寄稿・インタビュー
日本外国特派員協会(FCCJ)における記者会見
林外務大臣出演:冒頭スピーチ
本日は講演の機会をいただきありがとうございます。前回、私(林大臣)がFCCJで講演したのは2021年9月、私が外務大臣に就任する前です。当時は新型コロナウイルス感染症により、日本を含む各国の外交活動は大きな制約を受けていました。
FCCJにおいても、コロナ禍では対面での講演ができない時期もあり、新たな様式を取り入れて情報発信を絶えず続けておられたと承知します。その裏にはたくさんの苦労があったであろうと思いますが、そうした時期を経て、本日、約2年ぶりに対面とオンラインで皆様にお会いできることを嬉しく思います。
この2年間で、世界情勢はめまぐるしく変わりました。昨年2月、ロシアがウクライナ侵略を開始し、日本を含む国際社会はロシアを厳しく非難し、ロシアに対し制裁措置を科してきました。しかし、残念ながらロシアの暴挙は今も続いています。
ロシアによるウクライナ侵略は、欧州のみの問題ではありません。欧州とインド太平洋の安全保障環境は不可分です。「今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」。我々はこのメッセージを国際社会に繰り返し訴えてきました。
世界がグローバルな諸課題を抱える中、昨年は、私自身、G7外相会合に11回参加し、今年、日本はG7議長国のバトンをドイツから引き継ぎました。2月のミュンヘン安保会議に各国外相が一同に会した機会を捉え、日本議長下で初となるG7外相会合を対面で開催しました。
これに続き、4月には長野県軽井沢でG7外相会合を開催し、広島サミットへの準備を進めました。
長野県軽井沢においては、G7外相コミュニケを発出しました。ここでは、G7として初めて、日本が重視する「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序」へのコミットメントや、「世界のどこであれ」一方的な現状変更の試みに強く反対することを文書の形で確認することができました。
また、軍縮・不拡散についても詳細な議論を行ったほか、グローバル・サウス諸国との協力、エネルギーや食料安全保障といった世界が直面する課題などについてしっかりと議論を行いました。
そして、皆様の記憶にも新しいかと思いますが、先月には広島でG7サミットを成功裏に開催することができました。G7メンバー、招待国・機関と率直かつ踏み込んだ議論が行われました。
本日は、先日開催したG7広島サミットの成果を御紹介するとともに、今後の日本外交についてお話します。
国際社会が歴史的な転換期にある中で開催された今般のG7広島サミットでは、G7の揺るぎない結束を改めて確認することができました。
そして(1)全ての国が国連憲章の原則を守るべきこと、(2)対立は対話によって平和的に解決することが必要であり、国際法や国連憲章の原則に基づく公正で恒久的な平和を支持すること、(3)世界のどこであっても、力による一方的な現状変更の試みを許してはならないこと、(4)法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を守り抜くことについて、招待国も含めて一致することができました。当初のねらいどおりの成果が達成できたと考えています。
加えて、食料・エネルギー問題を含む世界経済はもちろん、さらには気候変動や開発、国際保健、AIなど、幅広いグローバルな課題についても議論を深め、今後の対応の方向性について確認しました。
また、今次サミットを被爆地広島で開催することとした大きなねらいは、各国首脳に被爆の実相に触れていただき、それを世界に発信していただくことでした。その点、特に平和記念資料館訪問では、各首脳が揃って、静謐かつ厳粛な雰囲気の中、被爆の実相への理解を深めてもらえる、歴史的な、貴重な機会とすることができたと感じています。その成果は、各首脳が資料館訪問後に記した芳名録におけるメッセージの内容にも明確に現れていると感じています。
また今回、核軍縮に焦点を当てたG7初の独立首脳文書である「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン」の発出を得て、引き続き、現実的で実践的な取組を継続・強化していきます。
ロシアのウクライナ侵略に関しては、ゼレンスキー大統領にも議論に参加いただき、G7とウクライナの揺るぎない連帯を示すとともに、G7として厳しい対露制裁と強力なウクライナ支援を継続していくこと、ウクライナに平和をもたらすため、あらゆる努力を行うことを確認しました。
