寄稿・インタビュー

「日本政府、安全保障面での連携促進と日・サウジアラビア戦略対話強化へ」
(副題:日本外相、本紙に対しリヤド訪問の3つの目的と日・GCC対話について明かす)

令和5年10月16日

 日本の林芳正外務大臣は、今回の訪問について、日・サウジアラビア両国の戦略的関係を強調しつつ、二国間関係を深化する大きな潜在力をふまえ、サウジアラビアのファイサル・ビン・ファルハーン外務大臣との協議において両国間の新たな分野での協力を発展させ、二国間戦略的対話の枠組みで地域及び国際的な安全保障上の課題についての連携を促進し、歴史的な友好関係を強化することを目的としている旨述べた。

 林大臣は、日本と湾岸協力理事会(GCC)メンバー国との初の外相会合は、日本とこれら諸国との間の経済関係の成長を確認するとともに、地域及び国際情勢について戦略的な意見交換のための重要な機会となると強調した。昨年の両者間の貿易額は1億米ドルを超えており、共通の関心事について話し合うことが期待される。

 林大臣は、7月、岸田総理とジャーセム・アル・ブダイウィGCC事務総長との間で、日・GCC自由貿易協定(FTA)交渉の2024年中の再開及びその事前協議の開始が合意されたことに言及し、双方間で貿易と投資を強化するための法的枠組みに係る同協定の交渉が早期に完了することへの期待を表明した。

 林大臣は本紙に対し、「本年7月に岸田文雄総理が中東地域を訪問した際の成果をフォローアップし、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子との会談で合意した『日・サウジアラビア外相級戦略対話』を開催し、政治・経済協力及び国際場裡での連携を強化する」と述べた。また、サウジアラビアがエネルギー分野における重要なパートナーであることに触れつつ、二国間協力は金融、観光、人材育成、スポーツ、文化、エンターテイメントなどの新たな分野に急速に拡大していると述べた。

 林大臣はさらに、「中東地域をクリーンエネルギー供給の世界的ハブにすることを目的とした新たな取組を踏まえ、二国間協力の新たな分野で最も重要な1つはグリーン経済への移行促進と脱炭素である」と述べた。また、岸田総理のサウジアラビア訪問中に発表されたサウジアラビアと日本の「マナール」イニシアティブを通じて、日本は水素とアンモニアの安全な使用技術とこれらの輸送・流通手段に関連する両国間の共同プロジェクトの開発を目指している旨述べた。

 林大臣によれば、日本は「自由で開かれたインド太平洋」のビジョン推進に強く取り組んでおり、両国が法の支配について認識を共有していることに言及した。また、世界42か国以上が出席した最近のジッダ会議を通じてウクライナ危機を克服しようとするサウジアラビアの努力を強調し、同会議が国際舞台でウクライナの公正かつ恒久的な平和の実現について議論する重要な機会となったことに触れ、国際場裡でサウジアラビアとさらに緊密に連携していきたいと述べた。

 中国と台湾との間の緊張と、東・南シナ海の状況を克服しようとする日本の取組みについて、林大臣は、「台湾海峡の平和と安定は、日本を含む国際社会全体の安定にとって極めて重要であり、日本政府は、その立場を堅持し、台湾関連問題が対話を通じて平和的に解決されることを期待している。この観点から、自分は中国に対し、台湾海峡における平和と安定の重要性を繰り返し強調している。同時に、認識を共有する国々のパートナーと緊密に連携し、中国に対して明確に共通の立場を伝えていく」と述べた。

インタビューの詳細は次のとおり

 サウジアラビア訪問の目的は何ですか?

 今回のサウジアラビア訪問は、本年7月に岸田文雄総理が中東地域を公式訪問した結果をフォローアップすることを目的としています。岸田総理とムハンマド・ビン・サルマン皇太子は会談を行い、政治・経済レベルでの二国間協力を強化し、国際場裡での連携に努めるため、「二国間外相級戦略対話」を設置することで合意しました。「二国間外相級戦略対話」において、ファイサル・ビン・ファルハーン外務大臣と、両国を結びつける歴史的友好関係の強化、新たな分野での協力の発展、そして地域的および世界的な安全保障上の課題に関する連携促進について話し合う予定です。

