寄稿・インタビュー
「RIAノーボスチ通信(ロシア)による河野外務大臣インタビュー」
(2017年11月22日付)
「河野外務大臣:ロシアとの平和条約は,過去の世代からの『宿題』」
木曜日(注:23日)から,河野太郎日本国外務大臣のモスクワ訪問が始まる。河野大臣は,RIAノーボスチ通信社ナカ・クセニヤ記者による単独インタビューに対し,なぜ大臣自身にとって日露関係の発展が重要なのか,ソ連首脳であったフルシチョフが河野大臣の祖父に贈ったペーパーナイフがどうなったのか,両国の協力の展望が最も開けているのはどの分野か等について語った。
(問)現時点の日露関係の評価いかん。いまだ眠っている可能性があるとすれば,特にどのような分野の発展が期待できるか。
(河野外務大臣)日露はアジア太平洋地域の重要なパートナーである。地域の大国である両国が安定した関係を築き,協力を深めることは,地域の安定と発展にとっても極めて重要である。しかし,残念ながら現在このような視点から,日露両国の潜在力が活かしきれているとは言えない。たとえば,日露間の貿易額(16年164億ドル)は日中の17分の1と,両国間の経済関係としては不十分である。そして,そもそも日露両国の間では,戦後70年以上経っても平和条約が締結されていないという異常な状況にある。
私はこの状況を打開したいと考えている。日露関係は,無限の可能性を秘めた二国間関係である。二国間関係の潜在力を現実のものとし,日本とロシアが真の戦略的な関係を構築することは,アジア太平洋地域だけでなく,国際社会全体の利益である。勿論,70年以上両国間で未解決の根本の問題の解決なしには,その潜在力は決して開花しない。日露両国民が協力して大きな夢を描き,それを開花させようではありませんか。
そのための経済面での一つの「青写真」は,昨年安倍総理が提案した8項目の「協力プラン」である。日本の技術と経験を生かし,ロシア国民の皆さんが生活環境の改善を直接実感できるような「協力プラン」の進展は,ロシアと日本に真に「ウィン・ウィン」な関係をもたらす。特に,地理的にも近い極東地域をアジア太平洋に向けた輸出拠点にし,農林水産業の振興やインフラ整備を共に進めていきたいと考えている。今回訪露し,私とシュヴァロフ(編集部注:ロシア)第一副首相が共同議長を務める貿易経済日露政府間委員会でも,両国でこの流れを加速させたい。
日露の関係にとって最も重要なのは,平和条約の問題である。今から61年前,政治家だった私の祖父一郎は,日本政府の全権代表の一人として日ソ共同宣言に署名した。これにより二国間の外交関係は回復したが,平和条約の締結が「宿題」として残された。私は,祖父の世代から引き継いだこの最も重要な課題を克服し,日露関係の無限の可能性を切り拓くため,ラヴロフ外相と共に仕事をできることを楽しみにしている。
来年は,「ロシアにおける日本年」,「日本におけるロシア年」である。また,来年のロシアにおけるサッカーW杯には,日本も参加し,両国の若者の大きな交流が行われるであろう。この相互交流年を通じて,幅広い分野で国民間の相互の理解や関心が高まり,日露経済関係の発展,平和条約締結に向けた政府間の交渉への両国の国民的な支持が更に広がるものと期待している。
(問)大臣の祖父河野一郎氏は,ソ連との交渉には大変大きな役割を果たした。河野大臣ご自身は,日露外交にどのような思い入れがあるか。
(河野外務大臣)戦後,多くの先達が日露外交の(編集部注:発展の)ために多大な努力を積み重ねてきた。私の祖父もその一人である。今から61年前,祖父は,日本政府全権代表団の一員として訪露し,ニコライ・フルシチョフ共産党第一書記やニコライ・ブルガーニン首相と何度も協議を行った。その際,祖父がフルシチョフ書記から受け取ったペーパーナイフは今でも河野家に保管されている。私が外務大臣に就任することが決まった時に思い浮かんだのがこのペーパーナイフである。祖父の世代の功績を受け継ぎつつ,私自身平和条約締結という残された重要な課題に取り組む決意を強くしている。
今,両国の強力な指導者である安倍総理とプーチン大統領の下で,日露関係は大きなモメンタムを得ている。この重要な時に外務大臣を拝命したことは,私にとって幸運な巡り合わせだと感じている。このチャンスを最大限に活かして,これから日露関係の無限の可能性を切り拓くことに貢献したい。
(問)北朝鮮の脅威が高まっている中,ロシアの役割及びロシアとの協力の可能性に関する見解いかん。
(河野外務大臣)北朝鮮による核実験や日本上空を通過する形での弾道ミサイル発射は,日露を含めた国際社会に対する,これまでにない重大かつ差し迫った脅威であり,断じて容認できない。日本としては,ロシアを含む国際社会と連携しながら,あらゆる手段を通じ北朝鮮に対する圧力を最大限まで高め,北朝鮮の政策を変えさせなければならないと考えている。
北朝鮮問題への対応に当たっては,安保理常任理事国であり,(編集部注:朝鮮半島の非核化に関する)六者会合のメンバー国でもあるロシアの役割は重要である。11月10日のAPEC首脳会議の際に行った日露首脳会談でも,安倍総理からは,安保理決議の完全な履行が不可欠であることを強調し,また,北朝鮮による日本人拉致問題へのロシアの理解と協力を求め,今後ともプーチン大統領と緊密に連携していくことを確認した。
北朝鮮が核・ミサイル開発を執拗に追求する中で,日露共通の目標である朝鮮半島の非核化に向け,国際社会全体で結束して,諸懸案の解決に向けた具体的な行動を強く求めていかなければならない。そのためには,日露の緊密な連携が不可欠である。
(問)国後,択捉,色丹,歯舞での共同経済活動に関し,日本にとって一番魅力的な分野いかん。共同経済活動は平和条約締結につながると考えるか。
(河野外務大臣)豊かな自然,地理的環境といった四島が持つ潜在力は日露双方に魅力的なものである。こうした点も踏まえつつ,今回双方で,両国の法的立場を損なうことなく,四島において行う共同経済活動について,早期に取り組むプロジェクトの候補5件が特定された。すなわち,(1)海産物の共同増養殖プロジェクト,(2)温室野菜栽培プロジェクト,(3)島の特性に応じたツアーの開発,(4)風力発電の導入,(5)ゴミの減容対策である。10月下旬には,5件のプロジェクト候補の具体化を進めるため,第2回目の四島での現地調査を実施した。50人以上の日本の官民の専門家が四島現地に行き,ロシアの地元の人々と様々な土地を訪れた。これはいまだかつてなかった出来事である。これらのプロジェクトはいずれも,日露双方の知見を活用して四島に住む人々の生活を改善し,人的交流の活性化をもたらすものである。
この様に日本人とロシア人が共に四島の未来像を描くことは,相互の理解と信頼を深めることにつながる。これは,平和条約締結にとって大きなプラスになると確信している。未来志向の発想の「新しいアプローチ」の中で,平和条約締結に向けた突破口を共に見出していきたい。