寄稿・インタビュー

令和6年4月27日

 上川陽子外務大臣が初のアフリカ歴訪に乗り出した。8月に東京で開催されるTICAD閣僚会議に向けた外交ロードショーである。マダガスカルは、そのために彼女が訪れる最初のアフリカの国である。独占インタビューで、その詳細と狙いを語ってもらった。

問:
 日本とマダガスカルの関係をどのように考えるか。

答:
 外務大臣として初めてアフリカを訪問するにあたり、マダガスカルを最初の訪問国とした。
 マダガスカルと日本は60年以上に及ぶ友好関係を有している。バオバブの木やキツネザル(レミュール)などマダガスカルの豊かな自然、壮大な景色をいつか見てみたいと憧れる日本人は多く、マダガスカルに親近感を抱いている。最近ではマダガスカルに寄港するクルーズ船旅行の人気が高まっていることもその証拠。マダガスカルを訪問する日本人観光客が一層増加することを期待している。
 さらに、こうした文化的な親近感もあり、マダガスカルの日本語学習者数は2,400名を超えていると言われているが、サブ・サハラ・アフリカ地域で第1位。ラジョリナ大統領も空手家であると承知している。双方の国民が互いの文化に高い関心を持っていることは、両国の友好関係の礎である。
 マダガスカルに始まる今回の私のアフリカ訪問は、この信頼関係を土台として、2025年8月のTICAD9(横浜)も見据えつつ、国・地域ごとに異なるアフリカの多様な声をきめ細かくくみ取りながら、その成果を私自身が議長を務める本年8月のTICAD閣僚会合(東京)に繋げていくことを目的としている。
 日本とマダガスカルは同じ海洋国家であり、法の支配に基づく秩序に支えられた「自由で開かれた海洋」の維持・強化は、日・マダガスカル両国にとって共通の課題。日本は、2016年にナイロビで開催されたTICAD6において、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」のビジョンを初めて提唱。マダガスカルは、FOIPの推進に当たり日本の重要なパートナー。
 FOIP推進の観点では、経済面では海の連結性強化が重要であり、日本はマダガスカルの最大の商業港であるトアマシナ港拡張計画を実施している。また、安全保障面では海上保安能力強化のため、高速警備艇を供与している。このように日本は、FOIPを実践に移しているが、これは日本とマダガスカルが同じ基盤に立っているからこそ。

問:
 日本とマダガスカルの経済面の関係をどのように考えるか。

答:
 鉱物資源が豊かなマダガスカルが同資源を有効活用しようとしていることも十分承知している。そしてそのことは、マダガスカルが経済安全保障の観点からも日本にとって重要なパートナーであることを意味する。日本企業が筆頭株主であるマダガスカル鉱山会社が実施するアンバトビー事業は、日本企業の対アフリカ投資案件として最大規模のものであり、日本にとって重要であるだけでなく、約9千名の雇用を創出するなど、マダガスカル経済にも貢献している。
 それだけでなく、資源の安定的確保のため、リチウム開発に関するマダガスカルからの提案に基づいて、2023年12月に JOGMECと鉱山・戦略的資源省との間で、衛星画像解析技術移転及び共同衛星画像解析に関する実施合意書が締結されている。これは、日本としてマダガスカルの資源のサプライチェーン強靭化に協力していくとの意思の表れ。

問:
 ここ数年、日本はJICAを通じて、マダガスカルへの無償資金協力や円借款に特に積極的である。これはマダガスカルでの日本の存在感を高めるためか、また日本にとってのメリットは何か。

答:
 これまで我が国は、マダガスカルのオーナーシップを尊重しつつ、農業、インフラ、教育、保健、そして海の連結性といった様々な分野でマダガスカルの発展のため、課題解決に共に取り組んできた。これらの協力はいずれもラジョリナ大統領の掲げる人的資本開発、産業化、ガバナンス改善の3本柱に合致するもの。
 特に農業分野では、灌漑施設の整備の他、コメ生産性向上の為の技術協力プロジェクト・PAPRIZなどを実施中である。 先に述べたとおり、日本とマダガスカルは古来から、海洋貿易と海洋資源の開発も活かしつつ経済発展を遂げてきた海洋国家。海洋は恵みや繋がりをもたらすが、その恩恵を享受するためには、法の支配に基づく自由で開かれた海洋秩序の支えが不可欠。
 日本と同じインド太平洋に位置する海洋国家で、アジア・アフリカ・欧州を繋ぐシーレーン上に位置するマダガスカルの平和と安定が確保され、持続的な開発が進展することは、両国のみならず環インド洋地域全体の平和と繁栄にとっても重要。

問:
 アンバトビー・プロジェクトはマダガスカルと日本の関係において避けることのできないテーマである。ここ数年の世界市場におけるニッケルやコバルト価格の下落は、この事業を危うくする可能性はあるか。世界経済の状況が改善しない場合、同事業の閉鎖はありえるか。同事業とマダガスカル政府の関係はどうなっているか。

答:
 先に述べたとおり、マダガスカルは経済安全保障の観点からも日本にとって重要なパートナー。日本企業が筆頭株主であるマダガスカル鉱山会社が実施するアンバトビー事業は、2022年マダガスカル輸出総額の31%を占め、約9千名の雇用を創出。また、アンバトビー事業では、鉱石採掘からニッケル・コバルト地金まで一貫生産しており、日本は重要鉱物資源のサプライチェーンの多角化・強靱化を通じてマダガスカル経済に貢献している。
 本事業は日本企業の対アフリカ投資案件として最大規模のものであり、雇用や税収等を通じてマダガスカル経済にも大きく貢献している両国間の象徴的な事業であることから、日本政府として同事業の安定的な運営を非常に重視している。
 ニッケル価格の変動等による経営への影響も考えられる中、本事業の安定的な継続に向けて、マダガスカル政府には税制面・法制度面を中心に、引き続き協力をお願いしたい。ビジネス環境の整備は、マダガスカルへの進出や投資を検討している企業や投資家が注目する点である。

問:
 今回のマダガスカル訪問は、TICAD9(2025年)を視野に入れた、本年8月のTICAD閣僚会合の準備の一環と思われるが、TICAD閣僚会合ではどのようなテーマについて議論されるのか、また、大臣の今次マダガスカル訪問では、マダガスカル当局とどのようなテーマについて話し合うのか。

答:
 8月TICAD閣僚会合のテーマは、まさに今回のアフリカ訪問で得るインプットも踏まえて今後決定していくこととなるが、国際社会の分断と対立を協調に導くべく、グローバルな課題の解決に向けてアフリカ諸国と「共創」していくことが主要なテーマになる。
 ラサタ外務大臣との会談では、「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)の具体化に向けた戦略的な協力の推進、二国間経済関係の強化、グローバルな課題の解決に向けた連携促進に向けて意見交換を行う予定。今回の日本の外相としての初めてのマダガスカル訪問を契機に、良好な両国関係を更に発展させていきたい。


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