寄稿・インタビュー

サウス・チャイナ・モーニング・ポスト紙(香港)による岸田外務大臣インタビュー


3月4日付1面,3面 王向偉編集長,香港発

平成26年3月12日

1 インタビュー記事

「日本の岸田文雄外務大臣,緊張緩和に向けた中国との対話を促す」(大臣インタビュー)

 岸田文雄外務大臣は,サウス・チャイナ・モーニング・ポスト紙に対し,中国と日本は防衛当局間の「海上連絡メカニズム」の構築やその他実務事項についての対話を再開すべきであると述べた。
 岸田大臣は,東京で行われたサウス・チャイナ・モーニング・ポスト紙との単独会見において,これら諸案件の解決は,東シナ海における領土に関する緊張の意図せぬ高まりの危険性を減ずるものであり,両国関係全体の改善への道を開くものとなろう,と述べた。
 大臣は,中国に対して「我々の間の率直な意見交換」の継続を促すとともに,協議が両者間のハイレベルな政治対話につながることを期待した。
 この岸田大臣の訴えは,両国関係が,日本では尖閣諸島として知られる釣魚島(ママ。以下同じ)に関する論争や,昨年12月の安倍晋三総理大臣の,14名のA級戦犯を含めた戦没者を祀る靖国神社への参拝により,非常に緊張している時点で行われたものである。
 この参拝以来,北京は,東京との公的な交流の多くを停止してきており,また,中国の指導者は安倍氏他の政府高官との会談を拒むと述べている。同時に両国は,世界中での広報合戦に入った。
 政治的圧力の最近の増幅として,全人代常務委員会は,南京大虐殺と日本の第二次世界大戦の敗戦の二つの日を,国家の記念日として承認した。
 これらの緊張は,日本と中国の戦闘機や巡視船が釣魚島周辺で肩を並べるに伴い,米国に次ぐ世界第二と第三の経済大国である両国の間での偶発的対立の発生に関する国際的な懸念を煽ってきた。岸田大臣は,両国が無用な誤解や摩擦を減らすために具体的な措置を講ずることが必要かつ重要であると述べた。
 「両国間で偶発的な事態が発生することは,日中のいずれにとっても,関係国にとっても,誰の利益にもならない」と述べた。
 岸田大臣は,不測の結末を回避すべく,既に原則合意済みである両国間の海上防衛連絡メカニズムを実現するために前進すべきであると述べた。
 「日中関係は現在困難な局面にあるが,両国の率直な意見交換を続けていくことが重要である。海上連絡メカニズムを始めとする様々な対話を積み重ねていき,それらを政治的に高いレベルでの対話に繋げていきたい。我々の対話の呼びかけに対し,中国側が同じ観点から応ずることを希望する。」と,大臣は述べた。
 会見を通じて,岸田大臣は,和解のための対話を繰り返し呼びかけ,日中関係は日本にとり最も重要な二国間関係の一つである旨述べた。また,両国の共通の戦略的利益に基づく互恵関係を進めていきたいと述べた。
 「中国の平和的な発展は,日本のみならず,地域全体及び国際社会にとって,大きな利益でありチャンスである」と述べた。
 また,大臣は,両国間の貿易,日本による対中投資,毎年約500万人の両国間の往来に言及しつつ,日中関係はかつてない緊密な相互依存の関係にある旨,付言した。

