寄稿・インタビュー


2014年4月10日付 第11面

平成26年4月10日

「核のない世界」への日本のコミットメント

 バラク・オバマ米大統領が,プラハで「核のない世界」を初めて呼びかけたときから,5年が経過した。その後,このWSJ紙では,米国外交政策に関する「四賢人」(ジョージ・シュルツ,ウィリアム・ペリー,ヘンリー・キッシンジャー,サム・ナン)が核兵器のない世界を達成することの必要性を述べた寄稿の連載を開始してきた。日本の外務大臣として,また広島出身者として,私はこの呼びかけを心から支援する。私は,核軍縮を,私の仕事にとって不可欠な部分と考えている。

 明日,私は軍縮・不拡散イニシアティブ(NPDI)の参加国の外務大臣を広島にお迎えする。NPDIは,核軍縮における国際的努力を主導するために,2010年に日本及び豪州が主導して発足させた12カ国の非核兵器国によるグループである。今週末の会合のタイミング及び開催場所は重要な意味を有する。来年は,広島及び長崎への原爆投下から70周年に当たる。そして,数週間のうちに,190カ国の政府関係者が,5年に一度開催される核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議に向けた最後の準備委員会のためにニューヨークに集結する。

 冷戦は,相互不信及び透明性の欠如が,不安定な軍備競争や世界的な核兵器の備蓄をもたらすことを示した。冷戦のピーク時には世界には約7万個の核兵器が存在した。しかし,協力や透明性の向上,法の支配及びその他の21世紀の外交的基盤は,核兵器の備蓄が約1万7千個まで下がることにつながった。これは大きな削減であるが,我々はここで歩みを止めてはいけない。

 日本は,積極的平和主義を掲げ,ルールに基づく国際協力を固く確信する国家として,国際社会と共に,海洋・国際航行の自由の保全,人道支援,災害救助,さらに,核軍縮を強く推進している。

 今週末(4月10日,11日)のNPDI外相会合では,日本は,核兵器のない世界という目標の達成に向けて,多くの実際的な短期・中期的措置を強調するつもりである。これらの措置には,これまで取り組まれてきた配備済みの戦略核兵器の削減のみならず,非戦略核兵器及び非配備核兵器を含むすべての種類の核兵器の包括的な削減を含む。

 我々は核兵器能力に関し,さらなる透明性の向上も追求している。これは,核兵器国がより自信をもって核兵器を削減することにつながるであろう。NPDIは既に核兵器国に対して,NPTでの核軍縮の約束を果たす努力に関し,詳細な情報を提供することを目的とした報告フォームを提案している。

 多国間枠組みを核軍縮に適用することは重要である。貿易,金融規制,公衆衛生等の課題においては,多国間の枠組みで対処することが増えている。しかし,核軍縮・不拡散に関する国際的枠組みは,多くの点で冷戦の考え方に陥っている。最近まで,このような取組は,主に米露二国間のレベルでなされてきた。この問題を効果的に前に進めるため,核軍縮のプロセスは,いずれ,核兵器を保有するすべての国が関与する多国間でなされる必要がある。

 核兵器の「凍結」を宣言することも優先課題である。多国間の核軍縮交渉が開始・完了するまで,核軍縮の努力に関与せず,核兵器を保有し増強している国は,現在のレベルで核戦力を凍結し,核兵器の削減を開始するとの政治的なコミットメントをすべきである。

 北朝鮮の核・弾道ミサイル開発は看過できない。この関連で,最近の北朝鮮による弾道ミサイル発射は,国連安保理の関連決議に対する明確な違反であり,非難されるべきである。国際社会として,北朝鮮に対してこのような挑発行為を停止するよう明確なメッセージを送るべきである。また,日本はイランの核問題に対しても包括的かつ最終的な解決を目指して取り組んでいる。国際社会は,すべての懸念が払拭されるように,取組を続けなければならない。

 地域のネットワークを構築することにより,核関連物質及び技術の輸出管理を強化することも重要である。日本は,この分野でアジア諸国の能力を向上させる努力を継続し,さらなる連携及び協力を強化していきたい。

 先月ハーグで開催された核セキュリティ・サミットの中心的な議題でもあった核テロの阻止も,重大な問題である。日本は,原子力の平和的利用に関する長年の経験がある。日本の高い技術力と蓄積された経験を,他国の核セキュリティに関する能力構築支援のために引き続き活用していく。また,東京電力の福島第一原子力発電所における事故から学んだ教訓は,原子力安全だけでなく,核テロ対策という意味でも有益であり,これらの経験と教訓を今後とも共有していく。

 相互信頼,高い透明性,法の支配といった原則に基づく核軍縮・不拡散におけるこのような努力は,21世紀に適したグローバルな枠組みを作り上げることにつながるであろう。

 私は,日本の外務大臣として,核兵器のない世界の実現に向けて前向きな進歩が継続するよう,熱意をもって取り組んでいきたい。

日本国外務大臣
岸田文雄

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