 私のサウジアラビア訪問の第二の目的は、岸田総理とジャーセム・アル・ブダイウィ湾岸協力理事会(GCC)事務総長との会談中において定例開催に合意した「日本・GCC外相会合」の第一回会合を開催することです。

 日本とGCC諸国との間の貿易額は1億米ドルを超え、その経済関係の成長に加え、私は、この会合が、地域・国際情勢に関する戦略的な意見交換のための重要な機会となると確信しています。そして、GCC諸国の外務大臣とこれらの議題について意見交換できることを楽しみにしています。

 こうした文脈において、岸田総理とジャーセム・アル・ブダイウィGCC事務総長が、7月の会談において、日・GCC自由貿易協定(FTA)交渉を2024年中に再開すること、及びそれに向けた事前協議を開始することで一致したことは注目に値します。この協定は、日・GCC間の貿易・投資を促進する法的基盤となることが期待されています。私は、日本の外務大臣としてGCC諸国の外務大臣と協力し本交渉を短期間で完了できることを願っています。

 サウジアラビアと日本の関係についてどのように評価していますか?

 サウジアラビアがアラブ・イスラム世界において先駆的な役割を果たしていることをふまえ、日本はサウジアラビアとの戦略的パートナーシップを非常に重視しています。両国間で長年培われてきた友好関係に基づき、近年では、「日・サウジ・ビジョン2030」の枠組みにおいてパートナーシップが大幅に拡大しています。ファイサル・ビン・ファルハーン外務大臣との間で複数回行われてきた直接会談や電話会談を通じて、日本とサウジアラビアアラビアが二国間関係を深化し、拡大する大きな潜在力を持っていることを確認しました。

 サウジアラビアと日本のパートナーシップとはどのような性質のものですか?

 何よりもまず、サウジアラビアは日本にとってエネルギー分野における重要なパートナーであり続けており、長年にわたる日本への原油の安定供給を通じてエネルギー安全保障の達成に重要な役割を果たしてきています。しかしながら、これが両国間のパートナーシップの唯一の側面ではなく、サウジアラビアはムハンマド・ビン・サルマン皇太子が主導する「サウジ・ビジョン2030」の枠組みの中で産業の多角化や脱炭素を目指しており、そして日本は2017年以来、「日・サウジ・ビジョン2030」を通じてサウジアラビアが取り組んでいる社会経済改革への全面的な支援を表明しています。私は、近年、両国間の協力がエネルギー分野を越えて、金融、観光、人材育成、スポーツ、文化、エンターテイメントを含む新たな分野に急速に拡大していることを嬉しく思います。

 二国間協力の最も重要な分野は何ですか?

 サウジアラビアと日本の新たな協力分野で最も重要な1つは、グリーン経済への移行促進と脱炭素化です。7月に岸田総理がサウジアラビアを訪問した際には、中東地域をクリーンエネルギーや鉱物資源供給のハブにしていくことを目的とし、二国間協力の新たなイニシアティブを提案しました。同訪問時に立ち上げられたサウジアラビアと日本の「マナール」イニシアティブを通じて、日本は、水素・アンモニアの安全利用や高効率のエネルギー輸送・分配に関する技術等の協力案件の開発を目指しています。

 両国間の協力が地域と世界の平和と安定の維持に貢献することに疑いの余地はありません。中東諸国間の関係は改善し、協力が強化されているにも関わらず、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序は依然として世界中で脅威にさらされています。この国際秩序を維持し、地域的・国際的な平和、安定及び繁栄を実現するために、日本は「自由で開かれたインド太平洋」ビジョンの支援に強く取り組んでいます。サウジアラビアと日本は法の支配の重要性について認識を共有していますので、私は、この目的を達成するために国際場裡でサウジアラビアとより緊密に連携することを楽しみにしています。

ウクライナ危機に関するジッダ会議
 ウクライナ危機に関してサウジアラビアが開催したジッダ会議について、どのように評価していますか?

