寄稿・インタビュー
ジェチポスポリタ紙(ポーランド)による林外務大臣書面インタビュー(令和5年9月8日)
「日本はウクライナの味方であり続ける」
林芳正外務大臣:ロシアによるウクライナ侵略は、国際社会が長きにわたる懸命な努力と多くの犠牲の上に築き上げてきた国際秩序の根幹を揺るがす暴挙である。
問:
8月上旬に、岸田総理とユン韓国大統領は初めて、キャンプ・デービッドにおいてバイデン大統領主催のバイ会談に参加した。中国と北朝鮮の脅威を受け、日本が歴史政策を変更し、朝鮮半島占領時代の清算をさらに進める可能性はあるか。
答:
歴史について、日韓間の象徴的なエピソードを一つ紹介したい。5月のG7広島サミットの際に、岸田総理大臣は、訪日したユン韓国大統領と共に、広島の韓国人原爆犠牲者慰霊碑に献花を行い、祈りを捧げた。私もその場に立ち会った。このことは、日韓関係にとっても、また世界の平和を祈る上でも重要なことであったと思う。全ての国は自国の歴史に対して謙虚でなければならない。我が国は、これを真剣に受け止め、実践してきており、戦後の平和国家としての歩みがその証左である。我が国は、戦後一貫して、自由、民主主義、法の支配を擁護し、アジアのみならず世界の繁栄に貢献してきた。こうした日本の歩みは今後も変わらない。今日、我々を取り巻く国際情勢は厳しい。前例のない頻度と新たな態様で弾道ミサイル等の発射を繰り返す北朝鮮、国際秩序の根幹を揺るがし続けているロシアによるウクライナ侵略、東シナ海・南シナ海における力による一方的な現状変更の試みの継続・強化等により、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序が脅かされている。こうした中で、別の意味で象徴性に満ちた地であるキャンプ・デービッドにおいて、8月、日米韓首脳会合が開催された。3首脳が、「日米韓パートナーシップの新時代」を拓いていくことを宣言し、そして、日米韓連携により地域及び国際社会の平和・安定・繁栄を増進するとの力強いメッセージを打ち出したことには、非常に大きな意味があったと考える。現在の前向きな流れをより一層加速させ、日韓・日米韓連携を更に推進すべく、力を尽くしていきたい。
問:
先般、ショイグ露国防相は平壌において、中国高官とともに朝鮮戦争終結70周年記念式典に出席した。ウクライナ侵略という悲惨な結果をもたらした決定によって、ロシアはどの程度中国の従属国になる可能性があるか。
答:
中国とロシアは、ロシアによるウクライナ侵略以降も経済面、軍事面を含め、あらゆる面で緊密な関係を維持・強化している。ウクライナについては、国際法違反の侵略をロシアが続けているにもかかわらず、中国側からはロシアのウクライナ領土からの撤兵を求めるような動きは見られない。私からは中国側に対し、機会あるごとに責任ある対応を求めている。また、軍事面においては、中露共同での軍事演習に加え、日本周辺での共同航行・共同飛行といった一連の動きを最近特に活発に行っている。我が国と地域の安全保障上の観点から、日本の外務大臣として、重大な懸念を持っている。中露関係が今後どのように展開していくか確定的なことは言えないが、我が国としては、ウクライナ情勢をめぐるものも含め、今後の中露関係の進展について、引き続き強い関心を持って注視していく考えである。
問:
ウクライナ軍の反撃は、期待された効果をもたらしていない。日本はどこまでウクライナを支援する覚悟があるか。ロシアに奪われた領土をウクライナが完全に奪還することなく、和平を成立させることは可能か。
答:
ロシアによるウクライナ侵略は、国際社会が長きにわたる懸命な努力と多くの犠牲の上に築き上げてきた国際秩序の根幹を揺るがす暴挙。力による一方的な現状変更の試みは断じて許してはならず、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を守り抜くためには、同志国のみならず、国際社会が結束して断固たる決意で対応していくことが重要と確信している。5月に日本がG7議長国として主催したG7広島サミットでは、G7として、ウクライナに対して外交、財政、人道、軍事支援を必要な限り提供するという揺るぎないコミットメントを着実に実施していくことで一致した。これは、日本が対ウクライナ支援についてG7議長としてリーダーシップを発揮した重要な成果。日本としても、これまでに、ウクライナ関連支援として、人道、財政、食料、復旧・復興の分野で、総額76億ドルを表明し、実施してきている。これら日本ならではの支援を今後とも着実に実施していく。我が国としては、ゼレンスキー大統領が「平和フォーミュラ」において基本原則を示し、公正かつ永続的な平和に向けた真摯な努力を続けていることを、歓迎し、支持している。引き続き、我が国として、同志国と緊密に連携しつつ、公正かつ永続的な平和の実現に向けたウクライナ側の努力を力強く後押ししていく。私もそのために最大限貢献したい。
問:
ドナルド・トランプは、もし再び大統領に当選したら24時間以内にプーチン大統領とウクライナ問題を解決させると宣言している。また、中国と北朝鮮との早期合意を目指している。トランプ氏の再当選は、日本の安全保障にとってどの程度危険なものか。
答:
米国国内の選挙にかかわる事項についてコメントすることは差し控えるが、我が国としても、関心を持って注視している。その上で私の考えを申し上げれば、日米両国間の連携は、かつてないほど強固で深く、日米同盟は揺るぎないことについて、日米間には共通の認識が存在していると理解している。
問:
習近平国家主席が台湾侵略を決行する場合、日本は台湾に援軍を送るのか。ロシアのウクライナでの経験は中国に台湾侵略を促しているのか、それとも抑制しているか。
答:
仮定の質問にお答えすることは差し控える。その上で申し上げれば、台湾海峡の平和と安定は、日本の安全保障はもとより、国際社会全体の安定にとっても重要。台湾をめぐる問題が、対話により平和的に解決されることを期待するというのが日本の従来から一貫した立場である。日本としては、こうした立場を中国側に直接伝えるとともに、関係各国の共通の立場として明確に発信してきた。実際、私は7月の王毅外事工作委員会弁公室主任との会談でも、率直にこの立場を伝えた。また、先般の日EU定期首脳協議でも、台湾海峡の平和と安定の重要性を再確認した上で、台湾に関する基本的立場が不変であることを明らかにし、両岸問題の平和的解決を呼びかけることで一致したことは有意義。なお、ロシアによるウクライナ侵略が国際社会の個別の事案に及ぼしうる影響についても不断に分析しているが、事柄の性質上、その具体的な内容についてお答えすることは差し控えたい。いずれにせよ、ロシアによるウクライナ侵略については、「ウクライナは明日の東アジアかもしれない」との強い危機感を持っており、厳しい対露制裁と強力なウクライナ支援によって侵略に毅然と対応してきている。
問:
大臣のポーランド訪問は、ポーランドの重要な総選挙の1か月前にあたる。新政権が確定し、政治の方向性がより明確になってからの訪問の方が良かったのではないか。
答:
ポーランドは価値と原則を共有する戦略的パートナーである。岸田総理は本年3月及び7月にポーランドを訪問し、ラウ外相には5月に訪日頂いた。私自身、今回3度目となる外相会談を行うのは、貴国の戦略的・地政学的重要性が高まっていることを踏まえてのことである。今回の訪問では、ラウ外相との会談のほか、ポーランド政府要人との会談を行う予定であるが、その際、政治・経済分野のみならず、人的交流を含む幅広い分野での二国間協力関係、国際問題や地域情勢について議論したいと考えている。今回の私のポーランド訪問は、このような日ポーランド関係の重要性を踏まえたものであり、ご指摘の総選挙の日程いかんとは、かかわりない。昨年4月に総理特使として訪問して以来2度目となる今回のポーランド訪問を楽しみにしている。ポーランド政府及び国民の歓迎に感謝する。