 日本からの対話の呼びかけに対して中国から何らかの反応があったかとの問いに対し,岸田大臣は,両国間では実務レベルの協力や民間部門での交流において様々な対話がなされてきた旨述べた。
 興味深い進展として,北京は,日本への政治的圧力は強めつつも,安倍総理の靖国神社参拝以来日本に加えてきた両国経済・文化交流への縛りは,静かな形で緩和し始めている。
 先週月曜日(2月24日)に,日本は,当初は1月に予定されていた若手農村公務員,ジャーナリスト,中学生の三件の代表団の訪日が今月中に再開されると発表した。
 岸田大臣は,安倍総理の靖国神社参拝を弁護した。中韓は,いずれも靖国神社を日本の戦時中の軍国主義の象徴と見なしており,同神社への参拝を非難している。この参拝は,日本の最も強力な同盟国である米国にさえ非難された。
 岸田大臣は,日本の外交政策及び歴史認識には全く変化がない旨述べ,「中国及び韓国との関係については,未来志向で協力的な関係を発展させていくことが重要だ。」と述べた。
 中国外交部は,日中間の紛争案件は対話を通じて解決されるべきとの岸田大臣の提案に同意しつつも,東京がそうした対話を支持するのは見たことがない,と述べた。
 昨日(3日)の定例記者会見において,秦剛中国外交部報道官は,「東シナ海及び釣魚島についての中国の立場は一貫している」と述べた。
 また,「我々は,双方は争いを対話と協議を通じて適切に管理すべきと考える。(しかしながら,)日本政府は最近,釣魚島問題についてもめごとを引き起こし,その上,中国側との間で真の誠実な対話と交渉を実施することを拒んでいる。双方が釣魚島問題及び東シナ海における諸問題において,論争や相違を有しているのは,これが原因である。我々は,日本側が中国の立場に誠実に応え,事実と歴史を直視し,関連の諸問題について中国側と真の協議を実施することを希望する。」と述べた。

2 インタビュー全文(同紙電子版に掲載)

【王編集長】サウス・チャイナ・モーニング・ポストは,アジアの中で最も主導的な役割を果たしており,日中関係について当然に関心を持っている。最初の質問だが,日本は,日中間の外交及び軍事的緊張を緩和するため,どのような対応を行っているか。また,その見返りとして,中国からどのような対応を期待するか。

【岸田外務大臣】まず日中間で偶発的な事態が発生することは,日中双方にとって利益にもならないし,関係国,誰の利益にもならないと考える。こうした事態が発生しないために,誤解や摩擦を減らす,意思疎通をしっかり図っていく,そして相互理解を深めて信頼関係を作っていくことが大変重要。そして信頼を醸成することが必要。
 こうした不測の事態を回避するために,具体的にどう対応していくかについては,第一次安倍内閣時に日中首脳会議が行われた際に,両国間の防衛当局間の連絡体制を整備することから,防衛当局間の「海上連絡メカニズム」という枠組みを作ることに,大筋合意をしている。しかし,今日まで運用開始について中国側が合意していないといった状況が続いている。我が国としては,早期に中国側が運用開始に応じてくれるよう,しっかりと働きかけをしていきたい。
 日中間は困難な局面の中にあるが,率直に意見交換していかなければならない。海上運用メカニズムを始めとする様々な対話を積み重ねていき,政治の高いレベルにおいても対話を行うことに繋げていきたい。中国側にもこうした我々の働きかけ,考え方に応じていただきたい。

【王編集長】日中関係につき,年内に発展しうる最も楽観的,また最も悲観的な予想とは。

【岸田外務大臣】まず,日中関係は我が国にとり,最も大切な二国間関係のうちの一つ。中国が平和的に発展することは,日本のみならず,地域や国際社会にとっても大変大きな利益でありチャンスである。日本と中国は,地域や国際社会の平和や安定のためにも責任を共有している。また,日中関係そのものも,かつてない程緊密かつ相互依存的な状況にある。日本にとり,中国は最大の貿易相手国。また,中国に進出している企業の数は各国(企業)の中でも日本が一番多い。また日本と中国間を,年間500万人を超える人が行き来しており,留学生交流あるいは地域,地方都市間の交流においても大変頻繁である。
 王編集長の質問は,一番楽観的な予想,そして一番悲観的な予想についてだが,私の立場からは,あまり具体的なシナリオについて申し上げるのは適切ではない。日中関係は大変重要で,今,大変深い関係ができあがっている。この関係をできるだけ進展させていくことが,外務大臣としての私の仕事である。できるだけ戦略的互恵関係に基づき,大局的な観点から二国間関係を進めていきたい。

【王編集長】中国の専門家は,日中両国の首脳は,鄧小平氏や他の日本の首脳が意見の異なる問題を脇に置き,関係強化を進めたという賢明な判断から学ぶべし,と提起しているが,今後どのような場面で日中間の対話が可能になるとお考えか。また,先ほど大臣から日中関係を前進させたいというお言葉をいただいたが,中国側から前進させるとの意思を示した何らかの兆候は見られているか。ご意見をお聞きかせいただきたい。