 ロシアのウクライナ侵略は、欧州大陸の安全保障に対する脅威であるだけでなく、主権と領土の一体性を唱える国連憲章の原則に違反する許し難い行為であり、国際社会全体に悪影響を及ぼしています。私たちは、力による一方的な現状変更の試みを許すことはできませんし、許すべきではありません。また、私たちは、この侵略が世界的な食糧及びエネルギー危機を引き起こし、脆弱な国々では食料、肥料、エネルギー価格が高騰していることを危惧しています。

 これに関連して、日本が議長を務め広島で開催された直近のG7首脳会議において、G7諸国とウクライナを含む被招待国の首脳は、次の4つの原則を遵守することで合意しました。第一に、全ての加盟国が国連憲章の原則を順守すること、第二に、対話を通じて対立を平和的に解決することの必要性であり、私たちは、国際法と国連憲章の尊重に基づく公正かつ永続的な平和を支持します。第三に、力による一方的な現状変更の試みは世界のどこにおいても容認されないこと、そして第四に、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を支持するよう努めることです。

 広島におけるG7サミットを受けて、コペンハーゲンでの前回会議の後、サウジアラビアは、国家安全保障担当補佐官による会議をジッダで開催しました。私は、インド、ブラジル、南アフリカ、そして中国等のいわゆるグローバル・サウスの国々からの初参加を含む40か国以上が参加したこの会議を開催したサウジアラビアのリーダーシップと努力に敬意を表します。ジッダ会議の参加者は前回会議のおよそ2倍でした。会議において、多くの出席者が主権と領土の一体性を含む国連憲章の原則を遵守する必要性を強調しました。この会議はロシアの侵略を早期に止め、ウクライナに公正かつ永続的な平和を実現する方法を話し合う重要な機会となりました。

 国際法を遵守し、法の支配に基づく国際秩序を維持することは全ての国の責任であり、全ての国の利益にかなうものです。ジッダ会議で得られた実りある議論を受けて、日本はサウジアラビアを含む国際社会のパートナーと協力し、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を支援し続けます。

 サウジアラビアとイランが二国間関係を正常化するために達した合意は、地域の緊張緩和、及びイエメン危機の解決にどの程度貢献すると思いますか?

 日本は、サウジアラビアとイランが外交関係を正常化することに合意したことを歓迎し、これが地域の安定に向けた前向きな一歩であると考えています。私は、この合意が、イエメン情勢を含む中東地域の諸課題の解決にポジティブに貢献することを期待しています。

 その一方で、私はイエメンの人道状況を憂慮しており、サウジアラビアによるイエメン政府に対する財政支援及びサーフィル号のための国連計画に対する支援を称賛します。日本は、国際社会の責任あるメンバーとして、2015年以降国連が主導する国際救援活動を通じて総額約4億3,000万ドルの人道支援を実施してきました。

 私は、イエメン人同士の対話こそがイエメンの平和と安定を実現するために重要であると確信しています。このため、林克好参与を本年3月及び7月末に派遣し、ホーシー派を含む当事者に対して、現在の停戦状況を紛争終結に向けたイエメン人同士の対話に繋げるべきであり、国連特使の取り組みに協力するべきであるとのメッセージを強調しました。

 私は、ホーシー派に対して地域情勢を激化させる如何なる試みも自制するよう求めるとともに、全ての紛争当事者に対してイエメン国民全体の利益のために状況を安定させるよう建設的に取り組むことを呼びかけます。

台湾…対話以外にはない
 中国と台湾との間の緊張と、それが地域の安全と安定に及ぼす影響についてどう評価しますか?南東シナ海の情勢を鎮静化するための日本のビジョンは何ですか?

 台湾海峡の平和と安定は、日本の安全のみならず、国際社会全体の安定にとって極めて重要です。日本は、台湾関連問題が対話を通じて平和的に解決されることを期待するという立場を堅持しています。この観点から、私は中国に対し、台湾海峡における平和と安定の重要性を発信し続けます。同時に、認識を共有する国々のパートナーと緊密に連携し、中国に対して共通の立場を明確に伝えていきます。

 「東・南シナ海」については、日本の尖閣諸島周辺海域を含む東シナ海及び南シナ海における中国の一方的な力による現状変更の試みや、日本周辺における中国の軍事活動の拡大は、日本を含む地域及び国際社会にとって安全保障上の強い脅威となっています。私は、我が国の立場を確認し堅持するとともに、認識を共有する国々と協力し、中国に責任ある行動を求めると同時に共通の関心事項について協力していきます。私は、日中双方が建設的で安定した関係を築くために取り組んでいくことが重要だと信じています。

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