寄稿・インタビュー
国営通信社「カズインフォルム」(カザフスタン)への岸田外務大臣寄稿
(2017年4月30日)
「カザフスタン・日本外交関係樹立25周年」
本年,日本と中央アジア各国は外交関係樹立25周年という記念すべき年を迎えた。その25年の間,日本はその国ごとの国づくりの歩みに寄り添いながら,その発展を後押ししてきた。
独立後の混乱の渦の中,新しい国家としてのスタートを切った各国の必要な支援は様々だったが,日本は各国の発展を後押しする際に一つの理念を有していた。新しい国づくりの要は「人づくり」だということ。これは戦後の荒れ果てた荒野から特別な資源もない日本が大きな成長を遂げられたのは,教育に心血を注ぎ込んで「人づくり」を行ってきた賜物であるという自負と経験に裏付けられている。私の出身地である広島も原爆投下により市内は壊滅状態となったが,残された人々の力と弛まぬ努力により,今では緑豊かな国際平和文化都市に大きく生まれ変わり,ナザルバエフ・カザフスタン大統領やその他の国の首脳をはじめとする世界の要人が訪れ,平和の重要性を再認識するための重要な場所になっている。
人づくり,国づくり,インフラ建設に貢献する国となるために,日本は中央アジア各国において,ただ作るだけに終わるのではなく,その整備・維持の方法を習得してもらえるよう研修員の受け入れや専門家の派遣を行い,現地の専門家を養成するためのトレーニングセンターの開設なども行ってきた。この25年間,日本が中央アジア各国から受け入れたあらゆる分野にわたる研修員と日本が派遣した専門家は,それぞれ9668人,2587人に及んでいる。日本の支援により日本の大学院で学んだ留学生は今や大臣・次官を含め各国政府の要職やビジネス界のリーダーとしてそれぞれの国づくりを担っている。
日本が「人づくり」の重要性とともに訴え続けてきたのが,地域協力の重要性である。2004年,日本は「中央アジア+日本」対話を立ち上げた。中央アジア5か国が,政治や経済,域外国との関係など様々な違いを乗り越えて,地域共通の課題に共に取り組むことは,地域を強くし,安定させ,地域内の国々が自立的な発展を遂げ,世界に開かれた国際社会の重要なプレーヤーとなるための手助けとなる。日本はそう信じ,そのための地域協力を促す「触媒」となるべく努力してきた。
5月1日に行われる「中央アジア+日本」対話・外相会合は6回目を迎える。始めは各国外相が同じテーブルについて議論することにまず大きな意義があった。対話を重ねるにつれ,その対話は深みを増し,今では実践的な協力を行うための具体的な議論が行われるまでになった。今回の外相会合では,地域の協力がそれぞれの国の安定と繁栄に直結する,運輸・物流分野に焦点を当て,実践的な協力を深化させていきたい。
このような日本の姿勢は日本への信頼を生み,今日の友好関係の基礎になっているものと自負している。そして現在,力強く発展を続ける中央アジア各国との関係は,経済支援,政治対話,地域協力の推進とともに,国際場裏での協力,ビジネス,文化交流など包括的にその可能性を開花させつつある。それを象徴するのが,2015年10月の日本の総理大臣として初めての安倍総理による中央アジア5か国歴訪である。この歴訪には50もの経済団体が同行し,ビジネスフォーラムが開かれた。また,日本と中央アジア諸国との関係を更に深め発展させていくための交流事業を考察するために文化ミッションが各国に派遣されることになるなど,文字通り,二国間関係を更なる高みに引き上げる歴史的な訪問となった。
カザフスタンとの関係では,昨年11月に行われたヌルスルタン・ナザルバエフ大統領の訪日は二国間関係を抜本的に強化した重要な訪問であった。訪問中,ナザルバエフ大統領の国会演説,第6回日本カザフスタン経済官民合同協議会開催,広島訪問など,重要なイベントが行われた。核兵器による悲劇的な経験を共有し,ともに国連安全保障理事会非常任理事国を務め,CTBT発効促進共同調整国を務める日本とカザフスタンは,国際場裡においても,軍縮・不拡散分野,北朝鮮問題等で連携できていることを非常に心強く思っている。6月から開催されるアスタナ万博を契機に経済関係でも日・カザフ関係の更なる深化が期待される。
国同士の付き合いは25年だが,我々の間には古くから続く歴史的・文化的な結びつきがある。中央アジアと聞くとシルクロードへの憧れを連想する日本人は多い。日本文化の礎となっている仏教も,日本の文化を豊かにした西方からの文明や文化も,シルクロードを通って伝来した。日本と中央アジア各国の人々の間には敬意や関心が息づいている。これらを基盤に,日本と各国との交流に手を携えてこれからも共に歩んでいけるよう,私としても尽力していきたいと考えている。