寄稿・インタビュー

「日本はマレーシアと協力し、南シナ海とインド太平洋の平和を維持する: 日本外相」

令和4年10月24日

 国際社会の繁栄と安定を確保するため、日本は「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現に向け、マレーシアや各国との具体的協力を推進しており、その基本原則の多くはインド太平洋に関するASEANアウトルック(AOIP)と共有される。
 日本の林芳正外相は、特に北朝鮮による核・ミサイル開発や、東シナ海・南シナ海における力を背景とした一方的な現状変更の試みを含め、地域の安全保障環境は一層厳しさを増していると述べた。
 「共に民主主義国家であり、貿易立国であり、海洋国家である日本とマレーシアの発展を可能にしたのは、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序に他ならない。こうした考えの下で、日本はFOIPの実現に向けた取組を推進している。」
 さらに、日本は、マレーシアも加盟している東ASEAN成長地域(BIMP-EAGA)の活性化にも期待していると述べた。
 「海賊、テロ、自然災害が多発し、経済・社会的に脆弱な地域であるスールー・セレベス海とその周辺地域に対する協力を含め、マレーシアと手を携えて地域の安全と繁栄に向けて取り組んでいきたい。」
 「この(二国間の)協力の将来には大きな潜在力がある」と林大臣は述べた。
 林大臣は、日本とマレーシアの外交関係樹立65周年及び東方政策(LEP)40周年を機に二国間関係を強化するにあたり、10月8日(土)から2日間、マレーシアを訪問し、ベルナマの書面インタビューに対してこのように述べた。
 また、来年は日ASEAN友好協力50周年を迎えることから、林大臣は、10カ国からなる地域共同体との連携を一層深めていきたいと述べた。
 マレーシアと日本は、日本の岸田文雄首相が外務大臣としてマレーシアを訪問した2015年に、二国間関係を強化されたパートナーシップから戦略的パートナーシップに引き上げた。
 日本は、実施済みの製造業におけるプロジェクトにおいて、マレーシアの外国直接投資(FDI)の上位に位置し、今年1月から6月までの総投資額は6億8,800万米ドル(30億3千万リンギ)を記録している。

 ベルナマによる林大臣への書面インタビューの全文は以下のとおり。

(問1)65年に及ぶ日・マレーシア外交関係の現状をどのように見ているか。また、今後10年間に両国がさらに強化すべき協力分野は何か。40年目を迎えたマレーシアの東方政策への新たな関心や、マレーシアでの筑波大学分校の設立は、二国間関係をさらなるレベルへと押し上げる重要なアジェンダになるか。その他に、東方政策の精神を新たにするような材料は何かあるか。

(答)外交関係開設65周年及び東方政策40周年の節目の年に、外務大臣としてマレーシアを訪問でき嬉しい。本年は、3月の総理特使としての安倍元総理のマレーシア訪問や、5月のイスマイル・サブリ首相やサイフディン外相、アズミン・アリ上級大臣兼国際貿易産業大臣等の訪日等、ハイレベル訪問が次々と実現している。これは良好な二国間関係の証左である。
 日本とマレーシアは、長きにわたり良好な関係を共に築いてきた。今、世界に目を向ければ、ロシアによるウクライナ侵略や力による一方的な現状変更の試みにより、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序が挑戦にさらされている。また、気候変動といった地球規模課題など、その他の課題も山積みである。日本とマレーシアは、基本的価値や戦略的利益を共有する戦略的パートナーとして、次の時代の国際秩序作りに共に取り組みたい。また、経済、安全保障、人的・文化交流といった分野で、そして地域とグローバルな課題への対処において、その協力のすそ野を広げる大きな潜在性を有している。自分は、マレーシアと幅広い分野において具体的協力を更に積み重ねていきたい。
 本年40周年を迎える東方政策は、良好な日・マレーシア二国間関係と、マレーシアの発展の基礎である。本年、多くの40周年記念行事が開催されていることを歓迎する。コロナ禍を克服しつつある今、時代の要請に応えるべく、同政策を常に進化させることが重要であり、時宜を得ている。例えば、マレーシアの優先分野であるサプライチェーン強靱化やデジタル、グリーン等の分野に拡大していくことも一案である。
 日本有数の国立大学である筑波大学によるマレーシアにおける分校設置計画は、東方政策の新たな展開の一つである。実現すれば、日本の大学による初の海外の分校設置となる。同分校が、ASEANや近隣地域における日本式高等教育の拠点となり、多くの優秀な若者が輩出され、各界で活躍されることを期待する。是非、未来ある多くのマレーシアの皆さんに、筑波大学分校で学んでいただき、将来のパートナーとなっていただきたい。

(問2)南シナ海とインド太平洋地域の平和と繁栄を維持・強化するために、マレーシアと日本はどのように協力できるか。自由で開かれたインド太平洋(FOIP)とインド太平洋に関するASEAN・アウトルック(AOIP)の実現に向けて、日本は安全保障や海上安全、能力開発について何をどのように貢献できるか。

