寄稿・インタビュー
上川外務大臣のG20外相会合出席に際するオ・グローボ紙への書面インタビュー(令和6年2月20日)
「我々は、不平等と貧困に立ち向かう必要がある。」上川外務大臣は、G20議長国であるブラジルが掲げる優先事項への支持を表明し、地球にとっての緊急の課題を指摘する。
ガザ地区でのイスラエルとテロ組織ハマスの戦争は、紛争の解決と予防における国連の役割とは何かという、何十年も協議や演説で取り上げられてきた議論を再び浮き彫りにした。数日中にガザでの停戦を求める新たな決議案が安全保障理事会に提出される予定であるが、米国はこれに拒否権を発動する見込みである。上川陽子外務大臣は、オ・グローボ紙とのインタビューで、日本はブラジルと並んで安全保障理事会を含む国連の変革を擁護すると述べた。上川大臣は、明日からリオデジャネイロで始まるG20外相会合に出席し、貧困との闘いや環境保護等、ブラジルが掲げる優先課題の幾つかへの支持を確約する。
問:
昨年、ルーラ大統領と岸田首相は、気候変動、貧困、飢餓といった問題に両国が共に取り組むことで一致した。日本は、ブラジルが議長を務める今年のG20で、これらの議題を前進させることができると確信しているか。
答:
現在、国際社会は多くの危機に直面しており、国際対話の主要なフォーラムであるG20における協力がますます重要となっている。昨年、日本はG7議長国として、ルーラ大統領が出席したG7広島サミットの成果をG20につなげることに取り組んだ。本年、日本は、G20サミットの成功のため、G20議長国ブラジルと協働したい。
ブラジルは、社会的包摂、貧困との闘い、エネルギー移行及び持続可能な開発をG20における優先事項とした。格差是正・貧困対策は、「人間の尊厳」が守られる世界にするために、不平等及び貧困の問題に早急に対処する必要がある。
日本は、世界の貧困撲滅に積極的に貢献してきた。また、グローバル・ガバナンスについては、安保理改革を含む国連の機能強化が急務であると考えている。
問:
その他に日本が提起しようとしている点は何か。
答:
日本は、G20において、食料やエネルギーなどの強じんなサプライチェーンの構築、女性・平和・安全保障(WPS)を含むジェンダー、AIといった課題を重視している。特に、食料安全保障については、日本はG7議長国として、昨年の広島サミットにおいて、ブラジルを含めた招待国との間で具体的な行動計画をとりまとめた。同計画は、ブラジルの優先課題と合致する。ジェンダーに関しては、格差を是正し、社会・経済のあらゆるレベルで女性の参加を推進することが必要である。
同時に、G20の加盟国であるロシアによるウクライナ侵略は、G20の国際協力の基盤を揺るがしている。ロシアは、G20の殆どのメンバーがこれまで非難してきているにもかかわらず、侵略を続けており、ロシアが即時に部隊を撤退させることが緊要である。ロシアの核による威嚇や使用は断じて容認できない。
日本は、昨年10月のハマスによるテロ攻撃を断固として非難するとともに、悪化するガザの人道状況を懸念している。日本は、可能な限り早期の緊張緩和を追求する各国と意思疎通を行っており、ガザの状況に関する安保理決議についてブラジルと協力を行った。また、パレスチナに対する人道支援を通じて事態に処するために大きな努力をしている。人質の即時解放に向けた積極的な外交努力を続けていく。
問:
1月末、上川大臣は、中国との「互恵関係」を推進し、対話を通じて「建設的かつ安定的な」関係を構築することが重要と述べた。このアプローチと米中の緊張とのバランスをどのようにとるか。
答:
日中両国間には、尖閣諸島を含む東・南シナ海における力による一方的な現状変更の試みをはじめとする多くの課題や懸案があるが、両国には多くの可能性がある。日本と中国は、地域と国際社会の平和と繁栄を確保する上で大きな責任を有する大国である。昨年11月に岸田総理と習近平国家主席は、「戦略的互恵関係」を包括的に推進する意思を再確認し、「建設的かつ安定的な関係」を構築する決意を確認した。この方針に基づき、引き続き、あらゆるレベルで中国と緊密に意思疎通を図っていく。米中関係の安定は、国際社会の安定にとって極めて重要であり、引き続き同盟国たる米国とともに、中国に対して大国としての責任を果たすよう働きかけていく。
問:
地域の政治におけるもう一つの懸念事項は北朝鮮である。日本と北朝鮮の間にエンゲージメントの可能性はあると考えるか。
答:
日本は、戦後、最も厳しく複雑な安全保障環境に直面している。過去2年、北朝鮮は、前例のない頻度で、大陸間弾道ミサイルを含む弾道ミサイル発射を繰り返すなど、一連の挑発行動を取っている。北朝鮮による核、ミサイル開発は、我が国のみならず国際社会全体の平和と安全を脅かすものであり、断じて容認できない。日本は、2002年9月の日朝平壌宣言に基づき、拉致問題、核、ミサイルといった重要な懸案を解決し、不幸な過去を解消して、北朝鮮との関係の正常化を目指している。岸田総理は、日朝間の諸懸案の解決に向け、金正恩委員長との首脳会談を実現すべく、総理直轄のハイレベルでの協議を進めていきたい、と表明した。外務大臣として、このような対話のための外交的努力を主導していく。
問:
ブラジル国民と日本国民は短期滞在の査証が免除となったが、これは両国関係における新たな歴史的な節目になると考えるか。
答:
日本とブラジルは、来年に迎える両国の外交関係樹立130周年に象徴されるとおり、長年にわたる強固な絆で結ばれている。この年が、日本の戦略的グローバルパートナーであるブラジルと共に大きな成功を収め、ブラジルの日系人コミュニティをはじめとする多くの先人たちが築いてきた信頼関係に加え、ビジネス、観光、文化及びスポーツを含め二国間関係がさらに強化されることを期待している。このような中、人的交流の更なる活性化を目指して、日本人のブラジル移住115周年を迎えた昨年、日本は、短期滞在目的で訪日するブラジル一般旅券所持者に対し、査証免除措置を開始した。ブラジルも、日本人に対する査証免除措置をとっており、日・ブラジル両国国民は、査証を取得することなく相互に訪問できることとなった。私は、この措置が二国間関係における新たな歴史的な節目となり、我々の絆の発展に寄与することを確信している。