また、今回、G7サミットでは初めて経済的強靭性・経済安全保障を独立したセッションで扱いました。多角的貿易体制の重要性は変わらない一方で、「グローバル・サウス」を含む国際社会全体の経済的強靭性と経済安全保障を強化していくことも必要です。
そのために、G7として、サプライチェーンや基幹インフラの強靱化、経済的威圧に関するプラットフォームの立上げなどの取組を強化していきます。
今回のサミットは、アジア唯一のG7メンバーである日本で開催したこともあり、インド太平洋についても、しっかり議論しました。岸田総理は「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)のための新たなプランを説明し、引き続き、G7としてFOIPの実現のために協力していくことで一致しました。
FOIPの考え方の根底には、「自由」と「法の支配」の擁護があります。つまり、脆弱な国にこそ「法の支配」が必要であり、主権や領土一体性の尊重、紛争の平和的な解決、武力の不行使など、国連憲章上の原則が守られていることが、国際社会で「自由」が享受される重要な前提といえます。
また、同じく重要なFOIPの理念は、「多様性」、「包摂性」、「開放性」の尊重です。誰も排除しない、陣営作りをしない、価値観を押し付けないということです。
今の歴史の転換期に特徴的なことは、国際秩序の在り方について、皆が受け入れられるような考え方が欠如していることです。国際関係のパラダイムが変わり、次の時代の基調となる考え方を模索している今の状況において、いま述べたようなFOIPの基本的な考え方の妥当性が増しています。
いま求められていることは、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持・強化するというFOIPのビジョンを国際社会の幅広いパートナー間で共有し、世界を分断や対立ではなく、協調に導くことなのです。
G7サミットは閉幕しました。しかし、日本は年末までG7議長国でありますし、9月にはG20ニューデリー・サミットやSDGサミット、12月には日ASEAN特別首脳会議など、「グローバル・サウス」を含む国際的なパートナーと連携する機会は続きます。
特に、国際社会で強い影響力を有する国々が集まるG20との連携は、今、特に重要です。我が国としては、G7広島サミットの成果を、インドで開催されるG20ニューデリー・サミットにもつなげます。食料、開発、保健といった各課題における具体的な協力を打ち出していきます。引き続きG7を超えた幅広い国際的なパートナーとの協力を推進していきたいと考えます。
ASEANとの関係への言及も忘れてはなりません。先日のG7広島サミットにはASEAN議長国を務めるインドネシアとASEAN加盟国のベトナムを招待しました。
1973年以来、目覚ましい発展を遂げてきた日本とASEANの関係は、本年、友好協力50周年を迎えます。日本は、FOIPと本質的な原則を共有する「インド太平洋に関するASEANアウトルック(AOIP)」を全面的に支持しています。
AOIPの優先4分野である、海洋協力、連結性、SDGs、経済等に沿った具体的協力を引き続き実施していきます。そのために、3月には、日ASEAN統合基金に新たに1億ドルを拠出することを表明しました。
日本は、50周年のこの機会に、ASEAN側とよく対話し、ニーズをよく踏まえながら、これらの取組を力強く推進していきます。12月の日ASEAN特別首脳会議では、新たな協力のビジョンと幅広い具体的協力を打ち出す考えです。
また、2023年、日本はG7議長国を務めるとともに、国連安保理に席を占め、国際社会を一層主導していく責任ある立場にあります。今年1月の日本の安保理議長月に、私(大臣)は、法の支配に関する閣僚級安保理公開討論をニューヨークで主催しました。このテーマを選んだ理由は、法の支配こそが、様々な挑戦に直面する今の世界に不可欠と考えたからです。
法の支配は安保理改革とも無関係ではありません。法の支配の推進というのは多国間主義の基盤です。国連は多国間主義の中核であり、安保理はその守護者。その安保理の改革、これは待ったなしです。同時に、安保理だけでなく、総会や事務総長の役割強化も含む国連全体の機能強化も重要です。 安保理改革を含む国連の機能強化に向け、引き続き努力していきます。
日本のG7議長年は続きます。今後とも、私(大臣)はカウンターパートであるG7外相との対話を続けます。法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持・強化する、そして、国際的なパートナーとの関係を強化する。こうした観点から、引き続き、G7の議論を主導し、議長年の務めをしっかりと果たすべく、外交努力を重ねて参ります。