寄稿・インタビュー
フィナンシャル・タイムズ紙(英国)による安倍総理大臣対面インタビュー
2014年10月20日付フィナンシャル・タイムズ紙掲載
安倍総理,消費税引き上げと経済的損害を比較する
安倍晋三氏は,もし増税が日本経済に過度の損害を与えるのであれば「元も子もない」として,日本の消費税増税を延期する可能性を示唆した。
フィナンシャル・タイムズ紙とのインタビューにおいて,日本の安倍総理は,予定されている8%から10%への消費税増税は,「次世代」のために,年金や医療給付を確保するためのものであると述べた。しかし同氏は,「他方で,せっかくつかんだデフレ脱却のチャンスを逃すわけにはいかない」とも付け加えた。
日本経済は,安倍政権が5%から8%への消費税増税を実施して以降,4月から7月までの間に年率換算で7.1%縮小した。2度目の増税は,日銀,財務省,大企業や国際通貨基金(IMF)から強く支持されている。これらはすべて日本の巨額の債務削減のための行動を求めている。増税の延期には,法律改正も必要となろう。
しかし,安倍総理は,「消費税の増税によって,景気が腰折れしてしまっては,税収も上がらず,元も子もない」と述べた。
安倍総理の慎重な態度は,今後の対応が,第3四半期の成長の回復の強さにどれだけかかっているかということを示している。安倍氏は,最終的なデータがそろう12月初めに増税について決断する見込みであるが,差し当たって示されている指標は失望させるものである。
日本経済を再生させるという安倍氏の計画が息切れしているとの懸念は,先週,世界中の金融市場を動揺させた,世界経済の成長見通しへの沈鬱を強めた。
以前の外遊では,安倍総理は自らの改革計画を売り込む自信に満ちたセールスマンを演じていた。ニューヨークの証券取引場で,「アベノミクスを買おう」とトレーダーらに呼びかけたこともある。
しかし,熱気はアベノミクスから去ってしまった。むしろ,日本経済を好転させる努力は,長く厳しく危険な道のりにも見える。
ミラノにおいて,安倍氏の態度は慎重であり,時折防御的でさえあった。安倍氏は,アベノミクスの成功に対して疑問を投げかけた評論家に対し,わずかないらだちも見せた。
「全国津々浦々に届く景気の好循環が始まる日がくると信じている。」,「政策においては様々な批判が伴うが,どうすればいいという代替策を示した人は1人もいない」と,安倍総理は述べた。
同氏は,円安の影響を受ける企業,とりわけ中小企業への一層の支援が必要であると認め,「もちろん,輸入価格の高騰により影響を受ける地方や中小企業の方々にはしっかりと目配りしながら,必要に応じて対策を打っていく考えである」と述べた。
一方,安倍氏は,アベノミクスが達成したと考えている成功,とりわけデフレとの戦いについて進んで強調した。同氏は,「我々は,デフレ予想を払拭した」と述べ,更に,現在は賃金が上昇しつつあり,求人は豊富である,と加えた。更なる構造改革も約束された。
「電力の自由化も進んでいる。過去に指一本触れられなかった農協改革にも手を着けることを決定している。また,医療分野の改革,雇用分野の改革も進んでいる」とした。
米国の貿易交渉担当者が,TPP交渉を妥結させるための構造改革が進んでいないと公に日本を批判していることについて指摘されると,安倍氏は短く笑い,「交渉は最終局面であるが,こうした交渉は最終局面が常に最も困難である」と外交的に回答した。同氏は,先週のオバマ大統領との電話会談で,「TPP交渉の妥結に向けて最大限努力をしていく」ことで一致したと付け加えた。
しかし,安倍氏が最も会談することを望んでいる外国の指導者は,おそらく中国の習近平主席であろう。日中間の緊張は高いままである。両国は,問題となっている,東シナ海の諸島を巡り対立を続けている。中国政府はまた,安倍政権の歴史の取扱いや,総理自身とその同僚らによる靖国神社への参拝に対して非常に批判的である。
安倍氏は,中国の習主席に対し,繰り返し会談を申し入れているが,これまでのところ拒絶されている。ミラノにおいて,安倍氏は,来月北京で開催されるAPEC首脳会議の際に,習主席との二国間会談が実施されることへの期待を再度述べたが,その一方で,日本は「前提条件」を受け入れることは出来ないと述べた。明らかに,安倍氏が靖国神社に二度と参拝しないと約束することを中国が求めていることへの言及である。
安倍氏は,言葉を慎重に選びつつ,日本が尖閣諸島,中国が魚釣島と呼ぶ,争点となっている諸島周辺での軍事的状況について詳細に論評することを拒み,「残念ながら領海への侵入が行われているが,それに対して日本は冷静に対応している」と述べた。
安倍氏は,日中間の相互の経済的利益を強調し,「APEC首脳会議の際に首脳会談を行うことができれば良いと考えており...不測の事態を防ぐという観点から,防衛当局間のホットラインを運用すべきであり...首脳会談が成立した際には,この合意を中国側に確認したいと考えている」とも加えた。
ロシアによるクリミアの強奪の影は,日中間の領土紛争にも及んでいる。安倍氏がインタビューを行った同じミラノのホテルで,ロシアのプーチン大統領は,ウクライナのポロシェンコ大統領と会談していた。安倍氏は,ミラノにおいて,ロシア及びウクライナの指導者双方と会談し,FT紙に対し,「日本は,力と脅迫による現状変更を認めない」と述べた。