寄稿・インタビュー

「両国の伝統的友好関係は不変」

令和3年8月24日

 今回、古代ペルシャ帝国からの悠久の歴史を有し、現在の中東地域情勢の鍵を握る大国であるイランを訪問することを嬉しく思います。学生時代に初めてイランを訪れ、ペルセポリス等の偉大なイラン文化遺産に感動し、情に厚くおもてなし精神にあふれたイランの皆さまと触れ合ったことは、今でも私の記憶に深く刻まれています。

 現在、日本は、JICA、JCCME等を通じた医療、環境、地震対策、水、電力等、日本が強みを有する分野の専門家の派遣や研修制度を活用し、イランの皆様に技術協力を行っていますが、このような日本とイランの人的交流に基づく関係は、実は1000年以上の長い歴史に裏付けられているものです。アジアの東の端と西の端に位置する両国ですが、日本の古都として知られる奈良にある1000年以上前に海外から伝来した宝物を納めた「正倉院」には、ササン朝ペルシャから伝来したガラス器が大切に保存されています。また、奈良にある宮殿跡から出土した木簡には、イラン人の役人と見られる名前が記されていました。このイラン人は当時先進的な学問であった天文学等の知識を日本人に教えていたと言われています。

 最近の人的交流としては、何といっても、イランを含め多くのアスリートが参加した東京オリンピック・パラリンピック大会です。残念ながら、一般外国人の観戦目的での訪日が制限される中ではありましたが、イラン選手団は、オリンピック大会で金メダル3個、銀メダル2個、銅メダル2個を獲得しました。この場を借りてイランの国民の皆様に祝意を表します。24日から始まるパラリンピックでも、多くのイラン選手が活躍することを願っています。新型コロナウイルス感染症の影響を受けて国際的な往来が著しく制限されている現在ですが、これが終息した暁には、日本とイランの人的往来が以前よりも活発化することを期待しています。

 このような草の根レベルの人的交流に加えて、二国間関係の強化には両国政府の緊密な意思疎通が不可欠です。今回、私は、先日発足したばかりのライースィ政権といち早く意見交換をすべくイランを訪問することとしました。日本の外務大臣としてイランを訪問するのは約2年ぶりであり、結果的に、新政権と対面会談を行う初めての主要先進国・アジアの外国要人となりました。両国の伝統的友好関係を更に深化させるため、胸襟を開いた議論を行えることを楽しみにしています。なお、7月下旬、日本は、イランにおける新型コロナウイルス感染拡大の防止に寄与するために、日本からの支援の一環として、日本国内で製造したワクチン計約290万回分を供与しました。この支援は、これまでの日本とイランの間の長きにわたる友好関係に鑑みて、私自身が決定したものです。日本から海外への供与数としては最大級であり、COVAXファシリティを通じたワクチン供与では最速のものです。日イランの協力関係強化の一助になれば幸いです。

 原油の約9割を中東地域から輸入する日本にとって、中東地域の平和と安定は極めて重要です。また、中東地域からの石油の安定供給は、我が国を含む世界経済の安定と成長にとっても不可欠です。この観点から、中東地域の大国であるイランの役割が非常に大きいことは論を俟ちません。日本は、イランとの伝統的な友好関係を活かし、中東地域の緊張緩和と情勢の安定化に向けた積極的な外交努力を継続するとともに、日本とイランの二国間関係の強化に努めていきます。


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