寄稿・インタビュー


2014年1月30日付,22ページ

平成26年1月30日

 1月12日付の中国大使による寄稿は,自国の強制的な拡張主義的行動が多くのアジア太平洋地域諸国に安全保障上の深刻かつ現実的な懸念を呼んでいることを都合よく無視しつつ,戦後の日本の平和国家としての歩みを否定する中国大使館による国際的な政治宣伝活動の最新の例である。自由社会の人々そして民主的に選ばれた首長に対するこのような根拠のない誹謗は,人権や法の支配などの基本的価値を日本と共有するイタリア国民にとって全く説得力がないと私は確信している。しかしながら,イタリアの読者が中国の政治宣伝に惑わされないように,数例の事実を簡潔に述べなくてはならない。

 靖国神社では,第二次世界大戦時のみならず1853年以降の国内における動乱やその他の戦争において国のために尊い命を犠牲にした約250万人の人びとの御英霊が,性別や地位に関係なく奉られている。安倍首相は最近,靖国神社を参拝し,「恒久平和への誓い」と題した談話を発表した。首相は,戦争で犠牲になった御英霊に崇敬の念を示し,ご冥福を祈るとともに,日本が二度と戦争を起こさないと新たに誓うために参拝したことを強調した。首相は,国籍に関係なく戦争で亡くなられた人々を慰霊する追悼施設である鎮霊社にも足を運んだ。首相の談話に明らかなとおり,参拝の目的は戦犯への奉祀や軍国主義の礼賛では決してない。過去68年間,日本は自由かつ民主的な国家を創り,一貫して平和の道を歩んできた。

 控えめに言っても,靖国神社に対する中国の立場には一貫性がない。第二次大戦後,日本の首相は60回以上靖国参拝を行ってきた。この半数近くは,14人のA級戦犯が1978年から合祀されていることが公表された1979年以降に行われた。中国が1985年からこの問題を取り上げはじめ,それ以前の20回以上の参拝に反発しなかったことを留意されたい。さらに中国は,これらの参拝後,2008年の日中共同宣言において,日本の戦後の平和国家としての実績に対する前向きな評価を公式に表明している。中国の非難の真の動機が何か考えさせられるものである。5年以内に日本は突然軍国主義化したのだろうか。もちろんそうではない。

 日本政府が歴史を直視しつつ,かつて多くの国々,とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えたことに対する深い悔恨と衷心からの謝罪を繰り返し述べてきたことを強調されたい。この見解は安倍政権においてもしっかりと踏襲されている。中国大使はドイツによる戦後処理にも言及しているが,欧州と東アジアにおける戦後の状況が大きく異なっていることを認識する必要がある。さらに,欧州諸国の和解は戦争を起こした国と被害を受けた国の双方の努力によって成し遂げられたのである。日本が世界の平和と繁栄への貢献を通じて戦後最大限の努力を払い,自国の役割を果たしてきたことを,誇りを持って述べたい。よって,各国に駐在する中国大使による日本に対する侮辱的な発言が世界で共感されないことは確かである。欧米社会のみならず多くのアジア諸国において,日本は常に世論調査で最も好きな国のひとつに上げられている(BBC調べ)。

 戦略的核兵器を開発し,過去20年間,年間軍事費を2桁増加させた国家が隣国を軍国主義国家と呼ぶのは皮肉なことである。日本は防衛費を10年間削減し,2013年にわずか0.8%引き上げた。中国の軍事予算は世界第二位の規模であり,日本の二倍以上である。法の支配の遵守によってではなく,力によって現状を変えようとする取組は,地域全体に安全保障上の深刻な懸念を及ぼしている。中国公船は,120年間日本が平和裏に領有権を有する尖閣諸島周辺の日本の領海に度々侵入した。中国が領有権を主張し始めたのは,科学調査によって近辺に油田の存在が示唆された1971年以降である。中国の駆逐艦は,昨年日本の船艦に射撃統制レーダーを向けるという,通常の海軍の慣行では戦争行為とみなされうる行動をとった。中国は最近,尖閣諸島上空の防空識別区を一方的に発表し,地域の緊張がさらに高まっている。以上の危険な挑発行為に直面しながらも,日本は最大限に自制している。

 中国は異なる考え方を有しているであろう。だからこそ我が国と中国は会談を持ち,相互理解を探るべきなのである。安倍首相は中国の首脳陣に直接考えを説明することを強く望んでいると述べたが,中国はこれまでその申し出を拒んできた。中国が依然として,もはや存在しない70年前の軍国主義の亡霊を呼び覚まそうとするより,これに応じることを心から願っている。

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