寄稿・インタビュー

ハンデルスブラット紙(ドイツ)への安倍総理寄稿

(2017年7月5日付紙面,電子版)

「今回のG20サミットの重要テーマは持続可能性。
国際社会は既に持続可能な開発に関する目標を決定し,取組みを強化。
日本も昨年,政府委員会を設置。」 

「地球規模の課題:安倍総理は,環境,保健及びアフリカにG20が取り組むことを求める。」    

平成29年7月5日

英語版 (English)

 G20サミットに出席するためハンブルグを訪問する。3月にCeBITに出席して以来,今年二度目のドイツ訪問。CeBITでは,日本がパートナー国となって,118の企業が集い,過去最大規模のパビリオンを出展した。皆さん,覚えてくれていますか?

 両国は,自由,民主主義,人権,法の支配といった基本的価値を共有することに加え,勤勉さを美徳とし,ものづくり産業の重視,技術力で世界に伸びる産業,中小企業の強さなどの特色をもつ。日本人の間には,ドイツ製品の声望が定着している。例えば,首都東京の中心部に位置し,所得層も高い港区,私の私邸のある渋谷区では,自動車の3割がドイツブランド。毎年,ハノーバー・メッセに参加し,ドイツのパートナーを探す日本の中小企業もある。

 今回のG20の主題は持続可能性。国際社会も,既にSDGsを共通の目標にし,取組みを強めている。日本も,昨年,私を長として全政府を挙げた本部を設置した。

<持続可能性の原則>
 世界の持続可能性のために,私は,環境,保健,アフリカを重視する。解決の鍵は技術力とイノベーション。日本とドイツが得意とする点だ。私は両国の協力を一段と深めたい。

 地球温暖化が,人類の生存ベースである地球を様々な危機に直面させて久しい。気候変動は,世界の全員に降りかかる問題であり,同時に,今を生きる我々が未来の世代に責任を負う問題だ。だから,世界が一体となって喫緊に取り組むべきである。この意識が共有されたことで,テロの直後にあったパリに世界の首脳が集まり,パリ協定を結実させた。

 半世紀近く前,日本は高度成長の中で公害を招いた。しかし,国中が綺麗な空気と水を取り戻し,自然を守りたいと決意し,技術力と社会投資をフルに活用して公害を克服してきた。この技術と投資は,その後の日本の新たな成長エンジンともなった。

 オイルショックが続いたが,資源価格の高騰が省エネ投資を経済的に正当化し,燃費の良い自動車や工場での生産性の向上が日本製品の競争力を高めた。私が20歳代当時に勤務した製鉄工場の熱利用効率の高さは,世界のトップクラスになった。

 今,日本は,この技術力を,地球を守るために,未来の世代のために発揮したい。日本自身,もともと他の国より温室効果ガス排出量が低いが,これを2030年度にはさらに26%削減するとコミットした。水素社会への転換に向けた燃料電池車,液体水素の安全輸送システム,太陽光パネルとLEDを組み合わせた電力供給などを実用化し,多くの人々の利用に供したい。

<技術の大きな可能性>
 日本は,途上国でも国情に適したインフラの導入に貢献している。ケニアでは地熱発電用タービンを使って電力を供給し,パプア・ニューギニアでは森林資源管理や温室効果ガス排出システム管理をする人材育成を支援している。パリ協定の下でも二国間クレジット制度のパートナー国を17に拡大するなどして,途上国で低炭素技術を普及させている。モンゴルでの高効率ボイラー,パラオでの太陽光発電システムの導入などだ。これらの成果を上げながら,私は,COP21で表明した,2020年における途上国での1.3兆円の気候変動対策事業を実施したい。

 持続可能性を実現するために,人々が,健康で,能力を発揮できることが必要だ。人命を大切にし,誰一人も取り残されない社会の鍵は保健。2014年のエボラ出血熱の大量発生を契機に,私は,感染症対処だけでなく,予防対策としてのリーダーシップとガバナンス,保健情報,保健人材,医薬品と医療機器などを含むシステムとしての保健強化と,危機への対応能力強化を重視している。

 昨年5月の伊勢志摩サミットで,G7首脳は,感染症等の公衆衛生危機への国際社会の対応能力の強化,ユニバーサル・カバレッジ(UHC)を主要テーマに具体的行動にコミットし,「国際保健のためのG7伊勢志摩ビジョン」として発表した。

<保健が鍵となる>
 8月には,私はケニアを訪問して,アフリカ開発会議(TICADVI)を開催し「強靭な保健システムの促進」を優先分野に掲げた。そして,アフリカの公衆衛生での危機対応や備えの強化,UHC推進などで貢献策を実施に移している。例えば,ガーナでは,医療アクセスに遠い農村部に地域保健師を駐在させるなど,専門家派遣と,施設整備や機材供与を組み合わせて地域住民の健康づくりを行ってきている。

 高齢化が容赦なく進む先進国でも保健の重要さは変わらない。持続可能性の鍵である。日本は,デジタル技術の革新を,多量に存在する保健データに適用し,健康管理,予防,治療,介護の一貫した対応システムの整備にとりかかる。これは,人々の健康維持にはもとより,高齢化により増大する医療費問題の解決にもなる。日本は,先進国や新興国が,共に直面する高齢化と言う課題の解決に向けて先駆けとなるつもりだ。

 世界の中で最も潜在力の高いアフリカでの持続可能なくして世界の持続可能はないと言っても過言ではない。アフリカの大きな可能性の開花を,これまで,水や食料の不足,インフラの未整備,教育訓練の遅れ,政情の不安定などが妨げてきた。

<アフリカの重要な意義>
 日本は,政府だけでなく民間もアフリカの発展の重要性を確信し,貢献策を実践してきている。1993年にアフリカの首脳達の参加を得てTICADを立ち上げ,昨年のケニアで第6回を開催した。日本からは200社を超える企業も参加した。日本のモットーは「日本からアフリカへ投資をし,アフリカの人々に技術・技能を供与し,生産方法や働く上での規律を授ける,これにより,アフリカの人々が,経済的な自立と働くことの意義を実感し,自らの産業をもつこと」にある。自生産業の増加は,アフリカの若者が自国に留まる効果ももつ。

 今や,アフリカでは,製造業が現われ,「カイゼン」という日本語が広まりつつある。日本は,今後ともアフリカからの留学生,研修生の受入れを増やしたい。また,アフリカの首脳達から支援を求められた農業分野で,インフラ,技術,人材など各フェイズでの協力を一段と高めていく。

 最後に,ドイツの皆さんへのお願いがある。もっと日本を訪問して頂きたい。昨年,日本を訪問した外国人2,400万人の中で,ドイツからは0.8%の18万人。繰り返すが,日本人にドイツ・ファンは多い。ビジネスでも,学問でも,芸術でも,スポーツでも,観光でも。この週末,メルケル議長の下,世界が直面する諸課題の解決へ向けて,私はG20の首脳達と,多様な観点から,胸襟を開いて議論することを楽しみにしている。


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