寄稿・インタビュー

(2015年11月21日付)

「潜水艦を地域の安定と結びつける日本」

平成27年11月27日

(グレッグ・シェリダン外交編集委員)
 アボット前首相は、日本を豪州の同盟国としばしば述べていました。今回の貴大臣の訪問の意義は何でしょうか。特に,日豪の防衛パートナーシップの深化の見通しはどうでしょうか。それは日本が豪州の新しい潜水艦を建造することによって拡大されるのでしょうか。

(岸田外務大臣)
 日本と豪州は,自由,民主主義,人権,法の支配等の基本的な価値と戦略的な利益を共有する「特別な関係」にあり,日豪の各種協力は,アジア太平洋地域の安全保障に直結する大きな重要性を持つものです。ターンブル政権との間で,この関係を一層発展させていきたいと考えます。
 9月のターンブル政権発足後,初めて豪州を訪問する日本の閣僚の一人として,2年ぶりに豪州を訪問できることを大変嬉しく思います。今回の訪問中には,中谷防衛大臣と共に,ビショップ外務大臣及びペイン国防大臣との第6回日豪2+2外交・防衛閣僚会合を開催するほか,ビショップ外務大臣との外相会談を行う予定です。
 今回の豪州訪問を通じ,アジア太平洋地域の平和と安定に向けた日豪の安保・防衛分野における連携を一層強化し,豪州との緊密かつ幅広い協力を更に強化・推進していきたいと思います。
 豪州による将来の潜水艦プログラムについては,日豪及び日豪米の安全保障・防衛協力の強化に資するという戦略的意義を有するとの考えの下,豪州の要請に応じて,選定プロセスに参加しているものです。日本は,豪州側の求める豪企業参画の最大化や人材育成,豪州での建造を含む全ての建造オプションへの対応を官民で真摯に検討しています。日本の提案は総合的・長期的に見て豪州にとって最善の選択になり,日豪の防衛パートナーシップの更なる深化及び拡大に直接つながると確信しています。

(グレッグ・シェリダン外交編集委員)
 大臣は,米国が南シナ海において実施した最近の「航行の自由」行動は有効であったと考えますか。またそれが再び行われることを支持しますか。他の国も同様の行動を行うことは有効であると考えますか。

(岸田外務大臣)
 南シナ海における大規模な埋立て,拠点構築等,現状を変更し緊張を高める一方的な行動は,国際社会共通の懸念事項です。
 開かれた自由で平和な海を守るため,国際社会が連携していくことが重要であると考えます。今般の米国の取組については,国際法に則ったものであり,国際社会の取組の先頭に立つものとして,日本は支持しており,この考えはこれからも変わりません。
 日本は,国際社会に対して海における「法の支配」の重要性を引き続き力強く説いていきます。また,関係国も国際的な規範を遵守・共有しながら,地域やグローバルな課題に対して、より建設的かつ協調的な役割を果たすことが肝要と考えます。

(グレッグ・シェリダン外交編集委員)
 豪州との自由貿易協定は日本にとってどれくらい意義がありますか。TPPはどうでしょうか。

(岸田外務大臣)
 日豪EPAは,日本がこれまで締結してきた二国間EPAのうち,最大の貿易相手国とのEPAであるとの経済的意義に加え,基本的価値と戦略的利益を共有する豪州との関係強化に寄与するものとして重要な意義があります。
 日豪EPAには,貿易,投資,知的財産,競争,政府調達等,幅広い分野が含まれています。ともにアジア太平洋地域における経済連携を推進する日豪間でこのような包括的な協定が成立したことは,TPPを含む地域のルール作りを促進しました。
 日本にとっては,関税撤廃により,豪州市場における日本企業の競争力確保が促進されます。また,豪州は日本にとって主要なエネルギー・鉱物資源及び食料の調達先であり,EPAの締結により,これらの物資の安定供給の強化が期待されています。
10月には,経済関係の緊密化に関する小委員会において,日豪両国から官民の参加者が集い,従来の資源エネルギー分野に加え,今後新たな有望分野の可能性を探究し,日豪双方の補完的な長所を生かしつつ,日豪間の新たな協力のあり方を官民で探求することで一致しました。
 TPP協定は,21世紀のアジア太平洋に自由で公正な「一つの経済圏」を構築する野心的な試みです。幅広い分野で新しいルールを構築し,地域の成長を取り込むことを可能にするものであり,日本の「成長戦略の核」となります。
 ヒト,モノ,資本,情報が自由に行き来するようになることで,大企業だけでなく,中小・中堅企業や地域の産業が世界の成長センターであるアジア太平洋の市場につながり,日本国内に新たな投資を呼び込むことが可能となります。
 豪州を含む普遍的価値を共有する国々との間で経済的な相互依存関係を深めていくことは,地域の繁栄のみならず安定にも資するという大きな戦略的意義も有することを強調したく思います。

(グレッグ・シェリダン外交編集委員)
 日本経済の成長の見通しについてお伺いしたいと思います。それは人口高齢化の下でも可能でしょうか。

(岸田外務大臣)
 少子高齢化が進む中で,日本経済の成長力を強化していくためには,(1)女性・若者・高齢者などの労働参加,(2)技術・人材への投資による付加価値の創造,(3)イノベーションを通じた需要喚起と国際マーケットの成長の取り込みが必要となります。簡単な課題ではありませんが,日本における生産性革命の実現に向けて,あらゆる政策手段を尽くしていきたいと考えます。
 そこでは,日豪の協力の観点も重要です。例えば,「観光立国」を唱えて努力してきた結果,日本を訪れるオーストラリア人旅行者の数は,2014年の1年間で約6万人増加しました。時差も少なく,季節が逆である両国の魅力を活用し,双方向でウィン・ウィンの関係を築きたいと考えます。
 また,日豪EPAやTPPを機会と捉え,農業についても「攻め」の姿勢で改革し,日本食ブーム等を活用して輸出の増加を目指しています。
 さらに,豪州北部で生産された農産物を,日本企業が有する高度な流通技術を駆使して,アセアン市場に輸出するといったビジネスモデルも生まれつつあります。このように,日豪両国のみならず,第三国も含めた協力は,インフラ分野でも検討されており,大きな可能性を秘めています。
 今回の私の訪問を契機に,日豪間の経済協力の一層の発展,そして日本と豪州,更には地域の経済成長と繁栄につなげていきたいと思います。


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