寄稿・インタビュー
エル・パイス紙(スペイン)による岸田外務大臣対面インタビュー
1月9日付,2面及び3面
(問)
尖閣諸島をめぐる日中間の争いは最近かなり悪化している。日本としては緊張緩和のためにいかなる取り組みを行うお考えか。
(岸田外務大臣)
尖閣諸島は,我が国の固有の領土であることに疑いはない。歴史的にも国際法的にも,日本の管轄下にある。したがって,尖閣諸島の主権をめぐっては,解決すべき領土問題はそもそも存在しない。中国は「力」による現状変更を試みており,日本の海域に自国の船舶を侵入させている。このような試みに対して,日本は毅然かつ冷静に対応していくが,我々から事態を悪化させることはない。中国に対しては自制を求めていきたい。
日中関係は,最も大切な二国間関係の一つであり,戦略的互恵関係に基づいて発展させていきたい。対話が重要であると考えている。対話のドアは開いており,中国にも同様の姿勢を期待したい。
(問)
他方,日本の行動は,国家安全保障局の設立や国家安全保障戦略の策定,更には防衛費増額など,軍事拡大主義に見えるが如何。
(岸田外務大臣)
我々は,事態をエスカレートさせているのではない。たとえば,国家安全保障会議Cは日本の国家安全保障戦略を機動的に進めていくために設立した。またNSSについても,この分野の国家戦略を明らかにし,透明性を高めたいと考えている。
防衛費の増額については,10年間の防衛費削減の後,来年度は僅か2.8%の増額となるが,そのうちの2%は人件費である。一方,中国はこの10年間で4倍近く軍事費を増加させた。
(問)
安倍晋三総理大臣による,A級戦犯が14人も合祀されている靖国神社の参拝に対し,米国までもが否定的であるが,なぜ靖国神社を参拝したのか。
(岸田外務大臣)
靖国神社は,第2次世界大戦で戦死した方々だけではなく,1853年以降,国のために命を落とされた方に捧げられたものであり,計250万人近い方々が祀られている。国のために尊い命を捧げた方々に対して哀悼の意を表し,二度と戦争を起こさないという誓いを新たにすることである。
(問)
しかし,安倍総理はその第一次政権(2006-07年)には,中国人や韓国人,その他日本の帝国主義により占領された国の国民を傷つけないため,靖国神社に参拝しなかったが。
(岸田外務大臣)
安倍総理は,第一次政権時には,国際情勢を考慮し参拝を実施しなかったが,今回は,先ほど申し上げた理由で参拝したものと承知している。A級戦犯については,極東軍事裁判によって裁かれたが,裁判の結果について我が国は1951年のサンフランシスコ講和条約によって受け入れている。安倍総理もこの立場は全く変わっていない。
(問)
日本は過去防空識別圏の拡張を行ってきており,最近では2012年6月に行われている。昨年11月に中国が一方的に発表した防空識別圏は日本にの対応するものとお考えか。
(岸田外務大臣)
今回中国が発表した防空識別圏は,我が国が設けている防空識別圏とは内容も性格も日本のものとは異なるものである。中国が設定した防空識別圏では,中国政府は公海上の空域を飛行する航空機に対して,中国国内の手続きに従うことを義務付け,これを遵守しない場合には「防御的(緊急)措置」をとるとしている。このような内容は,(公海上空における)飛行の自由に反するものであり,認められない。
我々は二つの理由でこれを認めることができない。中国の防空識別圏は,他国にはない強制的な内容が含まれている点が一つ。また,中国側が設定した空域は,尖閣諸島の一部が中国の空域であるかのように識別されていることである。中国が同措置を撤回するよう,他国とも協力していきたい。
(問)
今アジアにおいては冷戦という状況にあるという認識をお持ちか。
(岸田外務大臣) 北朝鮮がミサイル及び核兵器を有し,中国が透明性を欠いて軍事力を増強し,海空域における拡張主義を展開する中で,東アジアの状況は一層厳しさを増している。このような状況の中,東アジア首脳会議(EAS)やASEAN地域フォーラム(ARF)といった既存の地域対話メカニズムにしっかり参加し,こうした枠組みを強化したい。
(問)
EUはアジアにおける安全保障枠組み構築に協力することができるとお考えか。
(岸田外務大臣)
然り。欧州諸国の経験は有益である。スペインを含む欧州諸国をみれば,過去60年以上にわたって,統合,拡大と地域の和解を進めてきた。東アジアにおける安全保障政策の改善のため,EU諸国と協力していきたい。
(問)
北朝鮮の金正恩国防第一委員長による粛正は北朝鮮の体制の不安定さを示しているものとお考えか。また北朝鮮が自身の武器を日本に対して使用するのではないかとお考えか。
(岸田外務大臣)
今般の粛清は,北朝鮮の人権軽視の表れである。北朝鮮での最近の動きについては,金正恩国防第一委員長を中心とした体制固めのプロセスにあると見受けられる。
北朝鮮が国連安保理決議及び六者会合(日,中,露,米,韓,北)の共同声明を遵守するよう六者会合の他の関係諸国との協力が重要と考える。
北朝鮮に対しては,今後とも関係各国と連携しながら,安保理決議や六者会合の共同声明を遵守するよう引き続き求めていかなければならない。自国の防衛力ともに日米安保協力もしっかりと強化し,日本の安全に万全を期していきたい。
(問)
米国が日本や他の国々との軍事同盟を通じ中国を封じ込めようとしているのではないかとの中国側の恐れは,根拠のないものとお考えか。
(岸田外務大臣)
日米同盟はアジア太平洋地域の平和と安全保障の礎であり,そのことは日米両国のみならず,多くの国々も認めているところである。中国を封じ込めようとしているのではなく,対話を通じ,中国が国際社会における責任あるメンバーとなるよう働きかけていきたい。
(問)
安倍総理は積極的な外遊を通じて日本の外交を牽引している。安倍総理のスペイン訪問の予定について伺いたい。
(岸田外務大臣)
日本スペイン交流400周年において,日本の皇太子殿下がスペインを御訪問になり,ラホイ首相が訪日したが,安倍総理の(スペイン)訪問については未だ決定はされていない。スペインは身近な存在であるパートナー国であり,ラホイ首相の訪日の際に発出された両国首脳共同声明においても,両国は安全保障,経済及び中南米において協力を強化していくことで一致した。再生可能エネルギー,インフラ分野及び医療分野において,更なる企業連携の可能性も期待されている。