寄稿・インタビュー
林外務大臣書面インタビュー
(2022年10月7日付、ストレーツ・タイムズ紙(シンガポール))
「地政学的リスクが高まり、日本がアセアンとの緊密な関係を模索する中、 シンガポールは重要な同盟国である」
シンガポール - 林芳正外相(61)は、日本が掲げる「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)の前面に立って、重要な局面を迎えている。
ロシアのウクライナ侵攻は世界的な食糧・エネルギー危機を引き起こし、中国の外交政策は、数十年にわたって地域の安全保障の基盤となってきた欧米主導の国際秩序を揺るがせている。
林氏は、東京大学法学部を卒業し、ハーバード大学ジョン・F・ケネディ行政大学院で行政学の修士号を取得したベテラン政治家で、岸田文雄総理大臣の後継者になる可能性があるとみられている。
土曜日にシンガポールを初めて公式訪問するのを前に、ストレーツ・タイムズ紙とのインタビューで、戦略的な問題や二国間の問題に触れた。以下はその抜粋である。
(問)世界秩序の維持が急務となる中で、日本とシンガポールはロシアのウクライナ侵攻を非難したアジアで数少ない国だが、防衛・安全保障面でのパートナーとしてのシンガポールの役割をどのようにみているか。
(答)ウクライナ国内における「住民投票」と称する行為やロシアによる「編入」と称する行為は、ウクライナの主権と領土一体性を侵害し、国際法に違反する行為であり、認めてはならず、強く非難する。
この点、シンガポールはロシアの侵略に一貫して毅然とした対応を取っている。引き続き、シンガポールを始めとする国際社会と連携しつつ、強力な対露制裁及びウクライナ支援の二つの柱にしっかり取り組んでいく。
ロシアによるウクライナ侵略が原因である世界的な食料危機やエネルギーといった諸課題についても、シンガポールとの連携を深めていきたい。
ウクライナ情勢のみならず、北朝鮮による核・ミサイル開発や東シナ海・南シナ海における力を背景とした一方的な現状変更の試みを含め、我々をとり囲む安全保障環境は一層厳しさを増している。
法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化こそが、日・シンガポール両国のみならず、国際社会全体の平和を確保し、繁栄をもたらすものである。こうした考えの下で、日本は「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現に向けた取組を推進。特に、FOIPと多くの本質的な原則を共有する「インド太平洋に関するASEANアウトルック(AOIP)」を支持しており、双方の実現に向けて、シンガポールを始めとする各国と具体的な協力を引き続き推進していく。
かかる観点からも、防衛装備品・技術移転協定の早期締結に向けた取組を始め、防衛・安全保障面でも日本はシンガポールとの連携を深めていきたい。
(問)日本・シンガポール経済連携協定(JSEPA)が発効して20年になる。今後、どのような節目を迎えるか。
(答)日・シンガポール経済連携協定(JSEPA)は日本が初めて締結した二国間EPAであり、日本としては、JSEPAの下での取組を通じ、日・シンガポール両国が自由貿易、デジタル、気候変動、人の往来の活性化等の分野で旗振り役を務め、地域の経済関係強化に貢献することが重要と考えている。
(問)激動の時代に安定した経済秩序を確保するために、多国間の枠組みにはどのような価値があると考えるか。
(答)現在、日本とシンガポールは共にCPTPP、IPEF、RCEPといった各種経済枠組みのメンバーとなっており、地域の平和と繁栄の基礎となる自由で公正な経済秩序を広げるための重要な役割を担う。
特にCPTPPについては、そのハイスタンダードを維持すること、さらには経済的威圧や不公正な貿易慣行を許容しないという精神と原則を堅持することが肝要である。
加えて、米国による地域の経済秩序への関与を強化するIPEFの議論の進展に貢献することや、RCEP協定の完全な履行の確保も重要である。日本とシンガポールが共に参加する枠組みを通して、地域の自由で公正な経済秩序の維持・強化に取り組むべく、今後とも連携を深めていきたい。
(問)食料とエネルギーのサプライチェーンを強化するために、意味のある共同歩調をとることができるか。
(答)ロシアによるウクライナ侵略が深刻化させたエネルギー・食料の危機を深く憂慮している。廉価な食料、エネルギーへのアクセスはベーシックヒューマンニーズであるが、現在これらがかつてなく脅かされている。人間一人ひとりに食料・エネルギーへのアクセスを確保することに、国際社会が一丸となって取り組む必要がある。
シンガポールは海洋物流の拠点として、世界のサプライチェーンにとり、大きな役割を果たしていると評価しており、引き続き、シンガポールの役割に期待する。
来年、日本がG7議長国を務めることも念頭に、国際社会と連携しつつ、食料やエネルギーの安全保障の確保に向け、国際社会の議論や影響を受けやすい国への支援をリードしていきたい。
(問)日本とシンガポールの旅行関係は今後どのように強化されるか。
(答)両国間の人の往来は重要である。人的交流は国と国の関係を支える重要な柱である。
コロナ禍以前には、年間でシンガポールの総人口の約10分の1にあたる約49万人に訪日いただいていた。旅行先としてシンガポールの皆様に日本が愛されていることを嬉しく思う。
こうした中、10月11日から、シンガポールの皆様が、再び、査証を取得せずに日本への個人旅行を行えるようになる。今回の緩和が日・シンガポール間の往来の再活性化に繋がることを期待している。シンガポールの皆様を、大いに歓迎したい。
羽田空港(成田空港より東京の中心地に近い)を含む日本とシンガポールとの航空接続性の将来的な強化については、両国当局間で対話が行われてきており、当局間の連携に期待する。
人的交流を通じ、日・シンガポール間の相互理解が更に深まり、重層的な二国間関係の一層の強化に資するものと確信している。
(問)来年、日本とアセアンの関係は節目の年を迎えるが、インド太平洋で中国の主張が強まる中、日本とアセアンの関係はどうなるか。
(答)日本は、ASEANとの半世紀にわたる関係の中で、緊密なビジネス・パートナーであるのみならず、心と心の繋がる真の友人として、地域の平和と安定、繁栄のために協力してきた。
また、日本は、ODA(途上国に対して支援を行う)や日・ASEAN統合基金(ASEAN統合の取組及び日本との協力を推進する)等を通じ、域内格差の是正支援など、長年にわたり様々な分野でASEANの更なる統合の深化を全面的に支援している。
ロシアによるウクライナ侵略や力による一方的な現状変更の試みにより、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序が重大な挑戦を受けている。
今こそ、日本とASEANが緊密に連携し、協力を強化していくことが重要である。特に、日本が推進するFOIPと、AOIPも、開放性、透明性、包摂性、法の支配といった本質的な原則を共有している。日本はAOIPを支持しており、AOIPを通じた協力を推進していく。
来年、日ASEAN友好協力50周年という歴史的な節目を迎えるにあたり、共に新たなビジョンを打ち出し、新たな歩みを進めていきたい。