【岸田外務大臣】まず日中関係は,1972年の日中共同声明において国交が正常化した。1978年には日中平和友好条約が締結された。1998年に日中共同宣言,2008年に日中共同声明を作成した。基本的に我が国は,これら四つの文書を重視しており,ここに記された精神,方針の下に政治,経済,文化といった関係を進めてきた。今後もこれら四つの文書の精神,方針を大事にしながら,個別の問題があったとしても,日中両国の全体に影響を及ぼさないよう,戦略的互恵関係を進めていきたい。今後の進め方は,様々なレベルで対話を進めていかなければならないが,特に実務的な分野での協力を進めていく。これを積み重ねていくことにより,政治の高いレベルでの対話に繋げていく。こういった考えの下に対話を積み重ねていきたい。中国側からの反応があったか,あるのかという質問については,実務協力のレベル,あるいは民間交流等,様々な分野で,日中間においては交流や対話が存在する。これを積み上げ,高いレベルまでに持っていきたいので,中国側にも政治の高いレベルでの対話に応じてもらいたいと期待している。

【王編集長】この地域の安定に向けて,米国の役割を大臣はどのように認識しているか。

【岸田外務大臣】日米同盟は大変重要であると考えている。日本と中国の二つの国の関係が安定していることは,米国を含むアジア太平洋地域全体にとっても利益であると考える。
 このように,地域の平和と安定において米国の果たす役割は大変重要だと考えており,先日私(大臣)もワシントンに行き,日米外相会談の場でケリー国務長官とアジア太平洋地域情勢について意見交換した。今後とも我が国としては,まずは日米同盟を引き続きしっかり強固なものにしていきたいと考えており,併せて日中関係も大局的な見地から戦略的互恵関係を進めていく,こうした方針の下に,アジア太平洋地域の平和と安定に貢献したいと考えている。

【王編集長】総理の靖国参拝について,総理は,中国及び韓国の善意的な対応と引き換えに,今後の靖国神社参拝をやめる意思があると大臣はお考えか。また,総理がこのような決断を下すに当たって,何が必要とお考えか。

【岸田外務大臣】靖国神社には第二次世界大戦で命を落とした方々だけではなくして,第一次世界大戦をはじめ,1853年以降,明治維新以来日本の国内の戦争においても命を落とされた方々,合わせて247万人の方々が祀られている。
 身分や男女の区別なく,こうした長い歴史の中で命を落とされた方々が祀られている。安倍総理は,自ら談話を発して,自らの参拝について真意を語っているが,今申し上げたような方々に国のリーダーとして尊崇の念を示し,不戦の誓いをしたというのが安倍総理の参拝における自らの考え方である。安倍総理自身は,今後の靖国参拝については自ら参拝するともしないとも何も言ってはいないが,外務大臣の立場としては,まずは安倍総理の談話に込められた思いをしっかり説明し,そして何よりも大事なのは,我が国の外交政策,あるいは歴史認識,これには全く変化がないということをしっかり説明することだと思っている。
 日本は,戦後69年にわたって,自由,民主主義,法の支配といった考え方を大事にしながら,平和国家として国際社会の平和と安定に貢献してきた。こうした平和国家としての歩みは変わらないということを,今後ともしっかりと説明していなければならないと考えている。その上で日本は,中国あるいは韓国といった国々と未来志向で協力関係を発展させていくことが重要だと思っているし,ぜひそうしたいと考えている。いずれにせよ,安倍総理の靖国参拝問題については,外交問題化,政治問題化させないように,今申し上げた説明をしっかりと外務大臣としては続けていきたいと考えている。

【王編集長】お時間をいただき感謝したい。また,質問に明確にお答えいただき感謝している。最後にもう1問だけお答えいただきたい。今年北京でAPECが開催されるが,その際に貴大臣におかれては中国のカウンターパート,また,中国の高官とお会いになる予定はあるか。

【岸田外務大臣】今現在,具体的な予定は何も決まっていないが,基本的に私(大臣)としては,日本と中国の間に個別の問題,難しい問題があったとしても,まず率直な意見交換をすることが重要だと考えている。チャンスがあれば中国の王毅外相はじめ関係者とぜひ直接お会いして意見交換したいと考えている。中国側にもぜひそれに応じていただければと考えている。前提条件なしに話すことが重要だと思っているし,直接会って,個別の問題についても率直に意見交換することが大事であり,そのことが信頼関係を作る上でも重要だと考える。

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