
 今回の訪問では,国際社会の深刻かつ重大な脅威である,北朝鮮を始めとする様々な国際的課題について,日本とリトアニアで一層緊密に連携し,課題解決に向け共に取組んでいくという認識をスクバルネリス首相との間で共有したいと考えております。

【問】日・リトアニア関係において特筆すべき点は何か。両国関係の更なる発展はどの分野において可能か。

【安倍総理大臣】リトアニアにとって日本はアジア最大の輸出国であり,両国の租税条約の署名も受け,経済分野は大きなポテンシャルを秘めていると感じます。
 クライペダ港や自由経済特区を始めとする欧州のビジネス拠点としての地理的優位性や,技術力及び教育水準の高い労働力には日本企業も注目しています。
 今回の訪問にも,世界的に活躍する商社や運送業など伝統的部門の大企業から,ITなど特定分野で最先端の技術を有する新興企業までリトアニアへの投資に高い関心を持つ,幅広い分野からの企業の代表者が多数同行します。両国の経済関係の更なる強化に向け官民で連携していきたいと考えています。
 また,ここ数年,リトアニアを訪問する日本人の数は増加傾向にあり,アジアの中でも日本の訪問者数が群を抜いていると聞きます。岩手県久慈(くじ)市とクライペダ市の間には約30年にも及ぶ姉妹都市の絆があり,東日本大震災の際には,クライペダ市から心温まる支援をいただきました。
 ワーキング・ホリデー制度の導入に向けた協議の加速化を含め,両国の人的交流を今以上に活発化させていきたいと考えています。
 両国の絆を更に育んでいくために,私は,今回の訪問を契機として,あらゆる分野で日・リトアニア関係の一層の発展に取り組んでいく所存です。

【問】北朝鮮の脅威に対して,西側諸国はどのように反応すべきか。

【安倍総理大臣】今日,我が国を取り巻く安全保障環境は,戦後,最も厳しいと言っても過言ではありません。特に,北朝鮮は,国際ルールを踏みにじって核・弾道ミサイルを開発しています。そして,弾道ミサイルの射程はリトアニアにも届き得るものであり,これまでにない重大かつ差し迫った脅威となっています。
 北朝鮮は過去に,94年の米朝合意,2005年の六者共同声明の二度,核の放棄を約束しながら,結局,それを反故にし,核・ミサイル開発の時間稼ぎに使ってきました。
 このことを踏まえれば,北朝鮮とは対話のための対話では意味がありません。
 北朝鮮は完全な,検証可能な,かつ,不可逆的な方法で核・ミサイルを放棄するとのコミットメントと具体的な行動を示さなければなりません。

【問】日本は安全保障分野において,北朝鮮からの脅威にどのように対応しようとしているか。軍事衝突は起こりうると考えるか。

【安倍総理大臣】北朝鮮に政策を変えさせるため,国際社会が一致結束して北朝鮮への圧力を最大限まで高め,北朝鮮の方から対話を求めてくる状況を作っていく必要があります。
 北朝鮮が繰り返す挑発的な言動を受け,「北朝鮮が暴発するかもしれない」という議論があることは承知しています。しかし,そう思わせることは,いわば北朝鮮の交渉戦術の一つでもあり,これを恐れることは,北朝鮮の交渉力を高める結果になります。我々は,北朝鮮の脅しに屈することなく,状況をしっかりと分析し,冷静に対応していく必要があります。
 累次にわたり国連制裁決議が成立し,EUはこれに加えて,2017年10月,北朝鮮に対する独自制裁を決定しました。
欧州,そして,リトアニアとも緊密に連携しながら,国際社会全体で北朝鮮への圧力を高め,北朝鮮の核・ミサイル,そして我が国にとって何よりも重要な日本人拉致問題の解決に向けて全力を尽くしていきます。
 国連では,累次の安保理決議を経て対北制裁を強化してきており,国連加盟国であるリトアニアにも着実な履行を期待しています。


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