(答)北朝鮮による核・ミサイル開発や東シナ海・南シナ海における力を背景とした一方的な現状変更の試みを含め、地域の安全保障環境は一層厳しさを増している。共に民主主義国家であり、貿易立国であり、海洋国家である日本とマレーシアの発展を可能にしたのは、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序に他ならない。
 この秩序の維持・強化こそが、日・マレーシア両国のみならず、国際社会全体の平和と安定を確保し、繁栄をもたらすものである。こうした考えの下で、日本は「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現に向けた取組を推進している。特に、FOIPと多くの本質的な原則を共有する「インド太平洋に関するASEANアウトルック(AOIP)」を支持しており、双方の実現に向けて、マレーシアを始めとする各国と具体的な協力を推進している。
 具体的には、日本は2016年にマレーシア海上法令執行庁に対して二隻の巡視船を供与した。この二隻は今日、マレーシア周辺海域を守るために十二分に活用されていると承知している。さらには、日本は、マレーシア海上法令執行庁設立当時の2005年から海上保安職員の能力向上支援を行っている。今や、日本とマレーシアは、マレーシアの海上保安職員が指導役を務める形で、第三国に対して海上保安分野に係る研修を行っており、こうした分野においても重要なパートナーである。
 さらに、日本は、マレーシアもメンバーである「東ASEAN成長地域(BIMP-EAGA)」との協力を再活性化していく。海賊、テロ、自然災害等が多発し、経済・社会的に脆弱な地域であるスールー・セレベス海とその周辺地域に対する協力を含め、マレーシアと手を携えて地域の安全と繁栄に向けて取り組んでいきたい。自分はこの協力の未来に大きな潜在力を感じている。

(問3)世界がインフレ圧力、食料・エネルギー安全保障問題、ウクライナ・ロシア紛争の影響によるサプライチェーンのボトルネックに直面する中で、先進国である日本は、マレーシアのような途上国が今後の課題を軽減できるよう、リーダーシップを発揮していく自らの役割をどのように見ているか。

(答)ロシアによるウクライナ侵略により、エネルギーや食料の世界的な供給不足、価格高騰などが深刻化している。廉価な食料、エネルギーへのアクセスはベーシックヒューマンニーズであり、現在、これらがかつてなく脅かされていることを深く憂慮している。影響を受けやすい脆弱な国への支援を通じ、人間一人ひとりに食料・エネルギーへのアクセスを確保することが必要である。
 日本は、脆弱な国々への食料支援を力強く実施してきている。例えば、中東・アフリカ諸国に対する食料支援やウクライナからの穀物輸出再開支援を実施してきた他、8月に日本が開催した第8回アフリカ開発会議(TICAD8)では、食料生産強化支援や農業分野の人材育成を行うことを発表した。アジア地域についても、WFP等とも連携しつつ、食料安全保障や栄養状況改善に資する取組を実施している。
 エネルギーについても、日本は、原油生産国に対する増産の働きかけ、国際エネルギー機関(IEA)などの国際機関等との連携を通じて、国際的なエネルギー市場の安定化に努めてきている。また、脱炭素化に向けたエネルギー移行において、各国の事情に応じた多様な道筋を追求すべきこと、新興国や途上国に対して、ファイナンス支援や人材育成等で積極的に関与していく旨をG20等で主張し、国際場裡の議論をリードしている。もちろん、天然ガスは非常に重要なエネルギーであり、アジアでのLNGの最大級のサプライヤーであるマレーシアの貢献にも期待している。
 来年、日本はG7議長国を務めるが、その中で、引き続きエネルギー安全保障や食料安全保障の確保に向けた国際社会の貢献をリードしていきたい。

(問4)日本とマレーシアの両国は、来年、日本・AEAN友好協力50周年を迎える。マレーシアを含むASEANは、日本をあらゆる分野で重要なパートナーとして見ている。日本は、特に気候変動に取り組むための重要な要素である自然エネルギーやグリーンテクノロジーの分野での交流をさらに促進するために、何か具体的なプログラムを展開するか。

(答)日本はASEANと長きにわたる関係を有し、緊密なビジネス・パートナーであるのみならず、心と心の繋がる真の友人である。過去半世紀にわたり、政治・安全保障、経済、社会・文化の分野で協力を積み重ね、地域の平和と安定、繁栄のために貢献してきた。
 特に気候変動対策については、日本は昨年10月の日ASEAN首脳会議において、「日ASEAN気候変動アクション・アジェンダ2.0」を発表した。その中で、カーボンニュートラルの実現に向け、能力開発や技術的ノウハウの共有を通じてASEAN各国との協力を推進していくと表明した。
 また、「アジア・エネルギー・トランジション・イニシアチブ(AETI)」を含め、エネルギー移行のロードマップ策定、技術協力、人材育成を通じ、ASEAN各国を包括的に支援する考えである。日本は、各国の様々な実情を直視しつつこのような支援を推進し、脱炭素化・強靱化に取り組むという「アジア・ゼロエミッション共同体構想」を打ち出しているところである。
 来年、日ASEAN友好協力50周年という歴史的な節目を迎えるにあたり、一層連携を深めていきたい。

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