寄稿・インタビュー
フォーリン・アフェアーズ誌(令和5年5月18日付、電子版)(仮訳)
「ヒロシマの新たな意味」
日本のG7サミットでは、世界秩序の擁護と世界的な危機への対処の両方が求められる(岸田文雄総理)
5月19日から21日まで、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、英国、米国、欧州連合の首脳を広島に迎えて、2023年のG7サミットを開催する。この場所の象徴は、強力かつ意図的なものだ。私が政治家としてのキャリアを通じて代表を務めてきた広島は、初めて核兵器が使用された都市であり、1945年に原子爆弾によって破壊された。この恐ろしい歴史から、私は核軍縮と核不拡散をライフワークとし、核兵器のない世界という理想に燃えてきた。今日、広島の過去は、平和と秩序が崩壊し、不安定と紛争に道を譲ったときに何が起こり得るかを思い起こさせるものであるべきで、それはここ数十年の中で一番必要とされている。
世界は今、歴史の分岐点にある。気候変動やパンデミック、食糧やエネルギーの不安、国際秩序の根幹を揺るがすロシアによるウクライナ侵略など、複合的な危機に直面している。このような背景の中で開催されるG7広島サミットにおいて、我々は、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を堅持するという決意を力強く示さなければならない。同時に、いわゆるグローバル・サウスと呼ばれる国々への働きかけも強化しなければならない。ロシアによるウクライナ侵略は、世界中の、とりわけグローバル・サウスの人々の生活に壊滅的な影響を及ぼしている。その影響に関連する懸念に耳を傾け、対処しない限り、自由で開かれた秩序を維持するために必要な信頼を築くことはできないだろう。
- グローバルな利益
3月、私はウクライナを訪れた。ブチャの街で、私は自分の目でロシアの残虐行為の結果を目にし、これらの残虐行為を生き延びた人々の話を聞いた。同訪問の間、私はウクライナのゼレンスキー大統領を、広島サミットでの議論に参加するよう招待した。これは、ウクライナを支援し、厳格な対露制裁を継続するというG7メンバーの共通のコミットメントを示すものである。広島では、ロシアに対し、ウクライナから全ての軍及び装備を即時かつ無条件で撤退させるよう、改めて要請するとともに、武力による領土の強奪や国際的に認められた国境を力により一方的に変更しようとする試みは許されないことを改めて表明するつもりだ。
G7の中で唯一のアジア諸国である日本は、ロシアによるウクライナ侵略が、ウクライナや欧州だけの問題ではなく、世界中の人々の安全と繁栄に対する脅威であることを世界に明らかにできるユニークな立場にある。ロシアの行動は、法の支配に基づく国際秩序の根幹に挑戦するものであり、国連憲章に謳われた基本原則に違反するものである。ロシアがウクライナで成功すれば、その反動により、欧州だけでなく、インド太平洋やその他の地域でも平和と安定が損なわれるだろう。
また、ロシアによる無責任な核のレトリックが容認できないことを示さなければならない。広島をG7サミットの開催地に選んだのは、7人の首脳が声をそろえて「広島・長崎への原爆投下以来、77年間続いている核兵器の不使用という記録を継続するために、できる限りのことをしなければならない」という緊急メッセージを発信するのに、これ以上の場所はないからだ。そのため、私は、「ヒロシマ・アクション・プラン」に明記された「核兵器のない世界」に向けての実践的かつ現実的な取り組みに注力することを優先してきた。同プランは、核兵器の不使用記録の継続、透明性の向上、世界の核保有量のさらなる削減、核不拡散の確保とその上での原子力の平和利用の促進、国際的指導者などによる広島・長崎への訪問の奨励による核兵器使用の実態の正確な理解の促進が重要であるという認識を共有することを求めている。
また、日本は、「自由で開かれたインド太平洋」が当地域の国々以外にも必要不可欠な理由を説明できるユニークな立場にある。ウクライナの運命が世界秩序の運命と不可分であるように、この地域の未来もまた、対立や分裂よりも協力が勝利するようにしなければならない。インド太平洋地域は、世界の経済成長を牽引しているが、同時に安全保障や経済的な課題を多く抱えている。
私は、先日インドを訪問した際、「自由で開かれたインド太平洋」という日本のビジョンを示した。このビジョンは、「対話によるルール作り」に支えられ、歴史や文化の多様性を尊重し、国家間の平等を確保するものだ。広島では、G7首脳がインド太平洋について議論を深め、G7が一致団結して地域の課題に対応できるようにする。中国の現在の対外姿勢と軍事活動は、日本と国際社会の双方にとって深刻な懸念事項であり、平和と安定に対する前例のない戦略的挑戦である。この課題は、強固な国防と同盟国や志を同じくするパートナーとの協力、そして建設的で安定した関係の構築を目指した中国との定期的な対話を通じて対処されなければならない。
- 困っている友人
日本は、この地域の緊急のニーズに応えることを優先し、インフラプロジェクトに750億ドル以上の公的・民間資金を動員し、政府開発援助に新しいツールを導入し、日本の強みを生かしながら開発需要に合わせた魅力あるプランを開発・提案できる協力形態を開始し、国際協力銀行が民間投資を促進するために官民パートナーシップをより効果的に活用できるようにした。自由で開かれた秩序を守るために各国を結束させるためには、最大の経済・社会問題の解決に貢献することを示すことが不可欠である。
しかし、ロシアによるウクライナ侵略は、多くの共通の課題を悪化させており、G7諸国は、特にグローバル・サウスの人々の生活への影響を緩和するために、もっと努力しなければならない。広島サミットは、例えば、持続可能な開発のために官民パートナーシップを活用し、安定したエネルギー供給を確保し、経済の強靭性と安全保障を強化するために、各国がどのように協力できるかを議論する機会となるであろう。私たちは、新興国への投資、特にクリーンエネルギー技術のサプライチェーンにおける新興国の役割拡大など、多様化を通じて、経済安全保障に対するリスクやサプライチェーンにおける脆弱性に対処することができる。
これは、気候変動との闘いの進展を犠牲にすることなく実行可能だ。ロシアによるウクライナ侵略は、国際社会にエネルギー安全保障の重要性を再認識させたが、2050年までにネットゼロを達成するというパリ協定の目標もあきらめるわけにはいかない。私は、各国の事情を考慮しながら、強靭なエネルギー転換に向けた多様な道筋を示していくことが必要だと考えている。そのためには、気候変動に対して脆弱な人々や、排出削減目標を達成するために支援を必要とする人々をさらに支援することが必要だ。日本は、日本の技術やシステムを活用してエネルギー転換を支援する「アジア・ゼロ・エミッション共同体」を提案し、私たちの地域でもこの課題を推進してきた。
G7広島サミットは、いずれにせよ、世界の転換期となる瞬間である。自由で開かれた国際秩序を強化し、グローバル・サウスを含む世界中の人々のニーズに積極的に応えていく決意を表明するまたとない機会である。私は、G7広島サミットの議長として、そのためのリーダーシップを発揮することを約束する。